アメリカ大統領専用車「ビースト」ことキャデラック・ワンとは
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■ビースト(キャデラック・ワン)の名前の由来
キャデラック・ワンという名称は、アメリカ大統領専用機「エアフォース・ワン」や大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」と同じ規則によって名付けられています。「ワン(One)」は、“アメリカ合衆国大統領が搭乗する唯一の乗り物”という意味を持ち、国家元首専用であることを示す象徴的なコードネームです。
「ビースト(The Beast)」という愛称は、ジョージ・W・ブッシュ政権の後半から本格的に使用され始めました。
当時の専用車は防弾・防爆性能を極限まで高めた特殊装甲車として開発され、その圧倒的な存在感から、“人類が造り出した地上最強の野獣”という意味を込めて「ビースト」と呼ばれるようになったのです。
こうした背景から「キャデラック・ワン」と「ビースト」はどちらも正式名称として使用されており、「キャデラック・ワン」は大統領専用車の公式名称、「ビースト」はその機能・性能を象徴する通称として世界的に広まりました。
■ビースト(キャデラック・ワン)の製造と値段
ビースト(キャデラック・ワン)は、アメリカの自動車メーカー「ゼネラルモーターズ(GM)」が開発した、大統領専用の特別仕様車です。
2009年に初めて「キャデラック・プレジデンシャルリムジン」として公表され、現行モデルは2018年にドナルド・トランプ大統領の就任期間中に導入されました。従来は市販のキャデラック車を改造していましたが、安全保障上の限界に達したことから、現在のビーストはゼロから特別に設計された“完全専用開発車両”となっています。
気になるビーストの値段については、アメリカ政府やGMから公式発表はありません。しかし、複数の米メディアによると、1台あたりの製造コストは約150万ドル(2025年10月現在で約2.3億円)に上るという情報も。
製造台数は約12台とされており、全てがほぼ同じ仕様で製造。アメリカ大統領が海外訪問する際には、そのうちの2台以上が専用輸送機で事前に送り込まれます。
同じ仕様の車両を複数用意する理由は、どの車に大統領が乗っているのかを外部から判別できないようにし、攻撃リスクを分散させるため。実際に前回2018年にトランプ大統領が来日した際にも、2台のビーストが日本国内を走行し、それぞれ異なる外交官ナンバーを装着する徹底した防諜体制が確認されています。
■ビースト(キャデラック・ワン)の輸送方法
ビースト(キャデラック・ワン)がどうやって日本に輸送されるのか?という疑問は、多くの人が抱く興味ポイントの一つです。
まず、大統領が搭乗する大統領専用機「エアフォース・ワン」には、ビーストを積載できるだけのスペースがありません。そのためビーストは、大統領よりも先に、アメリカ空軍が運用する全長約53メートル、最大搭載量約77トンを誇る大型輸送機「C-17 グローブマスターIII」によって輸送されます。
日本来日の場合、ビーストはアメリカ大統領より数日前に日本の空軍基地へ搬入され、到着後はアメリカ海兵隊や在日米軍の警護部隊によって厳重に管理されます。
また、ビースト以外にも護衛車両、通信指令車、支援スタッフが乗るSUVなどの「大統領車列(モーターケード)」も同時に運ばれ、到着後すぐに運用できるよう体制が整えられています。
ビースト(キャデラック・ワン)が備える驚きの装備の数々
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サイズやエンジンをはじめとしたビースト(キャデラック・ワン)の車両スペックは最高機密であり、一切公表されていませんが、一部メディアなどでも取り上げられていた情報から、アメリカ大統領を守る大統領専用車であるキャデラック・ワンを「野獣」「ビースト」と言わしめる驚きの装備を紹介します。
■堅牢かつ強固な装甲
ビースト(キャデラック・ワン)の最大の特徴は、まさに“走る要塞”と呼ばれるにふさわしい圧倒的な装甲性能にあります。
車体には鉄鋼、アルミニウム、チタン、セラミックといった複数の軍事用素材が多層構造で組み込まれ、外装は戦車並みの耐久性を備えています。総重量は約8〜9トンともいわれており、通常の高級リムジンの約4倍に相当する驚異的な重量です。
