奇跡のようなFRライトウェイトスポーツ、トヨタ 86
トヨタ 86
バブル景気の頃は本当にたくさんの車種が揃い踏みだったのに、近年では2ドアクーペはめっきり存在感のなくなってしまった車です。
自動車の好みがユーティリティ重視のミニバンやトールワゴンに移っており、実用性に乏しいクーペやセダンなどの背が低い車は軒並み販売成績が低空飛行する現代において、新開発のブランニューモデルとして86が投入されたことは、大企業トヨタの体力を持ってしても驚くべきことで、2012年の発売時には大いに話題を呼びました。
登場から9年が経とうとしている今、まだまだ86には熱い視線が注がれていますよね。さらに兄弟車であるBRZは新型モデルが披露されているなど、まだまだ活躍を続けるであろう86。
この記事では、そんな86の魅力をご紹介していきます。
■スバルとの提携でチャンスが生まれた「稀代の兄弟車」
トヨタ FT-86(東京モーターショー2009 出展車両)
スポーツカーに憧れがあるのは我々ユーザーだけでなく、自動車メーカー内でも同じこと。しかし、もはや大ボリュームな販売成績が見込めないスポーツカーは、新たに新規で作り出すことが経済的に難しく、さらに衝突安全性能や騒音規制など厳しい法規に対応させるコストも加わるので、どのメーカーも細々としかラインナップできていませんでした。
しかし86は、自社単独での開発にこだわらず、スバルとの共同開発、そして販売も両社から行うという柔軟な発想によって、開発費用と販売台数の確保に目処がついたという珍しいモデルでした。
特にスバルは4WDで有名なメーカーで、FR車のイメージがあまり無いだけに、BRZをラインナップしたのは意外。しかし、スバルのボクサーエンジンがあってこそ低重心な86/BRZの運動性能が実現されていますし、生産も86も含めてスバルが全数担当しているなど、スバル側としても新しいイメージを欲していたのかもしれませんね。
■すぐに人気収束と思いきや、息の長い人気を獲得!
《画像提供:Response 》トヨタ FT-86 オープンコンセプト(ジュネーブモーターショー2013 出展車両)
86のようなスポーツモデルは、デビュー直後こそ人気が出るものの、一定の数を売り切ったら後が続かず、早々にモデル廃止に追い込まれるというのが非常によくあるシナリオです。
しかし86は、販売を始めた後も展示車・試乗車だけでなくスポーツカーのあるカーライフを演出する特別な販売店「エリア86」を設置したり、より高度なチューニングを施した「86 GRMN」などのコンプリートカーの積極的な設定したり、細やかな一部改良を短いスパンで繰り返したりするなど、話題を途切れさせないトヨタらしい力の入れ方もあって、非常に息の長いモデルとなっています。
初期モデルの人気が落ち着いてきたころに後期モデルがデビューしており、乗り換えによって中古車市場も活発化。新車では手が届かなかった若年層の取り込みにも成功するなど、先細りばかり嘆かれていたスポーツカーライフを、幅広い年代層に広げることに成功しました。
現行86の魅力をおさらい!運転が楽しすぎるスポーツカー
■コンパクト低重心パッケージにFR、楽しくないわけがない!
《画像提供:Response 》トヨタ 86 エンジンルーム
全長が約4.2m、全幅が約1.8mと、ショートアンドワイドなプロポーションのボディに収められるのは2.0リッター 水平対向4気筒エンジン。低く構えた同エンジンと、徹底的な軽量化によって、車重は最も軽い仕様で1,210kg、重心高は460mmとされています。
この車重の軽さと重心高の低さこそ86を運転すると得られる楽しさの源泉であり、ドライバーのあらゆる操作にレスポンスよく車体がついてくるしなやかさ、安定したコーナリング感覚、クイックな回頭性とそれに安心して対応できるわかりやすい姿勢変化と、86にはスポーツドライビングの面白さがこれでもかと凝縮されています。
どうしても価格帯が上でパワーも有り余るほど備えられた高級スポーツカーばかりが跋扈する現代において、「振り回せる」スポーツカーの感覚を思い出させてくれるのが、86なのです。
■6速MTと6速AT、どちらも優れた操作感覚
《画像提供:Response 》トヨタ 86 インテリア
スポーツカーらしく6速マニュアルトランスミッションが用意されていることはもちろんですが、86の場合はオートマチックトランスミッションも注目したところ。
6速となるこのオートマチックは、レクサス IS Fでも採用されているSPDS(スポーツダイレクトシフト)制御が投入されたオートマらしからぬ切れ味が魅力で、Mポジションでの2〜6速全域ロックアップ制御による電光石火の変速と、Dポジションでの普段のイージードライブを両立しています。
上級ドライバーのようなシフトダウン時のブリッピングも自動で行いますし、パドルシフトで自在に変速も可能で、現代的なスポーツATとなっています。
もちろん、6速マニュアルの操作感も抜群。ショートストロークなシフトノブの操作感は小気味よく、車との一体感はやはりマニュアルの方が上かもしれませんね。
■2.0リッターNAでは力不足?乗れば必要充分とわかる!
