ダイハツ トール
ダイハツ「トール」は、これまでダイハツが軽で培ったパッケージング技術を応用し、子育てファミリーの日常にジャストフィットするコンパクトファーストカーを目指して開発されたトールワゴンです。
ダイハツ「トール」
トール(THOR)は、「家族とのつながり」をキーワードとして、「子育てファミリーの日常にジャストフィットするコンパクトファーストカー」をめざして開発された。
コンパクトな外形寸法で取り回しの良さを軽自動車同等としながら、ゆとりある室内空間を意図した。家族の使用シーンを想起し、様々なシーンに対応できるシートアレンジと荷室を設定した。使い勝手も、回転式カップホルダーや大型乗降用アシストグリップ(チャイルドグリップ付)、TFTカラーマルチインフォメーションディスプレイなど、家族に優しい装備を採用している。
パワースライドドアや、240mmものスライドを可能とするリアシートをはじめとする多彩なシートアレンジをコンパクトなボディに凝縮。ゆったりくつろげる室内空間を実現している。
トヨタ、スバルへのOEM提供
上段がダイハツトール(左)、トールカスタム(右)、下段がトヨタルーミー(左)、タンクカスタム(右)
ダイハツ「トール」はトヨタ『ルーミー』やスバル『ジャスティ』としてOEM供給されています。
想定ターゲット・コンセプト
ダイハツ「トール」の想定ターゲットやコンセプト、利用シーン、ダイハツならではのアイテムなどについて、開発を取りまとめた同社 開発本部製品企画部 嶋村博次CE(チーフエンジニア)に聞いてみました。
■ターゲットは「マイルドヤンキー」「晩婚の世代」の2つ
2016年12月2日、東京で開いた試乗会で嶋村CEは冒頭、トールのターゲットについてこう話し始めた。
ダイハツ トール の開発を主導した嶋村博次CE(チーフエンジニア)
「ひとつは、郊外に住む、若いけどこだわりがある30代前半のパパと、20代のママというファミリー。早婚で、いわゆる“マイルドヤンキー”などと呼ばれるパパ・ママ世代もこのターゲットに入る。ふたつめは、30代後半のパパと30代のママで、晩婚の世代」
■郊外と都市、両スタイルに対応
郊外に住む若い夫婦、と都市に済む晩婚の夫婦、両スタイルに対応すべく共通するオーダーへの対応を行っていると語っている。
郊外型ファミリーのイメージとして「地元の仲間・家族を大切にする」「地元暮らしに満足感」「週末は近場のショッピングモール」「堂々迫力あるクルマがすき」
都市型ファミリーについては「堅実」「軽より少し大きいクルマ、実用性のあるクルマを望む」「週末は子どものサッカー応援」といった例をあげた。
ダイハツ トールカスタム(左)とトール(右
こうした2つのファミリーには「スライドドア」「車高は高く床は低く」「広い室内」「余裕のあるパワー」「車内でくつろぎたい」といった共通するオーダーがあったため、それに合わせた車作りを行っていることが語られていた。
「そこで、ゆとりのある室内空間と取り回しの良さ、あらゆるシーンで対応する荷室・シート、家族に優しい工夫と思いやり装備、運転の楽しさと家族を守れる安心感、コンパクトなのに大きく見える堂々とした存在感のあるデザイン、などを突きつめた」
■トヨタ『プロボックス』で好評だったあの装備も
このトール(ルーミー/タンク)には、フルフラットになるシートをはじめ、トレイ式デッキサイドトリムポケット&ホルダー、多機能デッキボードなど、車中泊やアウトドア、まとめ買いなどに便利な機能がふんだんに盛り込まれています。
その中には嶋村氏が開発を手がけ、ダイハツが受託製造しているトヨタ『プロボックス』で好評だった「紙パック飲料が収納可能な回転式カップホルダー」もついている。
トヨタ プロボックス / サクシード「紙パックホルダー」
「紙パック飲料が収納可能な回転式カップホルダー」について、トヨタ「プロボックス」のインタビューで次のように語っている。
----:新型のインパネは、携帯が置けるマルチホルダーがあったり、大型センターテーブルがあったり、シートの横にカバンが置けたり、1リットルの紙パックが置けたりと画期的です。
嶋村:紙パックホルダーについては、うちの娘がコンビニで100円くらいで売っている紙パックの飲み物をよく飲んでいる。で、お客様に聞くと「僕らも飲む飲む」とおっしゃる。だからその置き場所を、先代ではインパネシフトがあったところに作りましょうとなりました。
