突然ブレーキが効かなくなる恐怖…「フェード現象」とは
「フェード現象」という言葉、耳にしたことはありますか?
もしかすると運送業などの運転を仕事としている方々には、聞いたことや内容まで理解しているという人もいるかもしれません。こちらの現象、車を運転する方にはぜひ覚えておいて頂きたいと思います。
フェード現象とは、下り坂などたくさんの減速を強いられる環境で起こりやすい現象です。フットブレーキのみに頼って減速した結果、ブレーキが熱を持ち、効きが著しく低下することを言います。最悪の場合は大事故に繋がってしまう、大変危険な現象です。それではなぜこのような現象が起こってしまうのか原因を見ていきましょう。
■ フェード現象の前兆は?早めに気付きたい車の異変
走行中に車内に何かが焦げるような匂いがした時は、フェード現象が起こる可能性があります。ブレーキが高温になった場合ブレーキパッドに使われている素材(レジン)の焦げる匂いがします。
もう一つはブレーキの“踏みしろ”の感覚が違うということが挙げられます。ブレーキの効きが悪くなった場合に出やすいのは、ブレーキの効き始めるペダルの位置が奥に深くなるということです。この症状は本当に分かりやすいので運転している最中にすぐに気づくことができると思います。
普段から無意識に車を運転せず、車の細かな変化にも気付けるよう、感覚センサーを貼り巡らせて運転することを心がけたいところです。特に、多人数で乗車している、荷物を満載しているなど、車のブレーキに大きな負荷がかかっている状態で長い下り坂を走行するときなどは、いつも以上に慎重に、車の状態を確認しながら走行するとベストでしょう。
■フェード現象の原因はブレーキの酷使!ブレーキがオーバーヒート
先ほどのところでも触れましたが、原因はフットブレーキのみで減速をすることにあります。まずブレーキがどのようにして、車を減速させているかという仕組みの部分について説明します。簡単なもので例えると、自転車のブレーキが一番想像しやすいでしょう。
自転車でブレーキを掛ける際、ブレーキレバーを握るとワイヤーを伝って、タイヤを左右から挟み込むようについているゴム製のブレーキパッドが挟んで減速します。この原理と同じものが、車でいうところの「ディスクブレーキ」といわれるものです。
使用されている素材などはもちろん違いますが、車の場合はフットブレーキを踏み込みと油圧の力で「キャリパーピストン」という部分がブレーキパットを押し出し「ディスクローター」という部分を挟み込んで減速しています。挟み込んだブレーキパッドとディスクローターとの間には「摩擦熱」が生じます。その摩擦熱を利用して減速しているのですが、車の場合速度域が自転車とは異なる為摩擦熱は非常に高温になります。
フットブレーキばかりに頼って減速すると、その摩擦熱がブレーキ部に使用されている素材の耐熱温度超えてしまう場合があるのです。通常使用であればそのようなことはなかなかありませんが、下り坂のようなブレーキを酷使するような場所では高温になった摩擦熱ををうまく放出できなくなり、結果ブレーキの効き目を著しく低下させてしまいます。
原因としては理解いただけましたか?
運転中はなかなか気にすることはないと思いますが、このことを意識して運転することによって、フェード現象を起こす可能性は低くすることができます。
■近年の車はブレーキ性能が向上!でも油断は禁物です
重量級のSUVなどが人気となっているなど、車両の大型化も進む現代。自動車業界全体として燃費対策のために車重の軽量化を進めてはいるものの、大型のミニバンなどでは満載時には2トンを大きく超えてしまうものもあるなど、ブレーキに求められる性能もこれまで以上に高くなっています。
とはいえ、ブレーキ側も常に進化が続いており、ベンチレーテッドディスクタイプのブレーキローターが標準装備されることも一般的になってきていますし、特に重量のある車両やスポーツ走行を目的とするような車両などでは、ブレーキ放熱のための導風が空力パッケージとしてしっかり考慮されているなど、フェード現象ができるだけ発生しないように対策が取られています。
とはいえ、自動車も機械ですので、いついかなる時に予期せぬトラブルが起きるかもしれません。周囲の気温が非常に高かったり、ブレーキ導風用のダクトが詰まってしまっていたりと、何らかの不具合によってブレーキが過熱しやすくなってしまっていることも考えられます。
