トゥデイって、どんなクルマ?
■ぺったんこ革命!初代トゥデイ
《撮影 島崎七生人》ホンダ・トゥデイ
《撮影 島崎七生人》ホンダ・トゥデイ
ホンダ・トゥデイは1985年に発売された、ホンダの軽乗用車です。かつて、N360で日本の軽自動車市場を席巻したホンダが、「11年ぶりに商用車以外の軽自動車市場に再参入する」という事で、ライバルとなる軽自動車メーカーは戦々恐々としていたかもしれません。
しかし、実際に発売されたのは「ぺったんこ」な軽自動車。軽自動車は、室内空間を稼ぐために背高ノッポなデザインが当たり前の時代に、「背が低い」トゥデイは異例のデザインを持つ軽自動車として、軽自動車市場に衝撃を与えました。
なにせ、1981年に背が高い「トールボーイ」デザインの「シティ」を大ヒットさせて、背の低いクルマの方がカッコいいと言う価値観を打ち砕いたのは、当のホンダだったからです。
そのホンダが、今度は「背が高いのが当たり前」の軽自動車で「背の低いクルマ」を発売したのですから、ホンダという会社は本当に変わった、というか、人と同じことをするのが大嫌いな会社なんですね!
背が低く、タイヤをボディの四隅に追い出したトゥデイは、ボンネットの長さも極端に短く、ボンネットラインが強く傾斜したフロントウィンドウに流れるように続く、ワンモーションフォルムのスタイリングを持っていました。
《撮影 島崎七生人》ホンダ・トゥデイ
《撮影 島崎七生人》ホンダ・トゥデイ
実際、ライバルであるスズキ・アルトや、ダイハツ・ミラが1,400mm近い車高だったのに対し、トゥデイの全高は10センチ近く低い1,315mm。そして、ホイールベースはライバル達よりも10〜15cm近く長い、2,330mmに設定されていました。
そのロングホイールベースのお陰で、車高は低くとも、居住空間はしっかりと確保されていまいた。ボンネットの長さが短いので室内長も長く取れ、当時の軽自動車としては例のない、低く座るスポーティなドライビングポジションが取れるクルマでした。
車高の低さは重心を下げる事にも大きく寄与していて、ロングホイールベースと合わせて、トゥデイの走行安定性は当時の軽自動車のなかでは非常に優れた、スポーティとも言えるドライビングフィールを持っていました。
フロントバンパーに下半分が食い込むように配置されている丸目2灯のヘッドライトのデザインもユニークで、トゥデイは当時の実用一辺倒だった軽自動車に飽きたらなかった、軽自動車にもファッション性やスポーティさを求める人達から、好評をもって迎えられました。
■マイナーチェンジで3気筒化、さらに660cc化
ホンダ・公式ホームページより 初代 ホンダ・トゥデイ 後期型(550ccモデル)
1988年にトゥデイは大規模なマイナーチェンジを行い、エンジンがバイク用エンジンを半分に切った直列2気筒エンジンから、最初から乗用車用に開発された直列3気筒エンジンに変更されました。さらに、ホンダがPGM-FIと呼ぶ電子制御燃料噴射装置搭載のハイパワーモデルも設定されました。
駆動系は、ホンダマチック・トランスミッションが3速セミオートマから、3速フルオートマに進化し、エンジンの変更と併せて走行性能は大幅に向上しました。
デザインは、ヘッドライトが丸目から角目に変更されています。
1990年には軽自動車の規格拡大に併せてボディの全長が10cm伸ばされ、エンジンの排気量も660ccに拡大されました。
その後、4WDモデルの追加やパワーステアリング搭載モデルの追加など、商品成功上のための小規模な改良が繰り返されています。
■よりパーソナルに!ファッショナブルに!2代目トゥデイ
ホンダ・公式ホームページより 2代目 ホンダ・トゥデイ
1993年、トゥデイは2代目へとフルモデルチェンジをしました。初代トィデイは商用バンでしたが、2代目は当初から軽乗用車専用モデルとして開発されました。
2代目は、車高がかなり高くなり普通の軽自動車と同じくらいになりました。デザインは、リアウィンドウをボディサイドまで回り込ませる一方、リアのサイドウィンドウをキックアップさせる事で、ダイナミックなCピラーの造形を演出するなど、軽自動車としてはかなり凝った作りになっています。
初代トゥデイはリアハッチバックを持った「3ドア」でしたが、2代目トゥデイは独立したトランク用ハッチを持つ「2ドア」となっていて、軽自動車としては異例の構成となっていました。
また、フルモデルチェンジに併せて、「アソシエ」というサブネームを与えられた「4ドア」モデルも追加されています。こちらも、トランク用ハッチがある「4ドア」で、一般的な5ドアハッチバックではありませんでした。
《写真提供:response》2代目 トゥデイ アソシエ
