GRMNとは?
GRMN(ジーアールエムエヌ)はGAZOO Racing tuned by MNの略称で、本格的なサーキットでのスポーツ走行も可能なGRブランドの最上位シリーズの呼称です。
MNは「Meister of Nürburgring(マイスター・オブ・ニュルブルクリンク)」で、ドイツの極めて厳しく困難な新車開発の聖地とも呼ばれるサーキットで鍛え上げられた車であることを意味しています。
成瀬弘監督への敬意
これは2010年に他界したGAZOO Racingの成瀬弘監督への敬意を込め名付けられました。
近年のトヨタ自動車のモータスポーツへの力の入れ方は半端ではなく、豊田章男社長が自らステアリングを握りスポーツカー開発やモータースポーツへのチャレンジを続けていることで「GR」ブランドは車好きのみならず認知されてきました。
GRはモータースポーツ直系のスポーツカーブランドであるとトヨタは公式に宣言しています。
そんなGRブランドの最高位を意味するGRMNはマニュアルトランスミッションはもちろんのこと、エンジン内部や車体の軽量化、高剛性化など通常の市販モデル以上に手が加えられた数量限定のスペシャルモデルのことです。
その下にはGR、GRスポーツ、GRパーツ(アフターパーツによるカスタマイズ)という階級が設けられ、GRMNは究極のスポーツモデルの称号を誇っています。
トヨタ新型ヴィッツGRMNの特徴
まずはヴィッツという歴史的なコンパクトカーの歴史にも触れてみたいと思います。
トヨタはかつて「スターレット」というコンパクトカーがあり、モータースポーツシーンにおいても活躍を見せていました。
トヨタ ヴィッツは1999年に発売
初代 ヴィッツ
その事実上の後継車種として完全なニューモデルとして1999年に発売されたのがヴィッツです。
この車は世界戦略車として海外では「ヤリス」と呼ばれトヨタの中でも5番目の販売台数を誇る大ヒットモデルとなりました。
当時は他社もコンパクトカー市場において低価格化を軸に競争が激化しており、そこに一石を投じる形で投入されたのがヴィッツです。
保守的かつ簡素な造りで街乗りメイン、買い物メインとしてのコンパクトカー市場に衝撃的なデビューを果たしました。
革新的なデザインと室内空間の広さ、衝突安全性や環境性能などあらゆる面で世界に大きなインパクトを与えた名車がヴィッツです。
現在は3代目にあたりますが、2017年のトヨタのWRC復活と共に翌年にはヤリスWRCはマニュファクチャラーズチャンピオンを見事に達成し、モータースポーツにおいても目覚ましい活躍を結果と共に刻みました。
ヤリスGRMN
そんなヴィッツにGRMNというたった150台限定のウルトラホットモデルが追加設定され市販されました。(海外市場においてはヤリスGRMNとして400台が販売されました)
初代からヴィッツにはRSやターボモデルなどホットモデルが用意されてきましたが、このヴィッツGRMNはコンパクトカーの枠を超えた1800ccのエンジンにスーパーチャージャーと6速マニュアルトランスミッションを組み合わせ、日本未導入の3ドアボディに架装するというクラスを超えたマシンとして誕生しました。
ヴィッツGRMNのエクステリア
トヨタ ヤリス (ヴィッツの海外名)GRMN
ヴィッツGRMNの外観上の最大の特徴はGRブランドのアイデンティティともなっている「ファンクショナル・マトリックス・グリル」と呼ばれる四角のグリルと、スポーティかつ機能的なエアロパーツによりスタイリッシュに仕立て上げられています。
3ドアボディ
そして意外と気付かない最大の特徴は、このGRMNのみ日本国内未導入の3ドアボディということです。
かつてのモデルには3ドアモデルは通常モデルとしてラインナップされていましたが、3代目は5ドアのみとなりスポーツモデルのRSグレードでも5ドアとなっていました。
今回のGRMNは欧州モデルの3ドアボディを採用しており、ボディ剛性や重量においても大きなアドバンテージとなっています。
下位モデルとなるGRやGRスポーツのヴィッツにも同様のエクステリアが与えらえれていますが、3ドアのボディが最上位モデルのGRMNを誇る最大の特徴となります。
ヴィッツGRMNのインテリア
ヴィッツGRMNは走行性能やエクステリアだけのモディファイではありません。
内装、特にコクピット廻りに専用パーツを贅沢に投入しています。
専用のスポーツシート
まずはドライバーを強い横Gから保持する専用のスポーツシートです。
これはリクライニング機能も持ったセミバケットタイプとなっています。表皮にはウルトラスエードが採用されフィット感と優れたホールド性を両立しています。
ステアリングも専用のものが装備され、これは上部にレッドのセンターマークつきで下部にはGRロゴが入っています。
理想的なグリップ断面形状と俊敏な操作に対応する小径Φ362mmの真円形状が採用されています。
そして専用メーターは260km/hスケールで、シンプルながらメカニカルな印象を与えるデザインとなっています。
もちろんペダル類はレーシーなアルミペダルとなっています。