余裕のあるブレーキ性能に安心感を覚えすぎることなく、特に長い下り坂などでは、フェード現象を起こさないような走り方を意識して走行することが大事ですね。
フェード現象の予防は可能!気をつけたい「下り坂」の走り方
■フットブレーキを踏みっぱなしにせずに、適宜離すようにする
急な下り坂が連続する道などでは、車のスピードが勝手に上がっていってしまって怖いですよね。そういう恐怖感もあってか、フットブレーキを踏み続けてブレーキランプを常に点灯させながら下り坂を走行している車を見かけることもあります。
しかし、これはフェード現象を予防する観点から見ればご法度。フットブレーキを踏んでいる間は、薄くブレーキをかけていたとしてもブレーキパッドがブレーキローターに接触して摩擦熱を発生させ続けているので、フェード現象を引き起こしてしまう原因となりかねません。
要所要所でフットブレーキを使いテンポ良くスピードを落とすことはもちろん大切なことですが、常に踏みっぱなしはブレーキパッドの寿命を縮めることにもつながります。先ほどご紹介した通りにエンジンブレーキも積極的に併用することでフットブレーキの必要となる場面を少なくし、過熱を防ぎましょう。
エンジンブレーキの使用方法を前もってしっかり予習しておくことで、フットブレーキの負荷を抑えた優しい走行もしやすくなりますね。
近年では、フットブレーキ操作で適宜エンジンブレーキが自動で付加されるように制御される車も登場しており、これらの車種ではオートマチックトランスミッションにLレンジ(ローレンジ)がないものもあります。これらの車種では、サーキット走行などでない限りはフットブレーキを用いても問題はないものとは思われますが、できるだけ踏みっぱなしは避けるようにしたいところです。
予防策としては、単純にブレーキを高温状態にしなければいいということです。減速する方法をブレーキだけではなく、他の方法も同時に使うことによって高温状態を回避することが可能となります。具体的な方法と説明を載せましたので見てみましょう。
■長い下り坂は エンジンブレーキを積極的に活用する
フットブレーキ以外の減速方法としては「エンジンブレーキ」を使用することです。
エンジンブレーキの基本は、アクセルから足を離し惰性走行の状態にして減速していくことを言います。平坦な道では自然と行っているドライバーの方はいらっしゃると思います。
ただこれを急な下り坂でやったとしても大きな減速の効果は得られません。
ではどのようにして減速の効果を大きくするのかというと、シフト操作も同時に行う必要があります。
MT車に乗っている方は普段から多用していると思いますが、AT車に乗っている方だと使用していない方の方が多いのではないかと思います。MT車であれば走行中のギアから順番にギアを落としていくことで素早く減速できます。AT車で年式が新しい車であればDレンジからSレンジへ、古い車の場合はDレンジから1レンジや2レンジに入れると大きな効果を得られます。
どちらにも言えることは、高い速度域の状態で急激にシフトを速度域の低いギアに入れると変速時に大きな反動があるので、あらかじめ減速をしてから使用すべきだということです。
エンジンブレーキのことをより詳しく知りたい方はカーナリズム内にて「エンジンブレーキとは」という記事がございますので、そちらをご覧ください。
■定員いっぱいまで乗車、荷物満載など、悪条件を気にしておく
ミニバンなどにお乗りの方でも普段は1人しか乗らないという場合も多いはず。しかし、7〜8人が乗り込んだミニバンを運転すると、普段よりも加減速やコーナリングの感覚が異なっていることに気がつくはずです。
荷物を満載している時でも同じ。重量バランスが変わるだけでなく、特にブレーキなどは、いつもよりしっかりと踏まないと効かないなとお感じになることもあるでしょう。
これらの悪条件は、当然ながらブレーキにもいつも以上に負荷をかけてしまいます。乗車定員や積載量の制限を守った状態なら、そのような負荷のかかった状態でも問題がないよう設計されているとはいえ、思わぬトラブルを引き起こしてしまうこともあるかもしれません。
車両総重量が増えている状態で車を運転するなら、長い下り坂などではいつも以上にブレーキを労った運転を心がけたいところですね。
フェード現象が起きてしまったら、どう対処すればいいの?
