だろう運転とは?
「だろう運転」とは、危険につながる状況を都合よく楽観的に予測して運転することを言います。つまり、「たぶん大丈夫だろう」と考えて運転することです。
運転免許を取ったばかりであれば、「ひょっとしたら前の車はブレーキを踏むかもしれない」「交差点から人が出てくるかもしれない」と、いろいろ心配しながら慎重に運転します。ところが慣れてくるといつの間にか「だろう運転」になってしまうことがあるのです。
経験や慣れは、プラスに働くこともあればマイナスに働くこともあります。プラスに働く場合、経験によって危険を見極める精度が増し、いち早く、また容易に危険を予測できるようになるでしょう。
しかし、残念ながらマイナスに働く場合、「だろう運転」になってしまい、危険を軽視して「きっと大丈夫だろう」と、基本をおろそかにした運転になってしまうことがあります。
ポジティブなのは素晴らしいことですが、こと自動車運転に関しては、ポジティブさよりも慎重さが優先される必要があります。「たぶん大丈夫だろう」という運転が事故を引き起こし、「まさか、こんなことになるなんて…」となってしまっては非常に残念です。
車を運転する以上、事故の危険性は必ず存在します。では、どうしたらしっかりとした危険予測をおこなえるでしょうか?そこで登場するのが「かもしれない運転」です。
かもしれない運転とは?危険を予測した運転方法
「かもしれない運転」とは、慎重な視点でさまざまな危険を想定し、余裕を持った運転することを指します。「だろう運転」の反対と考えれば分かりやすいでしょう。
「対向車が来るかもしれない」「歩行者が飛び出してくるかもしれない」など、起こりえる危険を予測して慎重に運転することです。
車の運転では、予測不能な出来事が生じるものです。赤信号でも横断歩道を渡る歩行者、何もないところで急ブレーキを踏む前の車、周りを確認せずにいきなりUターンを始める自転車など、いつ、どんな状況で突発的な事態が起きるか分かりません。
事故の多くは、こうした「危険を予測できなかった」ことに起因すると言えるでしょう。「自分ならそんな行動はしない」と思うようなことを他人が行ったとき、回避できずに事故が起こります。
ですから「かもしれない運転」を心がけることで周りの状況に気を配り、余分の危険を予測して避ける余裕を生み出すわけです。自分の常識だけで判断せず、「○○かもしれない」と考えると危険を敏感に察知できます。
ともすると、「かもしれない運転」はネガティブな考え方にも見えますが、こと自動車運転に関してはとても重要な考え方、余裕ある運転のための心構えと言えます。
「だろう運転」は法律違反?
「だろう運転」は、道路交通法違反です!
すべてのドライバーは自動車を安全に運転する義務を負っています。「だろう運転」は、安全義務に関する違反を定めた「道路交通法第70条」に違反する行為です。
道路交通法第70条とは…
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
(罰則 第百十七条の二第六号、第百十七条の二の二第十一号チ、第百十九条第一項第九号、同条第二項)
書かれている内容をひと言でまとめると「安全運転の義務」です。安全な運転を脅かすような行為を違反としており、そのような行為はすべて安全運転義務違反となるわけです。
とはいえ、とても広い範囲を対象としており、「前方不注意」「動静不注視」「安全不確認」「操作不適」「予測不適」「安全速度違反」「その他」という7分野にカテゴリー分けされます。
「だろう運転」は「動静不注視」に該当します。
■動静不注視とは?
