フェラーリといえば、心を震わせるV8やV12サウンドを思い浮かべる人が多いだろう。だが、電動化の波が押し寄せる今、その伝統のエモーションを次の時代へ繋ぐ使命を担ったモデルがある。
それが──フェラーリ296GTBだ。
2.9リッターV6ツインターボと電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッド。
数字上の出力は830psと、かつてのV8モデルを凌ぐ。だが、この車の本質はスペックではない。
「電動化してもフェラーリはフェラーリであり続ける」──その信念を、ドライバー自身の五感で証明するためのマシンなのだ。
ここからは、歴代モデルとの違い、そして296GTBが放つ“新しい官能”の正体を掘り下げていこう。
伝統と革新の交差点
フェラーリ296GTBは、マラネロの歴史に新たな1ページを刻むモデルだ。
これまでV8またはV12エンジンを核としてきたフェラーリが、V6+電動化という大胆な挑戦に踏み出した。だがそれは「環境対応のための妥協」ではなく、「ドライビングプレジャーを次の次元へ進化させるための必然」だった。
V6+PHEVという新次元のパワートレイン
従来のV8ミドシップモデル(488GTB、F8 Tributo)とは異なり、296GTBには2.9リッターV6ツインターボ+電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムが搭載されている。
総出力は 830ps(ICE 663PS+モーター167PS)。
V8を凌駕するパワーを誇りながら、レスポンスとトルクデリバリーの滑らかさはまさに次元が違う。
低速から瞬時に立ち上がるトルク、そして電動アシストによる無音の加速体験は、“サイレントフェラーリ”という新しい官能をもたらしている。
ショートホイールベースが生むピュアなハンドリング
296GTBの「296」という名の由来は“2.9リッター+6気筒”。「GTB」は“Gran Turismo Berlinetta”を意味する。
ホイールベースはF8より50mm短く、旋回性とダイレクト感が圧倒的に向上している。
まるでフェラーリのDNAを凝縮した“コンパクト・スーパーカー”のような感覚で、車との一体感が極めて高い。
電動化しても「官能」は消えない
フェラーリの本質は、数字ではなく「感性」。296GTBは、電動化してもその“音・振動・反応”が驚くほど生きている。
特にV6エンジンの咆哮はF1のV6ハイブリッドを彷彿とさせ、マラネロのエンジニアたちが“Ferrariness(フェラーリらしさ)”をどう継承したかが体感できる。
美と技術の融合
デザインは、クラシックな250LMなど往年の名車からインスピレーションを受けつつ、滑らかでモダンなエアロフォルムに進化。
リアの一体型ライトバーやクリーンなサイドラインが、未来志向のフェラーリ像を体現している。
インテリアもデジタル化されながらも、ドライバー中心の“コクピット哲学”は健在だ。
新時代の“ピュア・フェラーリ”
296GTBは、環境対応車でも、単なるハイブリッドでもない。それは「フェラーリがフェラーリであり続けるための再定義」そのものだ。
電動化時代においても、“運転する悦び”という核心は一切揺らいでいない。むしろ、これほどピュアで刺激的なフェラーリは、近年では稀だと言っていい。