いつどこで自分の愛車にフェード現象のトラブルが襲ってくるか分かりません。
万が一、走行中にフェード現象に見舞われてしまったらどうすれば良いか、対策と手順を紹介します。
■何よりもブレーキを冷やす!安全な場所で停車しよう
走行中に少しでも普段のと様子が違うと思った場合は、周りの状況を確認し安全に停車できる位置にまずは車を停車させましょう。
筆者の過去の業務経験上の話ですが、ブレーキが通常よりも高温になっている場合は、ホイール越しに手をかざしただけで強烈な熱気が感じられます。それと合わせて湯気が出ている場合もあります。実際に行う必要はありませんが、くれぐれもホイールには手を触れないでください。火傷の危険性があります。あとは自然とブレーキが冷却されるのを待つだけです。
最低でも30分以上は冷却することをおすすめします。早く冷却させたいからといって水などをかける行為は絶対にしてはいけません。金属製の部品が高温状態の時に急激に冷却されると、変形したり亀裂が入ってしまい、余計に状態を悪化させてしまう可能性があるからです。
冷却し終わったら、運転をしてみて改善されないようであれば、ロードサービスなどの手配をしてプロの方にお願いしましょう。別の部分が原因になっている可能性も考えられますから、決して無理はしないようにして下さい。
■止まれないと判断したら、緊急退避所を積極的に活用しよう
急峻な峠道の長い下り坂で、道路脇に急傾斜に立ち上がる上り坂が設けられているのを見かけることがあります。
標識が立っていることもありますが、この上り坂は「緊急退避所」と呼ばれるもので、フェード現象などを起こしてブレーキが効かなくなった車両が突っ込むことで、車速を強制的に落とす目的で設けられているものです。
待避所の上り坂は、あえて舗装などはされておらず砂などが用いられているので、飛び込んできた車の車速を効果的に落とすことができます。その反面、乗用車など地上高の低い車両では車体側へダメージを与えてしまう可能性もあるのですが、制御不能となって事故を起こすよりはマシですよね。
普段使うことが全くない緊急退避所だけに、いざというときに活用できるよう、通る道沿いに退避所が設けられているかどうかを気にしながら走行すると安心かもしれませんね。
ただし、近年ではブレーキ性能の大幅向上に伴って退避所が実際に使用される例がかなり減っているとのことで、場合によっては退避所の維持管理が行われておらず、入り口が塞がれてしまっている場合も増えてきているようです。
そのような場合では、できるだけ強いエンジンブレーキで車速を落とし、手動式のパーキングブレーキなら段階的にかけていくなど車両の挙動が乱れないようにかけるなどすることもできるかもしれません。最終的には、ガードレールなどに車をぶつけることで速度を落とすようにすることもできるでしょう。
車両のメンテ不足でブレーキが利かなくなることも!
フェード現象やペーパーロック現象についてここまでお話してきました。これらの現象以外にも普段の走行時にブレーキの効きが悪く感じる場合があると思います。ブレーキが効かなくなる原因としては以下の2つが大きく影響してきます。ブレーキに関したトラブルを起こさないためにも普段からの点検やメンテナンスをしっかり行いましょう。
■要チェック:ブレーキオイルは劣化していないか
冒頭の方でも触れましたが、ブレーキを作動させる為のオイルです。オイルは使用しているうちにどんどん汚れていきますし、乗っていない状態でも湿気などで水分を含み劣化していきます。
オイルが新品の状態では薄い黄色をしていますが、劣化してくるとどんどん茶色く変化します。オイル量が減少している場合でも効きが悪くなるので注意が必要です。交換せずにそのままにしおくと適切な油圧がかからなくなりブレーキの効きが悪くなっていきます。
交換時期としては、頻繁な交換は必要なく車検(約2年)ごとの交換を目安にしてください。(車検時にセットになっている場合が多いです)
気になる方は、ボンネットを開けていただくと向かって左奥の方(日本車の場合)に「ブレーキフルード」と書いた小さな透明なタンクが設置してあります。一目で分かりますし、適正量のラインも付いているので確認してみると良いでしょう。
■要チェック:ブレーキパットは摩耗していないか
ブレーキの効きが悪くなる一番の原因として挙げられるのがブレーキパットの消耗です。こちらも冒頭で説明しましたが、ブレーキを掛ける際に一番重要な部分です。使用する度にこのブレーキパット部分が消耗し、車を減速させています。新品状態では約1センチほどの厚さがあります。約3〜4ミリ程度になると車検や定期点検の際に交換を勧められます。
ブレーキパットに関しては、自分で点検するのは難しいので、勧められた際に交換を行うことをおすすめします。また、交換のタイミングを逃し、そのままにしておくとブレーキパットの交換だけでは済まなくなる場合があるので注意して下さい。費用としましては、15000円(工賃を含む)前後を目安としましょう。
■【習慣づけよう】運転前に点検しておきたい箇所はココだ
車検(24ヶ月点検)以外に定期点検(12ヶ月点検)と日常点検というものがあります。日常点検に関しては車の所有者自らが行うものです。こちらの項目の中のブレーキに関する項目として「ブレーキオイルの油量の確認」と「ブレーキペダルの“踏みしろ”の確認」というのがあります。
最低でもこちらの2点を点検することによりトラブルの発生の可能性を抑えることができます。オイル量に関しては「ブレーキオイルの劣化」の部分で説明しております。踏みしろに関しては、個人の感覚もあると思いますが効きが悪くなってくると明らかにペダルが奥までに踏み込めるようになるので参考にしてみて下さい。
特にブレーキの踏みしろなどの変化は、普段お乗りの車ならきっと感覚的に「あれ?なんとなくいつもと違うような気がする…」と気づける可能性も高いでしょう。車側が「ブレーキがおかしいよ」と発してくれているメッセージを気づかずに無視してしまうことなく、早めに対処できるように常に感覚を気にしておきたいところですね。
フェード現象でダメージを受けた車、修理費用はどれくらい?
