車の乗り心地を支える「ダンパー」…ってナニ?!
KYB 極微低速バルブ(スウィングバルブ)搭載ショックアブソーバ
自動車を普段から運転するという方でも、車の仕組みについて詳しく知っているという方はなかなか少ないのではないでしょうか。
ガソリンを給油して、そのガソリンがエンジンの中で爆発して…といった基本的なことは多くの方がご存知かと思いますが、自動車の足回りの仕組みについてご存知の方は、相当なカーマニアといえるでしょう。
自動車は、さまざまな消耗部品で成り立っており、故障していなくても性能が落ちてきた部品は交換する必要があります。あまり知られていないかもしれませんが、自動車の足回りの部品も段々と劣化して性能が悪くなってしまうので、走行距離がかさんだ車両などでは新しく交換することで乗り心地を大きく改善できることがあります。
その改善の効果を感じやすく、かつ自動車の正常な運転にも欠かせない大事な足回りの部品こそ、「ダンパー」です。
ダンパーとは何か、どのように劣化が進むのか、そしてどうすれば改善することができるのか。詳しく見ていきましょう。
■車のサスペンションは「ダンパー」と「スプリング」の組み合わせ
KYB Lowfer Sports ダンパー(左)、スプリング(右)
愛車のタイヤとボディの隙間から中を覗いてみると、頑丈そうなバネがあり、車種によってバネの内部であったり別の位置に取り付いていたりと違いはあるものの、近くには筒状の部品が取り付けられていることが見えるはずです。
この筒状の部品のことを「ダンパー」や「ショックアブソーバー」と呼び、バネのことは「スプリング」と呼ぶことが多いです。自動車のサスペンションは、スプリングとダンパーの組み合わせと、各部品の接続部に組み込まれたブッシュなどによって、路面の凸凹などを吸収しています。
自動車のサスペンションというとスプリング単体というイメージが強くあるかもしれません。確かにスプリングは、縮む方向に変形することで路面の凸凹による車体の動きを吸収するはたらきがあります。
しかしスプリングだけでは、縮んだあとは伸びる方向に変形してしまい、その後はまた縮み、伸び、縮み…と変形を繰り返してしまうので、その結果車体はずっと揺れ続けてしまって、乗り心地に悪影響を及ぼします。
スプリングによって吸収した車体の動きを、徐々に収束させていく役割を担っているのがダンパーであり、この動きを収束させるはたらきのことを「減衰」と呼びます。
ダンパーは、筒の内部にオイルなどが入っており、筒が伸び縮みする際にオイルなどが動きの抵抗となることで、運動エネルギーを熱エネルギーに変換して揺れを収束させていくことができます。
スプリングの動きをそのまま熱エネルギーに変換してしまうだけでは、細かな路面の不整さえうまく吸収できず、車内はガタガタ揺れて快適性が損なわれます。そのため乗り心地に優れたサスペンションでは、細かな振動はスムーズにスプリングが動いて吸収しつつ、大きな揺れに対してはしっかりとダンパーが働くよう、セッティングが非常にきめ細やかに行われています。
■ダンパーが劣化すると、乗り心地がどう変わる?
レクサス IS スウィングバルブショックアブソーバー
ダンパーが劣化すると、乗り心地にどのような変化が発生するのでしょうか? 先ほどご紹介したダンパーのはたらきを考えると、わかりやすくなります。
ダンパーはオイルやガスなどが内部に入っており、それらをしっかりと内部に密閉できていれば正常に作動します。しかし、経年劣化によって摩耗してしまったり、走行時に異物を噛み込んでしまったりなどして、密閉しているシール部分がダメージを受けてしまうなどすると、オイルやガスなどが外部に漏れてしまい、内部の圧力が抜けてしまうのです。
内部の圧力が抜けてしまうと、スプリングの変形を収束させる力がうまくはたらかなくなるので、車体の揺れが長く続いてしまうようになってしまったり、加減速やコーナリング時の車体の動きが不安定になってしまったりといった症状が出ることもあります。
もしくは、路面の凹凸によっては車体の揺れが大きく増長されてしまうような動きになる場合もあります。
シャキッとしたスポーティな乗り心地を理想とする方なら、ダンパーが劣化していなくても車両の動きが大きすぎると感じる場合もあるかもしれません。社外品のダンパーなら、減衰力がダイヤルなどで取り付け後にも設定変更できるものもあるなど、好みに応じた追い込みがしやすくなります。ダンパーの性能が劣化しているかどうかに限らず、社外品のダンパーの導入を検討してみてもいいかもしれません。
■中古で購入した車だと劣化に気づきにくい?交換目安の距離・年数は
BMW M6
新車購入した車にお乗りなら、新車時のフィーリングがなんとなくわかっていて、走行距離を重ねて行くにつれてサスペンションの機能が劣化していって乗り心地が悪くなっていくのが意識できるかもしれません。しかし、中古で購入した車となると、ダンパーの劣化にはなかなか気づきにくい場合も多そうです。
ダンパーは一概にこの走行距離数に到達すると壊れます、といった部品ではなく、使用されてきた環境、運転スタイルなどによっても寿命は大きく変化します。そのため、中古車では前オーナーがどのように車を管理していたのか、どのように車を運転していたのかがわかりにくいため、劣化の判断が難しくなるわけです。
この点は、無理に自分で判断しようとせず、なんとなく乗り心地が悪いように感じたら、整備士さんのようなプロの目に頼ってみる方が確実かもしれませんね。
ダンパーの性能が低下してしまうひとつの目安は走行距離で「8万キロ程度」、近年の車では耐久性が向上しているので「10万キロ程度」といわれることもあります。また、使用年数としても「10年程度」が交換などのメンテナンスの一区切りとなるようです。
オイル漏れなどの目に見える不具合が発生していなくても、走行距離が増えてきたり、年数が経過してくると、快適性が意外と落ちている可能性も。ダンパーを交換するだけで、乗り心地が一気に快適になるかもしれません。
ダンパーを交換したい!部品代や工賃はどれくらい?