装甲ドアの厚さは約8インチ(約20センチ)で、家庭用の金庫や装甲車をはるかに上回る強度を誇ります。窓ガラスも防弾仕様で厚さは5インチ(約12.7センチ)。これらの窓は銃弾や狙撃を完全に防ぎ、外部からの衝撃を一切車内に伝えないよう設計されています。
運転席の窓のみ、内部から外部の状況確認や信号の受け渡しができるよう、わずか3インチ(約7.6センチ)だけ開く仕様が採用されていますが、それ以外の窓は完全固定で隙すらありません。
さらに、車体の下部には爆発物対策として耐爆プレートが敷かれ、地雷・手榴弾・IED(即席爆発装置)といった攻撃にも耐えられる構造となっています。
また、燃料タンクには特殊な耐火・耐爆フォーム(発泡素材)が充填されており、銃撃を受けても引火しないよう設計されています。これは映画で見られるような“燃料タンクへの攻撃で爆発”といった状況を完全に無効化するためのものであり、まさに実戦レベルの装備といえます。
■パンクしても100km走行可能なタイヤ
ビースト(キャデラック・ワン)の驚異的な防御性能は車体の装甲だけではありません。走行を支えるタイヤにも極めて高度な軍事レベルの技術が採用されています。
ビーストには、アメリカのタイヤメーカー「グッドイヤー(Goodyear)」が特別に開発したランフラットタイヤが装着されており、このタイヤは通常の道路走行だけでなく、戦闘状態を想定した“緊急脱出”にも対応しています。
ランフラットタイヤとは、タイヤ内部に特殊な補強構造が施され、たとえ銃撃や爆破によって空気が抜けても潰れず、一定距離を走行できる特殊タイヤのこと。
ビーストに使用されているランフラットタイヤは、軍用防弾チョッキにも使われるケブラー繊維で補強されており、破壊への耐性が非常に高く設計されています。ケブラーは鋼鉄の約5倍の強度を持ちながら軽量であるため、タイヤの側面を守る素材として非常に適しています。
ビーストのタイヤは完全にパンクした状態でも約100kmの走行が可能とされています。また、ゴムがすべて失われたとしても、内部の強化リム(ホイール部分)のみで走行できる仕組みが採用されているとのこと。
さらに、タイヤとホイールは車体装甲に合わせた特注設計となっており、防弾性だけでなく耐火性・耐衝撃性にも優れています。万が一、道路や周囲の状況が混乱していても、ビーストは停止することなく走行を続けられるため、あらゆる状況で大統領の安全を確保することができるのです。
■乗車するアメリカ大統領と同じ血液型の血液を格納
ビースト(キャデラック・ワン)は「攻撃から守る装甲車」という枠を超え、万が一の負傷時に大統領の命をその場で救うための「移動医療室」としての機能も備えています。
車内には強固な密閉構造が施され、化学兵器などの有害物質から乗員を守る独立した空気循環システムが設置され、さらに車内の冷蔵庫に「大統領と同じ血液型の輸血用血液バッグ」が常備されています。
これは、大統領が攻撃や事故により負傷した場合、最短数秒以内に応急処置を開始できるようにするため。ビーストには、軍用医療訓練を受けた専属スタッフが同乗しており、必要であればその場で止血・輸血・心肺蘇生を行うことができます。血液は常に最新のものに入れ替えられ、温度管理も軍事基準で保たれているといいます。
さらに、車内には除細動器や人工呼吸器、救命用の酸素ボンベも装備されており、車両そのものが“走る集中治療室(ICU)”として機能するよう設計されています。これにより、銃撃や爆破といった致命傷となり得る攻撃を受けた場合でも、大統領が病院に搬送されるまでの間に迅速な救命処置を受けられる体制が整えられているのです。
こうした医療装備は、他国の政府専用車には見られない極めて高度なものです。まさに、アメリカ大統領がどこにいても国の指導権を保持できるよう設計された、究極の危機管理システムといえるでしょう。
■その他、大統領を守る装備の数々
ビースト(キャデラック・ワン)は、前述のような装甲や医療設備だけでなく、想定されるあらゆる脅威から大統領を守るための極秘装備が多数搭載されています。
さらに、防御だけでなく「反撃のための装備」も備えられています。催涙ガスを噴射する装置や、高圧放水機構、ショットガンなどの近接武器が格納されているとされ、必要に応じて警護チームが即時に使用できるよう準備されています。
