人身事故の定義
事故によって被害者が傷害を負った場合や、死亡した場合の事故のこを「人身事故」といいます。
交通事故は、大きく「物損事故」と「人身事故」に分けられます。
「物損事故」は、交通事故の中でも自動車が破損したなどの物に損害が発生した事故のことで、対する「人身事故」は、事故の相手がケガをしたり、死亡したり、身体に損害(人損)が発生した事故のことをいいます。
物損と人損の両方が発生した場合は、「人身事故」として扱われます。
このページでは、人身事故について詳しくご説明します。
人身事故を起こした時に受ける処分
人身事故を起こしてしまうと、加害者には「行政処分」「刑事処分」「民事処分」、3つの責任を負う義務が発生します。
以下で詳細を説明していきたいと思います。
■行政処分
行政処分とは、「行政」が行う処分のことをさします。
交通事故、交通違反は「警察」「公安委員会」が担当行政となり、交通事故の内容や責任の重さに応じて運転免許に違反点数を加算し、点数が一定の基準に達すると「免許取り消し」や「免許停止」などの処分を受けることになります。
行政処分の具体的な内容は、
・違反点数
・免停
・免許取消
・欠格期間(免許を再取得できるまでの期間)
・反則金
となります。
「青キップ」といわれる交通違反は、違反点数を加算されて、反則金を払っておしまいです。
これは、行政処分のみで済む交通違反のこととなります。
これに対し、「赤キップ」の交通違反は、行政処分に加えて次の項でご説明する刑事処分が加わります。
交通事故を起こしたとき、運転者に対する行政処分は、運転者の過失と被害状況(ケガの重さなど)で大きく変化します。
■刑事処分
刑事処分とは、裁判で罰金や懲役が決まる刑罰のことです。
社会の法秩序の維持を目的とした処分で、人身事故を起こすと刑事事件として立件され、道路交通法や自動車運転死傷行為処罰法により、危険運転致死傷罪や過失運転致死傷罪、殺人罪などに問われ、罰金刑、懲役刑、禁固刑などの刑罰が科されることがあります。
交通事故を起こした時、運転者の過失が大きく、被害者のケガが重くなる場合には、刑事処分の対象となり裁判に掛けられます。
交通事故が発生した場合、警察は現場検証を行い、運転者を検察に書類送検するかどうかを判断し、その後、検察は事故を起訴するかしないかを決定します。
不起訴処分になれば、運転者は罰金や懲役などの刑罰に値しないということになります。
起訴の場合は、「略式裁判」か「通常裁判」の2つに分かれ、これも運転者の過失の大きさや被害者のケガの状態によって判断されます。
事故の過失が比較的少ないと、略式裁判によって裁判所が罰金を定め、運転者へ通知して終わりになります。この時、運転者は決定された罰金に異議申し立てはできません。
死亡事故の場合には、ほぼ通常裁判になるでしょう。
■民事処分
民事処分とは、被害者への賠償金や慰謝料の支払いといった、民事上の責任が主な内容となります。
自動車保険に入っていれば、民事処分で発生する賠償金、慰謝料は保険会社から支払われます。
民事処分は、保険会社からの示談で終わるケースがほとんどですが、被害者側が賠償額に満足のいかないときになど、示談で決着が付かないときには「民事裁判」となります。
これは、事故の加害者となった人は、被害者に対して賠償責任を負わねばならないという法律に基づいています。
公道を走る車には「自賠責保険」の加入が義務付けられているのはこのためで、自賠責保険では、事故の被害者の最低限の賠償を補償するものとなっています。
人身事故を起こした時の違反点数
交通事故や交通違反に対する行政処分には、違反点数制度と反則金制度があります。
違反点数制度・・・過去3年以内に加算された違反点数の合計により処分が決定するもので、基準の点数に達すると免許取り消し、免許停止となります。
交通事故を起こすと、交通違反で加算される基礎点数に加え、交通事故による「付加点数」が加算されることになります。
交通違反の基礎点数は、
・危険性の低い「一般違反行為」
・危険性・悪質性の高い「特定違反行為」
に分けられます。
一般違反行為の中で、課される点数が最も重いもののひとつが酒気帯び運転と過労運転です。
・酒気帯び運転(呼気から0.25%以上のアルコールが検知された場合)
・過労運転(疲労、病気、薬物の影響などにより正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転すること)
いずれも25点が加算され、その1回の違反で免許取消となります。
人身事故を起こすと免停(免許停止)や免許取り消しになる?