■ダイハツが描く「ありがとう」の舞台
これらのインタビューでトールの設計思想は、ダイハツらしい走行性能、居住性、パッケージング、デザインをはじめ、トヨタやスバルとの関係性、各販売会社のバランスなどにまでわたり、貫かれていることがうかがえます。
嶋村CEは必要なパーツや機能からではなくクルマにかかわるシーンを想像しているそうです。
嶋村博次CE(チーフエンジニア)
「このクルマに何が必要かとパーツを決めるんじゃなくて、クルマにかかわるシーンを想像してつくりこんだ。たとえば、スライドドア内側に設けた大型乗降用アシストグリップは、小さい子どもの目線の高さにもあわせている。子どもたちはスライドドアを開けると、目線の高さにある部分に手をつかんで『よいしょっ』ってよじ登るように乗り込む」
「おばあちゃんが乗るときもそう。そのグリップをにぎってゆっくりと乗り込む。その姿を運転者のママが横で見つめている。おばあちゃんはやっと座れて、『ありがとね』という。そう、このクルマは『ありがとう』をつくるクルマでもある」
■トヨタにない200万円以下の小型車を
トヨタ『ルーミー』やスバル『ジャスティ』としてOEM供給するダイハツ『トール』。その開発には、トヨタという巨人に“存在感”を示す必要もあるという背景も存在する。
ダイハツ工業 開発本部製品企画部 嶋村博次CE(チーフエンジニア)へのインタビューからもダイハツが1リットルエンジンを積むクルマで世に問う理由は、軽自動車メーカーとしての確固たる実績と、トヨタの存在が大きいことがうかがえる。
開発の1リットルターボエンジン
「僕らのクルマは軽自動車が基準にあるので、このクルマは1リットルにこだわった。やっぱり、ダイハツは1リットルで線を引かなければならないと。トヨタグループのなかでダイハツのプレゼンスを示せるのは、3気筒の1リットルエンジン。『これがまさに“軽直上”ですよね』と。税域も変わってきているし、これまで日産もホンダも投入していたリッターカークラスで、ダイハツのこだわりや存在意義を示していかなければならない。このクルマのプロトタイプに乗ったトヨタの役員も、『いいね』と言ってくれた。『1リットルでじゅうぶん走る』ということが、トヨタに伝わった」
「シャレード(G11)からリッタカーに関わってきたが、(ダイハツの)リッターカーは販売は伸びないし、まず営業マンが売り方を知らない。やはりそこには、トヨタがいないと小型車はつくれないと感じた。パッソ・ブーンの次を生むためには、いずれ独り立ちもしなければならないと。もちろん、ユーザーのニーズに目を向けながら。でも、その間に入ってもらうトヨタも“ダイハツの客”なので、まずはダイハツのクルマに魅力を感じてもらえるよう演出していかなければならない」
「トヨタが抱えてる客で、パッソやシエンタで獲得できなかった顧客や、軽自動車を保有している顧客などに向けて、このクルマを推してもらっている。トヨタは、軽自動車をのぞくと、これまで200万円以下のクルマはあまりなかった。そうなるとダイハツのクルマを指名買いしてくれるのではないか。だから、このクルマは、なかったセグメントを埋めるクルマではない」
嶋村CEをはじめ、ダイハツ開発陣はみな口を揃えて「このクルマはダイハツの新ジャンルを具現化したモデル。軽自動車の拡大版ではない」と伝えていた。ダイハツのリッターカーづくりの粋を集めて登場したトール。そこには、ユーザーの再獲得や、新たなプライスゾーンの設定といった狙いがあるようだ。
■室内空間、実用と理想の両面の魅力づけ
嶋村氏は室内空間、実用と理想の両面の魅力づけ、購入後の満足感などこの1リットル車の利用シーンに、すべてがデカいあのコストコホールセールでの利用例をあげて次のように教えてくれた。
ダイハツ トール ラゲッジスペース
「軽自動車は荷室が狭いという声が多かった。軽自動車は国内市場で4割を占めるが、実はコストコの駐車場には軽自動車はほとんどいない。普段、軽に乗ってるお母さんたちも、『ノア/ヴォク』や『セレナ』を持っているママ友と一緒ににコストコへ行く。それならば、このクルマは、コストコに行けるぐらいの空間をつくろうよ、と」
「そこで、これまで斜めに積んでいた直径42cmのピザを、フロアにしっかり平積みできるようにしよう。それならば、500mmは必要だよねと。さらに、すでに『N-BOX』などで『自転車が積める』という売り出し方をしているので、このトールには、デッキが汚れないような素材を採用して『積めるし汚れない』という荷室にした」
