ダウンフォースとは
マクラーレンMSO Defined High Downforce Kit
自動車が走行する際に空気の流れによって生じる地面に押し付けさせる力(負の揚力)のことを、ダウンフォースと言います。
一般的に自動車が加速したり減速するためには、タイヤと路面との間で十分な摩擦力が確保されている必要があります。タイヤと路面の摩擦力が不足すると、車輪が空転したりスリップを起こしやすくなります。
摩擦力の大きさはタイヤを路面に押し付ける圧力(接地圧)に比例して大きくなりますが、市販車や大型車は車体の重量が大きいので、タイヤと路面の間で十分な摩擦力が確保されます。
これに対してスポーツカーは車体の重量が軽い上に高速走行をするので接地圧が低く、タイヤと路面の摩擦力が不足して車輪が空転したりスリップを起こす恐れがあります。
自動車が高速走行をすると車体上部よりも下部を流れる空気のほうが圧力が高くなるので、車体を浮かせる力(揚力)が働きます。
自動車が揚力を受けるとタイヤの接地圧が低下したり車体が不安定になるので、スリップや横転の危険性が高まります。
高速走行をするスポーツカーでは揚力を打ち消す目的で、車体を地面方向に押し下げるダウンフォースを得るための羽(ウイング)が取り付けられる場合があります。
レーシングカーや一部のスポーツカーには車体後部にダウンフォースを生じさせるためのウイングが取り付けられていますが、これは飛行機の翼と逆の働きをするように設計されています。自動車用のウイングの断面は、高速走行時に下方向に揚力を発生させるような形状になっています。
■ダウンフォースの効果
自動車の車体に ウイングやスポイラーを取り付けることで、高速走行時にダウンフォースを生じさせることができます。
ダウンフォースを生じさせると高速走行時でも車体を安定させることができますし、タイヤのグリップ力を維持する効果が得られます。
レーシングカーであれば、ウイングなどでダウンフォースを発生させることでコーナリング時のスリップを防ぐことができます。
スポーツタイプの一般車でも、ダウンフォースを生じさせるパーツを車体に取り付けることで高速道路を走行する場合に車体を安定化させたりタイヤの空転やスリップを防ぐ効果が期待できます。
適切に設計されたエアロパーツを使用することで、車体後方の空気の流れを整える効果も得られます。車体後方に流れる空気の渦の発生を抑制することで、空気抵抗を低減させる効果があります。
自動車の車体には慣性の法則が働いているので、軽量化させることで加減速やコーナリング性能を向上させることができます。
ただし車体を軽量化しすぎると走行時の安定性が失われたりタイヤの接地圧が低下してグリップ力が低下するので、スリップを起こしたり横転する危険性が高くなってしまいます。
タイヤのグリップ力を確保したり車体の安定性を維持させるためには、ある程度の重量が必要です。
車体に軽量のエアロパーツを取り付けてダウンフォースを生じさせることにより、車体重量を大幅に軽量化させても高速走行時にタイヤのグリップ力を確保したり車体を安定させることが可能になります。
■ダウンフォースのデメリット
ダウンフォースには高速走行時に車体を安定させたり車輪のスリップや空転を防ぐという効果がありますが、デメリットも存在します。
ダウンフォースを発生させるためには車体にエアロパーツを取り付ける必要がありますが、パーツの重量によって車体が重くなってしまいます。
また、ダウンフォースは空気の流れを意図的に変えて地面方向に押し付けさせるので、高速走行時に車体が受ける空気抵抗が増加するというデメリットもあります。
走行抵抗が大きくなると加速性能が低下しますし、燃費が悪くなってしまいます。ダウンフォースは時速80km~100km以上で効き目があらわれるため、低速走行時はほとんど効果がありません。
低速走行時は、車体が受ける空気抵抗が大きくなったり車体重量が増加するなど、デメリットのほうが大きくなってしまいます。