「動静不注視」とは、相手の車や歩行者をあらかじめ認識していたものの、危険はないと判断し、注視を怠った結果、事故に至ったような場合を指します。つまり、判断の誤りが事故に至るケースです。
たとえば、交差点で右折する際、対向車に気が付いていながら先に行けると判断して接触したといった場合が動静不注視に当たります。
ちなみに、似たような事故ケースとして「安全不確認」があります。こちらは「十分な安全確認を怠った」「対向車を見落とした」「歩行者の発見が遅れた」といったケースに当てはまります。
「動静不注視」と同じ場面でいうと、交差点を右折する際、対向車に気を取られていて横断歩道を渡る歩行者に気付かず接触してしまった、といったケースです。
似ているようですが、安全不確認は判断の誤りというよりも確認自体が十分ではなかったことを言います。
「だろう運転」を、「かもしれない運転」に変えてみよう
では具体的な事故状況に当てはめて、「だろう運転」を「かもしれない運転」に変えてみましょう。
・車間距離
・交差点
・踏切
で考えてみたいと思います。
■車間距離
事故状況
見通しの良い直線道路で、前方車両が徐々に加速を始めた。普段からよく通る道路で、信号もしばらくないため、前の車はこのまま「加速するだろう」と思って自分も加速。
ところが前方車両は減速し、自分は止まり切れずに追突した。実は工事渋滞が起きていた。
だろう運転→かもしれない運転へ
これは危険を予測しにくい状況だったかもしれません。よく知っている道のため、このまま加速する「だろう」という思い込みが、事故につながりました。
工事渋滞に限らず、信号のない道路でも前の車が減速する状況はさまざま考えられます。前の車に続けて走る時は、もしかしたら歩行者がいきなり車道に飛び出してきて、急ブレーキを踏む「かもしれない」と考える習慣を持つのはどうでしょうか?
■交差点
事故状況
信号機のない交差点で右折待ち。そのとき、渋滞中だった対向車線の車両が道を譲ってくれた。
他に侵入してくる車も見当たらず、「安全だろう」と思って右折したところ、渋滞中の車両の左わきを抜けて直進してきた相手バイクと接触した。
だろう運転→かもしれない運転へ
右直事故と呼ばれる事故形態ですが、譲ってくれた安心感から、安全「だろう」という楽観的に判断してしまい、事故につながりました。
こうした事故形態は、教習所や免許更新の講習などで、よく扱われる事故ケースです。このパターンを覚えておいて、車は止まってくれているけど、バイクは来る「かもしれない」と考えたいものです。
■踏切
事故状況
前方の車が一旦停止したのち、踏切を通過したので自分も「進めるだろう」と考えて踏切に進入したところ、前方が混雑していて渡りきれず、踏切内に立ち往生。
その後、通過列車と衝突してしまった。
だろう運転→かもしれない運転へ
前の車両が進むと、自分も進める「だろう」と思ってしまいがちです。前の車に続けて進むことを繰り返していると、習慣になってしまうのかもしれません。
前が渋滞している「かもしれない」と考えて、自分の車が進めるスペースを見つけてから発進したいですね。特に、前の車がトラックなどの大きな車の場合、踏切先の道路状況が分からないも多いので注意しましょう。
「かもしれない運転」を応用して、運転中のイライラをコントロールしよう
運転中、ついイライラしてしまうことはありませんか?
そのイライラは、事故の危険性を高めますし、いま話題の「あおり運転」につながってしまうかもしれません。そんなとき、「かもしれない運転」を応用するとイライラのコントロールに役立ちます。
イライラはさまざまな要因で発生しますが、そのひとつは考え方や信じているものを否定されたときです。「○○するべき」という自分の価値観が否定されたとき、イライラの感情が生まれます。
たとえば、運転中に「加速するべきだろう」とか「信号が変わる前に行くべきだろう」「なんで減速したんだ」といった、相手が自分と異なる判断をしたときにイライラが起こります。行動や判断のギャップが繰り返されると、イライラがさらにヒートアップして「怒り」になることもあります。
そんなとき、相手の行動を「かもしれない運転」で予測していると、ギャップが小さくなります。あらかじめ「前の車は信号で止まるかもしれない」と考えて運転しているなら、実際に急に止まったとしてもギャップの幅が小さいのです。
ですから「かもしれない運転」は、危険を予測するときだけでなく、イライラを減らすための思考コントロールにも役立つでしょう。
「かもしれない運転」を実践して、楽しいカーライフを送ろう!
日頃の運転を振り返ってみると、「だろう運転」は、さまざまなところに存在することが分かります。経験を積んだベテランドライバーほど、そのような運転になりがちかもしれません。
「相手はきっとこう動くだろう」と決めつけてしまうと、危険が見えなります。ぜひ、周囲のさまざまな状況を「かもしれない」と考えることで、危険予測し、事故を未然に防ぎたいものです。
「だろう運転」から、「かもしれない運転」にすることで、いっそう充実したカーライフを楽しみましょう!