《画像提供:Response 》トヨタ 86
86を取り巻くネガティブなコメントには、2.0リッターエンジンが自然吸気であり、パワーが少なすぎるという声がよく聞かれます。
しかしこれは、86のライトウェイトで誰しもが楽しめるスポーツカーというコンセプトを真っ向から否定するようなナンセンス。出力が上がれば車両のバランスもよりスタビリティ重視に振る必要があり、86の思い通りに振り回せる印象が薄れてしまうことでしょう。
何より、スポーツカーの魅力は直線路での気が遠くなるような加速だけではありません。価格、操作性、官能性、そのどれもを高度にバランスしているのが、86に積まれたボクサーエンジンというわけです。
■やる気にさせる内外装のデザイン
トヨタ 86 GRスポーツ
スポーツカーたるもの、やっぱり時にはじっくり眺めたり、ドライブ後に降りてからも振り返ってまた見つめたくなるような、魅力的なエクステリアデザインは必須です。
その点も86はバッチリで、ロングノーズ・ショートデッキの伝統的FRスポーツのフォルムと、力感のある前後フェンダーの膨らみ、往年の2000GTを思わせるようなサイドウィンドウグラフィックなど、見ていて飽きないディテールが目白押しです。
フロントの表情はややおもちゃっぽさを感じると評されることもありますが、ノーズの低さを感じさせるボンネットから一体となったラインや、大きなフロントグリルは、スポーティさがしっかりと感じられる主張の強いデザインです。
インテリアも同様で、適度にタイト感のある室内空間は乗り込むだけでも気分が盛り上がります。ドライバーの前には見やすく機能的なメーターが並び、白地のタコメーターなどがやる気にさせてくれますね。
■狭いながらも後席つき、トランクは意外と広い!
《画像提供:Response 》トヨタ 86 インテリア
86の大きな魅力なのが、2シーターではなく、狭いながらも後席を備える2+2であることでしょう。後席は大人が乗るにはちょっと狭めですが、フロントシートバックの形状が工夫されていることもあり意外と居住性もよく、ISOFIX対応の固定バーも装備されているので、お子さまをチャイルドシートに乗せてのドライブも楽々可能です。
また、後席は前倒しして格納も可能で、その際の容量はタイヤ4本と工具が積み込めるものとなっています。サーキットへ自走で移動してタイヤ交換後に目一杯楽しむ、そんなスポーツカーらしい使い方をしっかり後押ししてくれる実用性の高さがあります。
さらに、1人で乗っても4人で乗っても安心なのが、全車標準装備となる6個のSRSエアバッグ。サイドエアバッグやカーテンシールドエアバッグまで備わる安全装備の充実っぷりは、86の隠れた魅力でしょう。
トヨタ 86のスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,240mm×1,775mm×1,320mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,570mm | |
最大乗車定員 | 4名 | |
車両重量 | 1,240kg | |
燃費 | WLTCモード:12.8km/L | |
エンジン種類 | 水平対向4気筒ガソリン 1,998cc | |
エンジン最高出力 | 152kW(207PS)/7,000rpm | |
エンジン最大トルク | 212N・m(21.6kgf・m)/6,400-6,800rpm | |
駆動方式 | 後輪駆動(FR) | |
トランスミッション | 6速MT | |
新車価格 | 2,948,000円(消費税抜) |
86って、スバル BRZとはどう違うの?
トヨタ 86(左)、スバル BRZ(右) どちらも改良前モデル
86とBRZは共同開発車というのはご紹介した通りですが、両車は全く同一の車というわけではなく、細かな差異が見受けられます。外観では主にフロント部の表情が異なっており、台形状の大きなグリルで挑戦的な表情が印象的な86に対し、BRZはややトーンダウンされた直線基調でシンプルな表情になっていますね。
そのほか運動性能面での味付けも両社の理想をそれぞれ追求したものとなっており、登場当初の評論では、ややドリフト状態に持ち込みやすい86、安定感を重視したBRZとも表現されていました。
後の改良では86・BRZともによりフリクション感のないGT的な快適性も手に入れたと評されており、スプリングやスタビライザーといった部品が後期型から両車で共有となったこともあって、両車の違いは意外と少なくなっている模様。どちらを選んでもスポーツカーの楽しさを実感できる点だけは間違いないでしょう。
■BRZは次期モデルを公表済み。86はどうなってるの?!