もしフェード現象になり、その場で解消されたとしても必ずディーラーや修理工場での点検を行って下さい。フェード現象が原因で重大なダメージを受けている可能性もあります。
フェード現象が発生してしまったブレーキシステムは驚くほどの高熱を一度経験しており、ブレーキローターが歪んでしまっていたり、波打つように変形してしまっている場合もあります。ブレーキが正常に作動するためにはこれらの不具合は当然問題になりますので、部品の交換が必要になる場合もあることでしょう。
万が一修理となった場合の費用ですが、修理箇所、修理するお店ににもよるので一概にいくらとは言えませんが、ブレーキ周りに関する部品の交換やオーバーホールの相場は約20000円〜(部品代+工賃)というものが多いです。交換部分によっては50000円程度かかる場合もあるようです。また2輪ずつの交換が基本となります。詳しくはディーラーや整備工場に確認することをおすすめします。
こちらもブレーキが効かなくなる!ベーパーロック現象にも注意
続いては「べーパーロック現象」についてです。こちらの言葉、もしかすると耳に馴染みがある方もいるかもしれません。免許を取得された方なら必ず一度は耳にしているはずです。実は教習所で学習しているものなのです。おさらいも兼ねて説明していきます。
べーパーロック現象もフェード現象と同様に「熱」が原因でブレーキの効きが悪くなる現象です。ではどこが違うのかというと、熱によるダメージを受ける部分が違います。フェード現象はブレーキ部分に問題を抱えますが、べーパーロック現象はブレーキを動かす「オイル」の部分が熱によるダメージを受けてしまいます。
フェード現象のところで仕組みの説明をしましたが、フットブレーキを踏み込むと「油圧の力」によりブレーキが動いているという説明をしました。その油圧動作のために使われている「ブレーキオイル(ブレーキフルード)」が効きを悪くする原因となってしまうのです。ブレーキオイルもブレーキ同様に使えば使うほど高温になっていきます。
液体は沸騰してくると気泡が出ますよね、ブレーキオイルも同じで高温状態が続き沸騰してくると気泡が出ます。オイルが通る「ブレーキホース」の中にその気泡が大量に発生することにより、油圧動作の妨げとなってブレーキの動作を鈍くさせてしまい、ブレーキの効きが悪くなるということです。
フェード現象が発生した状態でそのまま放置すると、ブレーキオイルにまで熱が伝わってしまい、今度はブレーキフルードがベーパーロック現象を起こしてさらにブレーキ力が低下してしまう恐れもあります。異変に気づいたら、早めに停車して様子を見ることを心がけたいところですね。
まとめ
「止まれなくなる」トラブルは自分はもちろんのこと、他者を巻き込む恐れがある大事故に繋がる可能性があります。
自分の愛車が今回紹介したトラブルに見舞われることがないよう、普段からも定期的に点検をするようにしていきましょう。ちょっとした愛車の変化に気づくことできれば大きなトラブルを未然に防ぐことができます。
また、自分の運転のしかたを改善することで「フェード現象」と「ベーパーロック現象」を起こす可能性を低くすることが可能です。万が一トラブルに見舞われても焦らずに対処して下さい。焦ることによってさらにトラブルを大きくしてしまうかもしれません。
日々の小さな積み重ねが、大きなトラブルを回避できることを理解していただければと思います。
よくある質問
■フェード現象って起きるとどうなるの?
フェード現象は、ブレーキパッドが連続する使用などによって耐熱温度を超えた場合に起きる現象で、発生するとブレーキローターとブレーキパッドの間にガスが膜を張ってしまうので、ブレーキの効きが著しく低下してしまいます。
■エンジンブレーキってどうやってかけるの?
マニュアルトランスミッション車なら、適宜シフトダウンすることでエンジンブレーキの強さを調整することができます。オートマチックトランスミッション車の場合は、車種によっても記載が異なりますが、シフトレバーを「Lレンジ」や「Sレンジ」にする、パドルシフトなどをシフトダウン方向に操作するなどの方法で、エンジンブレーキの効きを強めることができます。
■長い下り坂で見かける緊急退避所、トラブルの際は使って大丈夫?
峠道などで、下り坂の途中に短く急傾斜で地面が土などで覆われた上り坂、「緊急退避所」を見かけることがあります。ブレーキトラブルなどが起きた車の車速を強制的に落とすために使われるもので、トラブル時には使用しても問題ありません。ただし、使用すると車両側へダメージを与えるおそれがあるほか、近年ではブレーキ性能の向上に伴って退避所の使用頻度が下がっていることから、維持管理がされていない緊急退避所もあるようですので注意が必要です。