このため、市販車用のエアロパーツは走行時の空力特性を改善することよりも、見た目を重視して設計されている製品が多いです。
ダウンフォースと燃費の関係
NSXタイプR
ダウンフォースを発生させるために、自動車の車体にエアロパーツを取り付けると燃費が悪くなるというデメリットがあるので注意が必要です。
エアロパーツが燃費を悪化させる主な理由として、車体重量と空気抵抗の増加の2つが考えられます。余分なパーツを取り付けると、車体が重くなるので加速時に余分の燃料を消費してしまいます。
これに加えて車体に突起物があると空気抵抗が増加するので、高速走行時に車体が受ける抵抗(ドラッグ)が大きくなります。自動車の燃料消費量は、空気抵抗に応じて増えてしまうので注意が必要です。
一般的に空気中を移動する物体は、空気抵抗を受けます。空気抵抗の大きさは、物体の前面投影面積(車両を前方から見た時の面積)に比例します。
例えば、自動車の車体の前面投影面積が1.5倍になると、同じ速度で走行する場合でも空気抵抗が1.5倍に増加することになります。
エアロパーツを取り付けると、パーツの大きさに比例して走行時に車体が受ける空気抵抗が増加します。一般的に自動車が走行時に受ける空気抵抗の大きさは、速度の2乗に比例します。
例えば、時速30kmから3倍の90kmに加速すると、車体は低速走行時と比較して9倍(3の2乗)の空気抵抗を受けることになります。
高速走行時にエアロパーツによって生じるダウンフォースの大きさも大きくなりますが、車体が受ける空気抵抗も増加することで燃費が悪くなってしまいます。
高速走行時にはエンジン出力の一部を使用してダウンフォースを発生させることになるので、余分の燃料を消費します。
ちなみに、一部のスーパーカーはダウンフォースを発生させて車体を安定させる目的で、高速走行時に自動的にウイングやリヤスポイラーが開く機能を搭載しています。
低速走行時にはエアロパーツを格納することで、空気抵抗による走行抵抗の増加や燃費の悪化を防ぐことができるからです。
ダウンフォースとドラッグの関係性
マクラーレン・セナ GTR
ダウンフォースを発生させるためのエアロパーツは、それ自体が空気抵抗(ドラッグ)を生じさせるというデメリットがあります。
適度なダウンフォースを発生させるとタイヤのグリップ力が得られるので、加速力の増加が期待できます。ただし、エアロパーツは走行抵抗を生じさせてしまうので、同じ速度で走行する場合でもより多くの推力が必要になります。
ダウンフォースとドラッグ(空気抵抗)はトレードオフの関係にあるので、車体重量・最高速度やエンジン出力を考慮した上で適切なサイズのエアロパーツを設計する必要があります。
一部の市販車はメーカーオプションでエアロパーツを追加することが可能ですが、ダウンフォースと空気抵抗の関係を計算して設計されているので一定の効果が得られます。
ただし、市販車向けの純正エアロパーツは公道を走行する状況を想定して設計されているため、レース仕様車と比べると小さくなっています。
純正パーツ以外に、カーショップなどで販売されているエアロパーツを購入して自分で取り付ける方法もあります。
このような場合は重量増加・空気抵抗とダウンフォースの関係が十分に考慮されていない場合もあり、燃費や走行性能に悪影響を及ぼしかねません。
まとめ
マクラーレン・セナ GTR
軽量なスポーツカーが高速走行をする場合は、ダウンフォースを生じさせるエアロパーツを取り付けることで車体を安定させたりタイヤのグリップ力を維持する効果が期待できます。
ただしダウンフォースを得るためには余分の燃料を消費しますし、エアロパーツ自体の空気抵抗によって走行性能が悪化するというデメリットもあります。
マイカーにエアロパーツを取り付ける場合は、ダウンフォースと空気抵抗の関係が十分に考慮されて設計されたものを使用するようにしましょう。