突然されるとびっくり!「パッシング」とは?
パッシングとは、ハイビームを複数回、瞬間的に行うことを表します。
やり方は、ハンドルの右側についているライトスイッチを手前に引くだけ。すると一瞬ハイビームに切り替わるので、これを複数回ほど繰り返せば、パッシングになります。
法律で定められた合図ではないため、教習所の教科書に乗っていません。しかしドライバー同士のコミュニケーションの一つとして使われることがあります。
パッシングは英語で「passing」、意味は「追い越し・追い抜き」です。語源から考えるに、追い越す際のサインとして、ハイビームを複数回点灯させる合図が、最初に使われたのでしょう。
現在では、パッシングにいろいろな意味や合図が含まれています。全てを網羅することは難しいかもしれませんが、基本的によく使われる利用シーンを理解しておけば、「なぜパッシングされたんだろう?」「感謝されたのか?あおり運転を受けたのか?」と悩まずに済み、日々の運転をよりスマートにできるかもしれません。
ご自分で使う予定がなくても、パッシングにはどのような意味が含められているのか、どんなシーンでパッシングを受ける可能性があるのかなどを知っておくと、安心でしょう。
■パッシングは道交法上違反にはならない?
走行している車同士で意思疎通をしようと思うと、話しかけることはできないので、パッシングやハザードランプ、クラクションなどによるコミュニケーションに頼らざるを得ません。
中でもパッシングは、ハンドルから手を離さずに簡単かつスムーズに使えることもあって、ドライバー同士のコミュニケーション手段として便利に活用されています。
しかし、あまり頻繁に繰り返して行うと、「道路交通法 第4章 第1節 第70条」にある「安全運転の義務」に違反する可能性があります。
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
※e-Gov(イーガブ)参照
■執拗なパッシングは「あおり運転」!
パッシングというと短時間ハイビームを点灯させることが多いものですが、先行車両に執拗にパッシングし続けるなどの行為は、安全運転義務違反となるだけでなく、「妨害運転」としてあおり運転の処罰対象となることもあります。
これまでパッシングは、道路交通法上は「他の車両等の交通を妨げるおそれがある場合にはロービームにしなければならない」程度に規定されており、どの秒数・回数からは違反などとはっきりとは規定されてこなかった現状があります。
コミュニケーションツールとしても用いられるパッシングですので、前走車をパッシングしたからといって直ちに違反と判断されることはないと思われますが、何事も程度の問題はあります。威圧感を与えるようなパッシングの使い方は慎む方が、交通トラブルを未然に防ぐことにつながるでしょう。
パッシングが違反と判定される具体例
■パッシング以外にもハザードやクラクションを使った合図も
違反と判定される具体例は次の通りです。
・パッシングをしながら車間距離を異様に詰める
・執拗にパッシングを繰り返し、他の車両に威圧感を与えている
最近では、あおり運転に対する行為に厳しい目が向けられます。少しの間だけパッシングをして車間距離を詰めただけでも、「安全運転の義務」違反として捕まるケースもありますから、注意してください。
違反と判定されて捕まると、違反点数は2点。
罰金は普通車、軽自動車の場合で9,000円です。
さらにパッシングが悪質なあおり行為だと判定されてしまうと、近年では「一発免停」などの重い罰になる可能性が高いです。
ついカッとなってしまってパッシングを長時間行う、なんてことのないよう、リラックスして時間にも心にも余裕を持った運転を心がけたいところです。
パッシングで使われる合図で多いのは、「ありがとう」という意味です。ですがこの合図はパッシング以外にも、ハザードランプやクラクションなどでも代用できます。
ただし、クラクションなどは周囲の車や歩行者をびっくりさせてしまう可能性もあります。パッシング同様、利用シーンと鳴らし方には配慮が必要でしょう。
一番良いのは、手を挙げる・会釈するなどのドライバー自身の動作で感謝を示すこと。お礼の意図がきちんと伝わりますし、人間同士のコミュニケーションが、なによりも嬉しいですよね。
対向車がパッシングしてきた!こんな意図が考えられます
走行中、対向車からパッシングされることがあります。これは、主に下の5つの意味が含まれています。
■「警察がこの先の道で取り締まりをしている」というお知らせ
もしも対向車から、ライトが不要な明るい環境で複数回パッシングされたら、「この先の道路で、警察がねずみ取り、取締り、検問などをやっていますよ」と知らせてくれている合図です。
走行方向の道の先で速度違反取り締まりが行われているケースがほとんどなので、合図を受けたら、法定速度まで落とすように心がけると良いでしょう。
この意味のパッシングは昔から行われていますが、最近ではめっきり減ってしまいました。そのため、とくに若い世代や初心者にとって、いきなり対向車からパッシングを受けても意味が理解できないかと思います。
人によっては、「このパッシングは警察の公務を邪魔している」といった意見もあります。しかし、速度を落とすように促しているので、むしろ安全を促しています。公務執行妨害には当たらないでしょう。
■「あなたの車にライトがついている」というお知らせ
車のライトがつけっぱなしであることを、パッシングによって知らせています。一方、トンネル内や暗闇などで、ライトが点灯していないことを知らせる合図にも用いられます。
トンネルの出入り口付近、または夜間などでよく見られるパッシングです。
ライトがつけっぱなしの状態なら、とくに大きな問題はありません。しかしライトが点いていないのは、他の車から視認されにくい状態となり、危険です。合図で教えてくれたら、すぐにライトを点けるようにしましょう。