そして極めつけは専用のT-Connectナビです。(販売店装着オプション)これにはTOYOTA GAZOO Racing Recorder付となっていて前後左右のGや車速、アクセル開度、エンジン回転数、水温などの車両情報も表示可能なナビです。
ラップタイム計測やラリータイマー、3連メーター表示など魅力的な機能が満載です。
油温と油圧の表示が無いのが残念ではあります。
このように、ヴィッツGRMNは走りを楽しむ機能やオーナーとしての満足度を高めるための内装へのこだわりが随所に感じられます。
ヴィッツGRMNのパフォーマンス
ヴィッツGRMNのパフォーマンスはヴィッツ史上、そしてトヨタのこのクラスのコンパクトカーとしても最強と言えます。
トヨタは「コンビニからニュルブルクリンクまで、この一台で」と公式に謳っており、まさにピュアスポーツコンパクトを具現化したことが伝わるコンセプトです。
エンジンは規格外とも言える1.8L直列4気筒エンジン(2ZR-FE)にスーパーチャージャーを搭載。
最高出力156kW(212PS)/6,800rpm,最大トルク250N・m(25.5lgf・m)/4,800rpmの驚異的なスペックをたたき出しています。
リニアなブレーキフィーリング
そしてストッピングパワーを決めるブレーキもチューニングされ、対向4ポットキャリパーに加え車両の挙動を制御する電子デバイスのVSCも専用チューニングが施されています。
スリットローターはディスク厚を増すことで剛性と冷却キャパシティを向上、リヤのローターも大径化されリニアなブレーキフィーリングを実現しています。
ホイールはBBS製の17インチ鍛造アルミですが、これは専用のマットグレー塗装によりスポーティーながらも高級感のある仕上がりになっています。
サスペンションにはSACHS(ザックス)社製のパフォーマンスアブソーバーを採用しています。
これは快適性を維持しながらスポーツ性能を高めるチューニングが施されています。
ボディは単純にボディ補強パーツを追加するのではなく、根本的に欧州ヤリス用の3ドアボディを採用しすることでベースから見直されています。
そこへフロントメンバーのブレース、フロアトンネルとリヤサスペンションのトーションビーム付け根を連結するブレースを追加することでボディ全体の剛性アップをバランス良く達成しています。
その他大きなポイントとしては効きの弱いビスカス式ではなくトルセンLSDを標準搭載、高いトラクション性能によりエンジンパワーを無駄なく路面へ伝えます。
電動パワーステアリングも操舵フィーリングの見直しとチューニングが行われた専用品となっています。
ヴィッツGRMNの価格
ヴィッツGRMNの価格は400万円(税込)です。
「400万円のヴィッツ」と呼ばれるほどインパクトのある高価格です。限定150台は良いとしても、大衆コンパクトカーのイメージの強いヴィッツの価格として見てしまうとエントリーグレード(F Mパッケージ 約118万円)の4倍近い価格と言えます。
しかしベースとなるヴィッツGRは約230万円ですので、そこからの差額+170万円で専用3ドアボディと専用1.8Lスーパーチャージャーエンジン、6速LSD入りトランスミッション、専用ブレーキやバケットシートなどなどの装備の本気度を考えると、その差額で後からGRMN化することは絶対に出来ないのでお得と捉える人も居る様です。
欧州仕様のヤリスを生産しているフランスのバランシエンヌ工場にて生産され、日本へ輸入された後にトヨタの元町工場にてLFA工房の職人によって日本仕様へ最終架装され仕上げられます。
日本を代表する大企業であるトヨタがここまでの手間(工場ラインではなく職人が関わる工程)やコスト(テスト開発費や輸入費、専用部品の開発生産コストなど)を度外視してまで設定している価格とも思えますので、ヤリスのWRC復活を印象付けるブランディング戦略の一環として登場したヴィッツGRMNは歴史的な名車となりうる一台だと言えます。
ヴィッツGRMNは150台限定!売れ行きは?
ヴィッツGRMNは2018年4月に「商談予約受付開始」という形で購入希望者を募る形を取りましたが、瞬く間に予約枠が埋まり完売終了となりました。
400万円のFFスポーツカーという選択肢を考えた時に、高性能なルノールーテシアRSやメガーヌRSの方が単純な費用対効果は優れているとも言えます。
もう少し予算を追加すればWRX STIや中古のR35GT-Rも購入可能です。
しかし、やはり欲しい人は欲しい、安いと思えるスペシャリティカーであることを証明しました。
この手の車はコレクターズアイテムとして、そして転売目的として購入されることも少なくないため今後も中古車価格は高い相場で推移することが予想されます。
スポーツカーがどんどん減り、エコを叫ぶ時代にこのような極めてホットなハッチバックを限定とは言え発売してきたトヨタの意気込みを感じずには居られません。
これをきっかけにモータスポーツへの理解がより深まり、各メーカーから同様のスポーツモデルがリリースされることを期待します。