《画像提供:Response 》自動車のサスペンションとブレーキ
ダンパーをそろそろ交換してみてもいいかも、とお思いなら、選択肢は大きく2つあります。純正品の新品に交換するか、社外品のダンパーを導入するかです。
純正品の新品なら、自動車メーカーがその車を新品として開発した通りの乗り味を味わうことができるでしょう。足回りで乗り心地に関連する部品はダンパーだけではないものの、新車時のフィーリングに近づけることができそうです。
社外品なら、純正品よりも格安で用意されている場合もありますし、純正形状タイプとして、車両へのフィット感の良い商品も各メーカーから販売されています。社外品の場合、スプリングまでセットになってリーズナブルな価格で販売されているものもあります。
サスペンションメーカーによってダンパーを交換した際の乗り味の印象も違ってきますし、同じメーカー内でも乗り味に応じて複数の商品がバリエーション豊富に用意されていることも多いです。そのため、事前にしっかり下調べをしておくと、ご自分の理想に近い最適なダンパーを選択できることでしょう。
ダンパーの価格帯としては、車種によって構造が異なったり、車格に応じてダンパーのサイズも大きく変わったりするため、一概に価格帯として言いにくくなっており、純正品では1本数千円のものもあれば2万円程度するものもあります。ほとんどの場合では1台分丸ごと交換することが多いので、部品代は単純に4倍程度かかることを考えておく必要があります。
社外品で純正形状タイプのものでは、1本1〜2万円程度のものが人気のようです。ダンパーとローダウン仕様のスプリングがセットになったものでも1台分で10万円以下程度と、どうせダンパーを交換するならとワンランク上に手を出しやすい価格設定となっています。
ダンパーの交換工賃は、こちらも店舗に応じて変化が大きい部分ではありますが、1台分で2〜3万円程度に設定している店舗も見られます。このほか、ダンパー交換後にはアライメント調整も必要となりますので、アライメント調整用の費用も見ておく必要があります。
■車高調整式など、チューニングを兼ねて交換する楽しみも!
東京オートサロン2019 テインブース
社外品の純正形状ダンパーに交換するなら、やや価格が上昇するものの、車高調整式や減衰力調整式といったよりハイグレードなサスペンションキットに交換することも考慮してみてはいかがでしょうか。
ベタベタに車高を落としたくない方でも、タイヤとフェンダーのスキマが大きくて気になっていたんだよね…という方も実は多いのでは。お好みに合わせて車高調整することができる車高調整式のサスペンションキットを導入すれば、愛車への愛着もより高まることでしょう。
また、乗り味をもっと自分好みに追求したいという方でも、減衰力調整が可能なダンパーを選べば、購入後に好みに応じて調整したり、利用シーンに合わせて随時調整したりといったことも可能。
減衰力調整機能はダンパー上端の調整ダイヤルなどを利用して手動で行うことが一般的で、ハイエンドなサスペンションキットでのみ室内からリモートで減衰力調整が可能というのが以前の常識でしたが、現在ではリモート減衰力調整機能をサスペンションキットにプラス数万円程度で導入可能となっているなど、高機能品の低価格化も進んでいます。
ダンパー以外で劣化をチェックしておきたい足回り部品はコレ
TRD アリスト用フロントロワーアームブッシュ
可動域が大きく、段々と劣化が進みやすいダンパー以外にも、足回りで性能が低下するので定期的に交換しておきたい部品はあります。
足回りの部品と部品の間には、一般的な乗用車の場合ではゴム製などのブッシュが用いられていることがほとんど。このブッシュも、細かな振動を部品間でシャットアウトするはたらきがあるので、のり心地に対して影響を与えます。
ゴムなどの材質でできているブッシュは、どうしても経年劣化によるひび割れや傷などのダメージによる不具合が発生しがち。部品同士がうまく動くことを妨げて乗り心地が悪化したり、異音発生の原因となったりすることがあります。
ブッシュ類も、大まかには10万キロ前後での交換が目安のひとつ。車両が使われてきた環境によってはもっと短い場合も長い場合もありそうですが、ブッシュの健康状態に関して次回の点検時にプロの目でチェックしてもらってもよいでしょう。
まとめ
《画像提供:Response 》ルノー メガーヌR.S. トロフィーR オーリンズ製ダンパー
ダンパーの寿命の目安や、交換時のコスト感覚に関してご紹介してきました。
普段目にすることがなく、なかなか意識の向かない自動車の足回り。とはいえお車を運転する際の安定感を支えているという非常に重要な役目のある足回りは、長く乗りたい車ならぜひ気にしておきたい部分でしょう。
外見では健康状態がわかりにくい部品も多いですので、プロの目でしっかりと確認してもらうと、安心ですね。
よくある質問
■ダンパーって劣化するものなの?
はい。近年の車では一般的に10年10万キロ程度はノーメンテナンスでも問題なく走行できるものが多いとされていますが、オイル漏れなどのトラブルのないダンパーであっても、走行距離が増えたり年数が経ったりするにつれて、新車時の快適性はだんだんと失われていくのが一般的です。
■ダンパーを交換してみたい!純正品以外にも選択肢があるの?
あります。純正部品以外にも、多くのサスペンションパーツメーカーが様々な車種に適合するダンパーを用意していますし、車高調整式のものや、減衰力がリモート調整できるものなど、求める機能に応じて様々な価格帯のものを選ぶことができます。