近年では、デイライト機能が日中でも明るく点灯している車も増えてきています。このデイライト機能をヘッドライト点灯と勘違いして、パッシングでライトが点いているよと教えてくれようとする場合も見られます。対処のしようがありませんが、特にパッシングされる理由が思いつかない時には、このような可能性もあると覚えておくとよいでしょう。
■「お先にどうぞ/先に行きたい」という合図
交差点などで自分の車が右折するとき、対向車からのパッシングがあれば、「待っていますよ(お先にどうぞ)」と譲ってくれている合図がほとんどです。
しかし、この場合のパッシングが全て「道を譲ってあげる」意味ではない点に注意が必要です。
地域によっては、「自分が先に行くから待ってろ」と促している可能性もあります。とくに関東・関西で意味が分かれるようです。
関東 … 先に行っていいよ
関西 … 私が先に行くよ
関東と関西での違いは一般的に言われていることですので必ずしも上記の通りの意味とは限りません。
相手がどちらの意味でパッシングをしているかは、すぐには判断しづらいです。パッシングをされたときは、すぐに始動せず、対向車の様子を数秒ほど見守ってください。相手が動かないようであれば、譲ってくれている合図ですから、お礼を送りながら始動させましょう。
■譲ってもらったときなど「ありがとう」のお礼
先ほどのように道を譲ってくれたときなど、対向車にお礼を伝えたいときにパッシングをすることもあります。
お礼の合図としては、パッシングのほかにも以下のような方法があります。
・ハザードを数秒点ける
・手を挙げる、会釈する
・クラクションを短く鳴らす
昼間で相手のドライバーが見える状況なら、会釈または手を挙げるなどで合図を送れば、お礼の意図がきちんと伝わるのでおすすめです。
夜間で相手のドライバーが見にくい状況なら、パッシング・ハザード・クラクションでお礼を伝えると良いでしょう。
■「あなたのハイビーム等が眩しい」という抗議
夜間やトンネル内などでハイビームのまま走行すれば、対向車にとっては眩しいですよね。それを知らせるために、パッシングされることがあります。すぐにハイビームになっていないか確認し、ロービームへと戻しましょう。
もしもハイビーム状態ではないのに、夜間やトンネル内などで対向車からパッシングを受ける回数が多いのなら、ロービームでも対向車にとっては眩しい状態かもしれません。
LEDライトに変更するなどしてヘッドライトをいじったのなら、配光が高い、もしくは右に寄っている可能性があります。ロービーム状態での光軸を確認して、対向車から見て眩しくないように調整しましょう。
また車種によっては、スイッチでロービームの高さを切り替えることができます。そのスイッチの設定を見直してみるのも良いでしょう。
後続車がパッシングしてきた!こんな意図が考えられます
後ろを走っている車から、何度かパッシングをされるケースがあります。これには、主に2つの意味が含まれています。
■「追い越しをしたい」という意思表示
高速道路の追い越し車線を走行中、後ろの車がスピードを上げながらパッシングをしてきたら、追い越しをしたい合図を送っています。安全のためにも、走行車線へと車線変更しましょう。
だいたいのケースにおいて、追い越し車線での後続車からのパッシングは、「そこをすぐにどけ!」「邪魔だ!」と乱暴的な意味合いが含まれます。もしも過度なパッシングを繰り返されたり、危険を感じるほどに車間距離を詰めてきたり、クラクションを必要以上に鳴らされるようなら、悪質なあおり運転だと判断できます。ドライブレコーダーに記録しておけば、もしも事故になった場合、相手を訴えられる証拠になりますよ。
ですが、上記の全ての行為が「あおり運転」として判断されるわけではありません。「自分は周りより遅い速度で走行車線を走っていなかったか?」など、自分にも過失がなかったかを振り返りましょう。
とくに初心者や運転に慣れていない人は、スピードが遅くなったり、後続車の存在に気づくのが遅くなりがちです。上記のような状況を作り出さないためにも、なるべく走行車線を走ることをおすすめします。
■「さっきは危なかった」というあなたの運転への抗議
自分の車が走行している車線に脇道から急に右左折してきた車が入ってきたり、強引に車線変更されたりするなど、衝突事故になりかねずヒヤッとする経験がありますよね。そういった際に、「さっきは危なかったですよ」と抗議の意味を含めてパッシングをする例も見られます。
後続車からパッシングをされた場合には、さっき右左折した時に後続車に急ブレーキを踏ませてしまったかな?合流時に無理な入り方をしたかな?と思い直してみるのもよいかもしれません。自分に落ち度があった場合には、余裕があれば会釈や短時間のハザードランプ点灯などで謝る意図を伝える例もあるようです。
ただし、このパッシングの使い方は、する側もされる側も交通トラブルに巻き込まれやすくなる危険も高いものです。後続車からパッシングをされたからといってカッとすることのないよう、また先行車の落ち度があったとしても執拗にパッシングしたりするようなことは慎むようにするのが、トラブルの予防に役立つでしょう。
■「あなたの車両に異変がある」というお知らせ
高速道路などの追い越し車線で後続車からパッシングを受ければ、そのほとんどが追い越しをしたい合図です。もしそれ以外の状況で後続車からパッシングを受けたのなら、自分の車の異変を知らせてくれているのかもしれません。
たとえば、以下のような要因が考えられます。
・トランクが半開きになっている
・ブレーキランプが切れている
・ドアが半ドアになっている
走っている車同士で異変を伝えるのは非常に難しいもので、パッシングやホーンといった、受け取り手側は少し驚いてしまうような手段でしか知らせることが難しい場合もあるでしょう。直前の自車や後続車の動きを思い出してみて、特にパッシングされる理由が思い当たらない場合には、何らかのトラブルを知らせてくれている親切なパッシングの可能性もあります。
追い越しのない道路で後続車から何回かパッシングされたら、安全な場所に車を停止させて、自分の車をチェックしてみましょう。
パッシングのやり方は?回数は決まってる?