メカニズム的には、エンジンは先代マイナーチェンジ後のモデルと同じ3気筒SOHC直列3気筒エンジンを、3ドアモデルも4ドアモデルも搭載。全グレードがPGM-FI仕様となり、エンジンパワーの向上が図られました。
また、1991年に登場した、軽自動車なのに2シーター・オープンスポーツという「ビート」用に設計された「MTREC」と呼ばれるハイパワー仕様のエンジンが搭載された、スポーツバージョンも設定されました。
インテリアには、ボディと同色のファブリックのフローティングパッドがデザインされるなど、ホンダとしてはより「パーソナル感」を強めたおしゃれな軽自動車として、2代目トゥデイをユーザーに提案したかったのでしょうね。
■ユーザーから大不評!慌ててドア枚数を変更・・・
ホンダ・公式ホームページより 2代目 ホンダ・トゥデイ 後期型
ところが!ホンダのそんな意図は、ユーザーには全く伝わりませんでした。
やっぱり、ガバっと大きく開くリアハッチバックは、ユーザーからすれば便利なもの。なのに、2代目トゥデイと来たら、小さなトランク用ハッチがちょこっと開くだけ!これじゃあ、不便だ!という事で、ホンダにはユーザーからのクレームが多数寄せられる事になってしまいました。
そこでホンダは、2ドアセミノッチバック→3ドアハッチバック、4ドアセミノッチバック→5ドアハッチバックとボディの構造自体を作り直す事にし、大急ぎで開発に取り掛かりました。結果、2代目トゥデイのデビューから3年後の1996年に、「マイナーチェンジ」として、3ドアと5ドアのハッチバックモデルが発売されました。
それにしても、フルモデルチェンジでもないのに、ボディ構造を変更してドア枚数を変えちゃうなんて、2代目トゥデイ以外では見たことがありません。これ、「ユーザーニーズに機敏に対応した」と言う事になるんですかね・・・。
まぁ、当時のホンダはチャレンジ精神旺盛だったので、初期型の2代目トゥデイでは「軽自動車の新しいスタイル」を提案したかったのでしょうね。
2ドアモデルは、3ドアハッチバック化によって、ユーザーの利便性は大きく向上したものの、特徴的なリアウインドウまわりのデザインがごくごく普通になってしまい、個性を失ってしまいました。
そんなドタバタを経ながら、2代目トゥデイは1998年まで販売されました。3代目トゥデイの開発はなされず、当時、市場が立ち上がりつつあった軽ハイトワゴン市場に新たに投入する「ライフ」に後を託す事になりました。
モータースポーツでカルト的人気なトゥデイ
ちょっとおしゃれな軽自動車、というイメージのトゥデイですが、実はモータースポーツ界でカルト的な人気を誇っているクルマでもあります。
初代トゥデイの後期型は、軽自動車らしからぬぺったんこボディが重心の低下に効いていて、ロングホイールベースとも相まって抜群の操縦性を誇ります。また、ボディが軽量な事もモータースポーツ車両としては好都合。そのため、今だに多くの初代トゥデイ後期型が、軽自動車レースを中心に全国のサーキットを走り回っています。
そんなトゥデイの中には、ターボで武装したスペシャルチューニングマシンも存在し、サーキットの走行会でシビックやCR-XのV-TECエンジン搭載モデルを情け容赦なく追い回し、鬼のように速いトゥデイ!と恐れられているクルマもあります。
ホンダ・公式ホームページより 660 MTREC 12バルブエンジン
また、2代目モデルの前期型の2ドアモデルは、最初から「MTREC」エンジンが搭載されているモデルがある事と、ボディがリアにも隔壁のある「2ドア」なのでボディ剛性が高い事がウケて、こちらも軽自動車レース界の最速マシンとして君臨しています。
MTRECエンジンは、ホンダが2シーター・オープンスポーツのビートに搭載するために開発スペシャルエンジン。軽自動車用エンジンなのに、気筒ごとに独立した3連スロットルボディを採用。独立スロットルは36mmと大口径で、圧倒的な吸気効率の高さを誇ります。
さらに、電子制御燃料噴射装置の制御マップに、F-1エンジン開発から得られたノウハウを惜しみなくつぎ込んだ「高性能バージョン」と街乗りに最適化させた「街乗りバージョン」を自動的に切り替えるという、当時としては画期的なシステムを採用しました。
排気系も、ノーマルの状態で既にステンレス製のタコ足エキゾーストが付いている高性能なもの。
MTRECエンジンは凝りに凝った技術を投入した結果、自然吸気の軽自動車エンジンとしては最強の64PSを8,100rpmで発生するという、いかにもホンダらしい高出力高回転なエンジンに仕上がっています。
MTRECエンジンは、モータースポーツ界でもその高性能っぷりを遺憾なく発揮し、2代目トゥデイを軽自動車レース最速マシンに押し上げています。
トゥデイの中古車はどうなの!?