免停(免許停止)とは、免許が一時的に無効になる行政処分のことです。指定された期間が過ぎれば再び免許が有効になります。
過去3年間に免停などの処分が下された回数と、課された点数によって免停の期間が決まり、免停などの処分を多く受けた人ほど、低い点数で免停になります。
例えば、過去3年間の免停などの回数なしの場合は、6~8点加算で免停30日なのに対し、過去3年間の免停などの回数が3回の場合には、3点加算で150日間免停になります。
これに対し免許取り消しとは、文字通り免許が取り消されてしまう行政処分のこと。免停とは違い、いずれ免許の効力が復活するわけではないので、免許を取得したい場合は再び教習所に通わなければいけません。
また、一定の間は免許の再取得が許されない「欠格期間」も課されるので、免停と比べてより重い処分であるのがわかりますね。
こちらも例をあげるとすると過去3年間の免停などの回数なしの場合は、15~24点加算で欠格期間が1年なのに対し、過去3年間の免停などの回数が3回の場合には、4~9点加算で同じく欠格期間が1年になります。
人身事故を起こした時の罰金
刑事処分は、事故の経緯や被害者の負傷の度合によって、罰金刑、懲役刑、禁固刑が科せられます。
処分には「自動車運転死傷行為処罰法」違反と、「道路交通法」違反の2通りがあり、自動車運転死傷行為処罰法による刑事罰の方がより重いものとなります。
自動車運転死傷行為処罰法の中でも、飲酒運転や制御困難な高速度運転など、悪質な違反については「危険運転致死傷罪」が適用され、たとえば飲酒運転により死傷事故を起こした場合には、死亡事故では1年以上20年以下の有期懲役、負傷事故は15年以下の有期懲役が科されます。
「過失運転致死傷罪」の場合には、7年以下の懲役もしくは禁固刑、または100万円以下の罰金が科されます。刑事罰は事故の内容により大きく異なるため、一概に示すことはできませんが、参考・目安は以下の通りとなります。
死亡・・・懲役刑7年以下もしくは禁錮刑
治療期間が3カ月以上または後遺障害あり・・・懲役刑・禁錮刑 罰金刑50万
治療期間が30日以上3か月未満・・・罰金刑30万~50万円
治療期間が15日以上30日未満・・・罰金刑20万~30万円
治療期間が15日未満または建造物の損壊にかかる交通事故・・・罰金刑12万~30万円
もし人身事故を起こしてしまったらどう対応すべき?
事故を起こした直後に現場で行うべきことは、以下の通りです。
1:被害者の救護
2:事故状況を確認
3:二次被害の防止
4:道路の安全確保
5:警察への通報
6:実況見分調書の作成への立ち会い
7:被害者の連絡先などの確認
8:事故状況の記録や目撃者の確保
9:保険会社への連絡
この中でも、1~5については事故を起こした者が行うべき措置として法律に定められた義務となっています。
救護措置をとらずに現場から立ち去ってしまうと、「ひき逃げ」(救護義務違反)となり処罰されます。被害状況を確認せず、負傷者がいることに気づかないで現場を去った場合も同様です。
事故を起こしてしまったら、必ず負傷者の有無を確認し、救護すること、もし死亡している場合には、遺体を路上に放置せず、安全な場所に移動させるか、二次災害を防ぐために交通誘導などを行いましょう。
1~5をまず行った後は、事故の証拠収集をしておくと後々で役に立ちます。
目撃者がいた場合には、その方の住所、氏名、連絡先などを聞いておきましょう。また状況が許すのであれば、スマートフォンなどのカメラで現場を撮影しておくとよいでしょう。
人身事故を起こさないよう安全運転を!
事故は起こさないのが一番ですが、人身事故で負う責任や罪などの重さや、事故に対する認識をしっかりと持ち、事故発生時の対処などについて、よく理解しておくことが大切です。
くれぐれも安全運転を心掛けましょう。