パッシングには、正確な回数が定められていません。適切なパッシング回数としては、一般的には1〜2回です。それ以上に過度なパッシングを繰り返してしまうと、相手に不快感を与え、場合によってはあおり運転として道路交通法違反になる可能性があります。
注意したいのが、パッシングの合図が、相手に正しく伝わるとは限らない点です。
前述のように、自分が右折しようとして対向車がパッシングした場合、「お先にどうぞ」なのか「私が先に行く」なのか、正確には分かりません。「先にどうぞ」だと思って右に曲がろうとしたら、対向車がそのまま直進してきた、といった事故に遭う可能性があります。
パッシングは、あくまでも合図の一つ。あまり過信はせずに、相手の動きを注意深く観察したり、自分の車に問題がないか確認しましょう。
■パッシングの長さで違う意味に受け取られるかも!長すぎると威圧的
パッシングは、眩しいハイビームを相手に浴びせるということもあり、点灯させる回数や点灯させる時間によっては、誤った意図で受け取られてしまう可能性もあります。
感謝の意を伝えるつもりだったのに、長い時間ハイビームを点灯させたりしてしまうと、受け取り手側は「あおり運転かな?」と感じてしまうケースもありそう。
短期間でパチパチっとスマートにパッシングができれば、受け取り手側が正しい意図を理解してくれる可能性も高まるでしょう。
バスやタクシーがパッシングを繰り返してる!車内でトラブルかも
普段見かけることはないとは思いますが、路線バスや観光バス、タクシーなどがパッシングを繰り返していたり、ハザードランプを点灯させていたりする場合があります。普段これらの車種がパッシングをすることは稀と思われるので、きっとそんな場面に遭遇したら違和感を感じることでしょう。
パッシングを繰り返していたりハザードランプを点灯させているバスやタクシーでは、車内で緊急事態が発生している可能性があります。あってはならないことですが、ハイジャックなどの発生も懸念されます。
近年のバスでは、車内で緊急事態が発生した際には、行き先表示板に「緊急事態発生中」などと表示されたり、車両後部の青いランプが点滅したり、非常に高速でハザードランプを点滅させたりといった外部に異常を知らせる仕組みが標準的に装備されています。
タクシーの場合は、行燈が赤色で光っていたり、走行状態を表示するディスプレイに「SOS」などと表示される場合があるようです。
場合によっては、これらの表示にパッシングも組み合わせられる可能性もあります。
このようなバスやタクシーを見かけたら110番で警察に通報するようにしましょう。
まとめ
パッシングは、先述のように、さまざまな意味や合図が含まれています。法律的に決まっているものではありませんが、一般ドライバーに広く浸透しているのが現状です。
近年では危険な運転によって発生した事件や報道が増えており、あおり運転の危険性が広く認識されています。そのため、あまりにも過度にパッシング行為を繰り返せば、安全運転の義務違反となります。パッシングを使用する際は、適切な場面で使うことや、少ない回数で伝えることを意識するようにしましょう。
この記事を読むことで、「なんでパッシングされたんだろう?」と悩んだときの解決の一助になれば、幸いです。
よくある質問
■パッシングってどうやってするの?
ほとんどの車の場合は、ライトスイッチを手前に引くことで、引いている間だけハイビームが点灯するようになっています。パチパチとテンポよく引くことで、一般的なパッシングができます。
■パッシングでの合図、必ず覚えなくてはいけないの?
近年ではパッシングをきっかけとして交通トラブルに発展する例も見られるなど、パッシングの使用を控えようという動きも各所で見られます。ただし、パッシングは攻撃的な意図のみでなく、感謝の意を伝えるために使われる場合も多々あります。ご自分でパッシングによる合図を使わなくても、どのようなシーンでパッシングを受ける可能性があるのかを知っておくと、より安心でしょう。