ホンダ・公式ホームページより 初代 ホンダ・トゥデイ
他の軽自動車には無い、独特の魅力を持つトゥデイ。欲しくなっちゃいますね。今、トゥデイの中古車を買おうと思えば、どんな感じなのでしょうか。
2021年3月現在で、66台のトゥデイがレスポンス中古車には登録されています。価格帯は12.8万円から119.8万円となっていて、平均価格は27.9万円です。さすがに、最終モデルが販売終了してから20年以上経過したモデルになるので、流通量が豊富という訳ではありません。
トゥデイの中古車ので高い価値を維持しているのは、やはり「MTRECエンジン」を搭載したモデルとなります。
2021年3月現在で、最も高額な119.8万円のプライスを付けているのは、2代目モデル後期型の「Rs」グレードで、MTRECエンジン搭載モデルのマニュアル車。しかも走行距離がたったの3万キロという極上の個体。これは、レースのベース車するのももったいないくらいのコンディションですね!
94万円のプライスを付けている個体は、2代目モデル初期型の「Xi」グレードで、こちらもMTRECエンジン搭載モデルのマニュアル車。走行距離もたったの3万キロなので、こちらもレースベース車にするのはもったいないですね。でも、初期型の方がセミノッチバックボディでボディ剛性が高いので、レースベース車にするならこちらの個体の方がおすすめです。
ホンダ・公式ホームページより 初代 ホンダ・トゥデイ ポシェット
初代トゥデイの走行距離8.8万キロの個体に49万円という高いプライスがついていたりと、現在流通しているトゥデイは、実用車枠というよりも一種のコレクターアイテムとして取り扱われてるのかもしれませんね。
全体的に、車齢が古い割には走行距離が短い個体が多く、愛好家が大事に保管しておいたものか、あるいは田舎の家の車庫でずっと眠っていたクルマじゃないのか!?と想像してしまうような状況ではあります。
生産終了から20年以上たっていますので、使い倒されたコンディションの悪い車は既に廃車になっている可能性が高く、生き残っている個体については、確かに「希少性」はあります。そのため、車齢の割には全体的な中古車価格も高く維持されているように思います。
今からトゥデイを買おうと思う人は、「安い実用車としてガンガン使う」というよりも、レース車両として仕上げたい人か、特徴的なトゥデイというクルマを一度体験してみたい、という方が多いのではないでしょうか。その場合、自分がどの年式のモデルが欲しいのかをはっきりさせてから選ぶと良いでしょう。
ただし、流通量しているトゥデイは、最低でも20年以上前のクルマで、なかには30年以上前の個体もあります。当然、機会的なコンディションの不良や交換部品の欠品等のリスクはありますので、現代のクルマと同じ様な感覚で乗れるクルマではない事は認識しておいたほうがよいかもしれません。
まとめ
ぺったんこ革命!を巻き起こした「ホンダ・トゥデイ」、いかがでしたか?一番古い初代の丸目のモデルなんか、発売から35年以上たった今から見ても、デザインに古さを感じませんよね。
やはり、素晴らしいデザインというのは、時代を超えても通用するんですね。
もはやコレクターズアイテムとなりつつあるトゥデイ。あなたの自動車史の1ページとして、一度体験してみませんか?