これにより、突然の襲撃にも迅速な対応が可能です。また、通常の走行に支障が出るような状況でも活動できるよう、暗視カメラや赤外線映像システムが搭載されており、ヘッドランプが破壊されても夜間走行が継続可能です。
通信面においても、ビーストは「地上を走る指令センター」として機能します。車内には大統領専用の衛星電話が内蔵されており、副大統領やペンタゴン(アメリカ国防総省)と直接通信が可能です。この通信システムは暗号化されており、どのような緊急事態においても大統領が即座に指揮命令を出せる体制が整えられています。
これらすべての装備は、アメリカ大統領を守る車として「世界最高レベルの防衛機能を備えている」というだけでなく、「車両そのものが国家機能の一部である」という設計思想のもと組み込まれています。まさに「地球上で最強の野獣(ビースト)」の名にふさわしい、圧倒的な防御・攻撃・指揮能力を備えた唯一無二の車両といえるでしょう。
アメリカ大統領専用車の歴史
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■ビーストの前身と初の登場
アメリカ大統領専用車の歴史は、1910年代、第27代ウィリアム・タフト大統領がホワイトハウスに初めて自動車を導入したことから始まりました。
当時は装甲などは施されておらず、大統領の移動は「威信の象徴」という意味合いが強かったため、高級車が採用されていました。しかし、20世紀半ば以降、大統領暗殺未遂事件やテロの脅威が増えたことを背景に、大統領専用車は「豪華な乗り物」から「守るための車両」へと大きく役割を変えていきます。
現代のビースト(キャデラック・ワン)へとつながる直接の前身は、2001年から導入された「キャデラック・デビル」および「DTS・プレジデンシャル・リムジン」と呼ばれるモデル。
これらはジョージ・W・ブッシュ大統領の就任式や外交訪問で使用され、初めて本格的な装甲仕様が採用されました。特に2005年の2期目就任式で登場した「DTS・プレジデンシャル リムジン」は、すでに“ビーストの原型”と呼ばれるほどの防御機能を搭載しており、窓の開閉制限や燃料タンクの防爆構造などが採用されています。
そして2009年、第44代バラク・オバマ大統領の就任式で、新型の大統領専用車を発表。これが初めて公式に「ビースト(The Beast)」の名で呼ばれたモデルです。
この流れを踏まえると、ビーストは突然登場したわけではなく、時代の脅威とテクノロジーの進化によって100年以上かけて発展し続けた「大統領を守るための技術の結晶」であることがよくわかります。
■さらにセキュリティが強化された現行モデル
このバラク・オバマ大統領時代に導入されたビースト(キャデラック・ワン)は、その時点ですでに「地上で最も安全な車」と言われるほどの防御性能を備えていましたが、2018年、トランプ大統領はさらなるセキュリティ強化のため、追加予算およそ17億円の追加予算を投じ、さらなるセキュリティ強化を施したとの情報も。
この追加予算は単なる車両の更新という意味だけではなく、変化する国際情勢への対応を目的としています。特にトランプ大統領就任当時は、核開発を進める北朝鮮、ロシアとの緊張、テロの高度化など、世界的に安全保障リスクが高まっていました。
そのため、従来の装甲や通信機能に加え、電子戦(EMP)対策・サイバー攻撃防御・化学兵器への耐性といった新たな機能が求められたのでしょう。
一見すると「すでに十分強固に見えるビーストをなぜさらに強化するのか」と思われるかもしれません。しかし、ビーストは単に大統領を守るための乗り物ではなく、「アメリカ合衆国の威信と力そのものを象徴する存在」です。
世界中のメディアや国民の視線が注がれる中で使用されるビーストは、最新技術と圧倒的なセキュリティを備えることで、アメリカが世界に示す“揺るがない安全保障”の象徴になっています。
まとめ
今回のトランプ大統領の来日をきっかけに、「ビースト」ことキャデラック・ワンへの注目が一段と高まっています。
この記事では、その名称の由来から製造背景、数億円ともいわれる製造費用、軍事レベルの装甲やランフラットタイヤ、血液や酸素を備えた医療設備、衛星通信による国家指揮機能など、ビーストが“走る要塞”と呼ばれる理由を多角的に紹介しました。
今後の世界情勢を背景に、ビーストはさらに進化を遂げる可能性が高く、日本でその姿を目にできる機会は大変貴重です。今後も大統領専用車「ビースト」の動向から目が離せません。