スバル BRZ 新型(海外仕様車)
現在も販売終了のアナウンスのない86と異なり、BRZは2020年7月には早々に国内受注を終了させており、次期型モデルの登場も秒読みかと噂されていましたが、さる2020年11月には、すでに次期型のBRZがワールドプレミアされており、その進化したスタイルと性能が明らかになっています。
やや丸みを帯びて大人っぽくなった新型BRZですが、フロントフェンダーのアウトレットなどはアグレッシブな造形ですし、より現代的な洗練とスポーティさの両立が感じられます。
新型BRZではエンジン排気量を2.4リッターに拡大。ノンターボの水平対向4気筒であることは初代同様ですが、より排気量が増したことで太くなったトルクの扱いやすさを得つつ、高回転まで滑らかな回転フィールを維持しているとのこと。
また意外なポイントとしては、初代モデルでは設定すらなかったアイサイトがついに装備されることで、プリクラッシュブレーキや全車速追従機能付アダプティブクルーズコントロールなどが備わることも発表されています。
BRZは米国で2021年秋の発売が予定されているなど、情報公開も着々と進んでいるのに対し、新型86は音沙汰なし。一説によれば、BRZとのスタイル面での差別化のためにデザインを修正しているといった噂も聞かれますが、新型モデルでもBRZとの兄弟関係を維持することは確実ですので、もうすぐ登場してくれるものと思われます。
【2021年最新】トヨタ 86の新車・中古車価格まとめ
トヨタ 86 Hakoneエディション(海外仕様車)
先述の通り、2020年7月でBRZは受注終了しているのに対し、86は現在でも公式に受注終了や生産終了のアナウンスはされていません。
しかし、事実上は2020年8月ごろに受注終了しており、その時点からは在庫車のみの販売に移行済という情報もあります。その場合、もとより在庫が多いような種類の車ではありませんので、すでに完売状態と見るのが自然でしょう。
そのため、もはや新車で現行型86を手に入れることは難しくなってきているのが現状ではありますが、2021年3月現在でWebカタログに掲載されている税抜新車価格をご紹介していきます。
最も廉価なグレードはG 6MT車で、価格は242.9万円。反対に最も高価なのはGT“リミテッド ブラックパッケージ” 6AT車で、価格は317.0万円となっています。
MT車とAT車で出力に微妙な差があるものの、どの86もスポーツカーらしいパワートレーンは共通ですが、上位グレードではブレーキローター径が拡大されたりといったメカ面の違いもあります。
ベースグレードのお求めやすさは魅力ですが、やっぱり上位グレードの大径アルミホイールとリヤスポイラーが揃ったルックスは魅力的で、ついつい選びたくなる魔力がありますよね。
トヨタ 86 スタイルCb
新車で手に入れられないなら中古車市場で探すしかありませんが、86は在庫数も豊富で選びやすさが光ります。
2021年3月現在、BRZは300台あまりしか中古車在庫が確認できませんが、86は1,000台以上と3倍以上の差があります。
86では、税込中古車本体価格平均は206.4万円となっており、意外と高値を維持している印象もありますが、これは台数限定販売だった「GRMN」や「TRD 14R-60」などの高値が平均価格を釣り上げてしまっていることも考慮が必要です。
価格帯としては最安で90万円台から探せるため、もはやクラシックと呼びたくなるような低年式車ばかりで価格高騰の流れもある、同クラスのライバル車たちと比べてもリーズナブルな価格帯で推移しているといえそうです。
スポーツカーなだけに、中古車はカスタマイズがされている車両もなかなか多め。カスタムの方向性がご自分とぴったり合う中古車に巡り会えたら、カスタム費用が浮いて節約できるかもしれませんね。
まとめ
《画像提供:Response 》トヨタ 86
もはや新車では買えなくなっていると思われる珠玉のFRスポーツ、86の魅力についてご紹介してきました。
この手のスポーツカーは、新車で販売されている間は文句を言われまくるものの、いざ販売が終了するとそのありがたみに誰しもが気付き、価値が高騰してしまうもの。86も同世代では稀な2ドアクーペのスポーツカーということもあって、将来的にはクラシックカーとして扱われるのかもしれません。
新型モデルの登場は予測されていますが、もしかすると次期モデルがガソリン車最後のスポーツカーの一台となってしまうのかも。後悔のないよう、しっかりと味わっておきたいところですね。