ママ目線の走りをベースに、ドライバーの意図に忠実に
ダイハツ工業 開発本部製品企画部 嶋村博次CE(チーフエンジニア)は20~30代のパパ・ママ世代をターゲットとしたトールには、「ママの走り方」を意識した乗り味が仕込まれていると語っている。
「動的なところでは、お母さん目線で扱いにくさを解消していった。どうしても使いにくいクルマ、うるさいクルマ、走りにくいクルマだと、乗る機会が減っていってしまう。このクルマは、自転車で行けるような距離の目的地でも、ちょっとでも自分で運転して行きたいと思ってもらいたい」
「操安性もそう。クイックにクルマを操りたいというわけでもなく、ドライバーがハンドルを切れば、そのとおりにスーッと曲がってくれる乗り味に仕立てた。今の一般的なトールボックスは、右にハンドルを切っても、気持ちは右に行っているのにクルマがまだついてこない、という感じがある。ロールが入ってから曲がる感じ。その遅れがないように、ドライバーの思うようにスーッて曲がるようになると、安心で疲れない、いつも一緒にいられるクルマになる」
「エンジンについては、ユニットやハードの担当者よりも先に、エンジンとCVTの制御を担当する人間と話を詰めていった。まず『僕はこのクルマをこう走らせたい』と伝えた。たとえばグッと前へ出たいのに、燃費を重視しすぎる故にクルマがドライバーの意図に反して加速しないと、クルマとドライバーとの想いがどんどん離れていってしまう。走っててアクセルをグッと踏んだら素直にスーッと前に出るようなクルマをつくりたい。制御の担当とは、まずそんな話から進めていった」
嶋村CEはママ目線の走りをベースに、ドライバーの意図に忠実に動くように仕立てたトールについて、「燃費だけを追うクルマじゃない」と繰り返し伝えていた。
4つの顔を持つクルマのデザイン
ダイハツ『トール』は、トヨタ『タンク/ルーミー』、スバル『ジャスティ』としてOEM供給され4つの顔を持っている。
それぞれの棚で売る際のカギとなるデザインについて、ダイハツ工業 デザイン部 才脇卓也主査にインタビューを行った。
上段がダイハツトール(左)、トールカスタム(右)、下段がトヨタルーミー(左)、タンクカスタム(右)
■ダイハツ「トール」「トールカスタム」共通コンセプトと差別化
まず、ダイハツから発売される、トールの標準とカスタムについて「堂々迫力」という共通のデザインコンセプトと、それぞれの差別化を教えてくれた。
グリルまわりだけを切り取って見ると、「別車種か」と見紛うほど違いがある。そこには、「真逆」というキーワードが隠れているという。
ダイハツトール(左)とトールカスタム(右)
「トールのエクステリアデザイン、とくに顔については、標準とカスタムに共通の『堂々迫力』というデザインコンセプトのもと、標準には『躍動感』、カスタムには『品格・艶やかさ』を強調し、差別化を図った」
「カスタムは分厚いヘッドランプでグリルが重心、おちょぼ口台形。標準は顔が切れ長で薄いヘッドランプ、裾広がりの台形。グラフィックの違いを真逆にとった。デザイン上の重心もカスタムが上、標準が下と、真逆にとった。この2車種は極力、逆をとろうと」
■4つのトヨタ系販売会社に向けたデザイン
トヨタ系の販売会社としては、トヨタ店、トヨタカローラ店、トヨペット店、ネッツ店という4つのチャンネルが存在しています。
トヨタ店、トヨタカローラ店では「ルーミー」「ルーミーカスタム」
トヨペット店、ネッツ店で「タンク」「タンクカスタム」が販売されます。
トヨタタンクカスタム(左)とルーミー(右)
トヨタ向けに「ルーミー」「ルーミーカスタム」「タンク」「タンクカスタム」という4種類のデザインを作ることになりましたが、その難しさについて次のように語っています。
「トヨタ系販売店は、競争も激しいから、4種類の完成度をすべて同レベルに上げていかなければならない。この『どれもみんな同レベルに完成度を上げる』という目標に向けて、グラフィックの突きつめを繰り返したあたりは、やっぱり苦労した。実は、フードは4車種とも共通。それでもこれだけ表情を変えることができた。ただ、トヨタ向けにデザインしたという意識はない。4つの違いをバランスよく出すことを目標とした」