これまで、クルマは個人が所有する物でしたが「UBER」のライドシェアをはじめ、日本国内でもいま利用者が急増している「Times Car PLUS」などのカーシェアリングなど「MaaS」(Mobility as a Service)と呼ばれる自動車サービスが急速に普及しています。つまり、クルマは所有から利用、また公共交通機関やタクシーのような移動手段に変容してきているのです。
これは私たちのインフラの利用の仕方が変わるだけでなく、自動車業界にとっても大きな転換期が来たとも言えます。
そこで自動車最大手「トヨタ」が打ち出したのが、この「モビリティサービス・プラットフォーム」(通称MSPF)という仕組みです。
モビリティサービス・プラットフォームとは何かを紹介しながら、その具体的な機能、トヨタのこれまでの取り組み等をまとめていきます。
「モビリティサービス・プラットフォーム」とは
トヨタが打ち出した「モビリティサービス・プラットフォーム」とは、ライドシェアやカーシェア、レンタカー、タクシーなどのモビリティサービス事業者に対し、トヨタが自社開発したシステムを提供するための、モビリティの管理・利用・分析など個別の機能を包括した仕組み全体のことを指します。
つまり、今後やってくるモビリティサービス時代をより先進的でユーザーに満足度の高いものにするために、トヨタは各企業と連携してサービスに取り組んでいくため、このプラットフォームを構築したのです。
またMSPFはモビリティサービスの他にも、専用通信機「DCM」(Data Communication Module)から得られる各車両データを活用したテレマティクス保険など様々なサービス事業者との連携に活用していく予定です。
■MSPFに必要不可欠なのは「通信インフラ」
トヨタだけに限らず、DCMを搭載したコネクティッドカーやモビリティサービスを実用化するために自動車業界共通の課題となっているのが、4G/LTEネットワークにとって代わる第5世代移動通信方式(5G)および車車間/路車間通信(V2X)など通信インフラを確保することです。
日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、自動運転技術や次世代通信規格5Gの実用化がスタートしようとしていますが、同時にトヨタはDCMの全車搭載を2020年を目処に進める発表をしています。
すでに、2016年よりトヨタはKDDIとグローバル通信プラットフォームの共同開発を行っており、DCMを搭載した車両との高品質かつ安定した通信をグローバルに確保すると発表しています。
「モビリティサービス・プラットフォーム」の具体的な機能
■DCMを搭載で車両情報をデータ化
国内初の運転挙動反映型テレマティクス自動車保険(トヨタ自動車&あいおいニッセイ同和損保)が2018年1月より販売開始。
DCMを車に搭載すると、DCMとクラウド間で常に通信が行われドライバーの運転技術や車両情報、交通情報をデータ化することができます。
集まったビッグデータはクラウド「トヨタスマートセンター」で管理・分析され、外部の企業がアクセスし、各サービスへ情報が活用されることになります。
ドライバーの還元メリットとしては、地図がアップデートされるなど、AppleのOSアップデートのように車載ソフトのOTA更新がされることや、コネクティッドカーから取得する走行データに基づき、毎月の走行距離と運転特性に応じて、保険料の割引が適用されるテレマティクス保険に加入できるなど、テレマティクス技術を活用した保険、運転技術の向上が見込めます。
■カーシェアリングにSKBを使用し高度なセキュリティを実現
自動車を15分単位で借りることができるカーシェアリングは、車を所有していない人でも気軽に車が利用できることから需要が急増しています。
従来カーシェア利用の鍵の受け渡しは、車内のコンソールボックスやグローブボックスに鍵を置くか、ICカードで解錠し、特殊な通信装置を車両のCANインターフェイスに直接接続することで鍵の開閉などを行っていました。しかし、セキュリティ面の危惧や、ICカードで施解錠するための車体の改造が必要など車のオーナーのリスクもありました。
そこでトヨタがMSPFの一機能として、米「Getaround」社と共同開発したのがスマートキーボックス(SKB)です。SKBはカーシェアにおいて安全かつ安心なドアロックの開閉やエンジン始動を実現するためのデバイスとして開発されました。
具体的には、車両の所有者がSKB端末を車内の任意の場所に設置。車両の利用者は、スマートフォン上のアプリを操作することで、トヨタスマートセンターからSKB端末にアクセスするための暗号キーを受信します。
利用者がそのスマートフォンを車両に近づけると、SKB端末との間で暗号キーが認証され、通常のスマートキーと同様に鍵の開閉などの操作を行うことができます。
操作可能な時刻や期間は、利用者の予約内容に応じてセンターで設定・管理されることになります。
この仕組みによって今後カーシェアリングサービスがより容易になる可能性があります。
■タクシー向けサービスを共同開発し、利用客の乗車体験を高める
トヨタがジャパンタクシーに約75億円を出資し、タクシー向けサービスの共同開発することを発表しています。
トヨタは2016年に、全国ハイヤー・タクシー連合会との協業の覚書を締結。
2017年にはトヨタとKDDIは、東京ハイヤー・タクシー協会(東タク協)と共同で、「つながるタクシー」から取得する大容量の走行データ通信・活用の実証実験を開始するなど、サービス開発を模索してきました。
今回の具体的な取り組みとしては、タクシー向けコネクティッド端末、配車支援システムの共同開発、ビッグデータ収集の協力、協業を実施するようで、ここでもMSPFのシステムが応用されます。
MSPFを活用するトヨタのメリット
■DCMを活用し車をIoT化
トヨタは2002年にDCMを実用化して以来、2005年からレクサス車に標準搭載、トヨタ車にオプション搭載を開始し、エアバッグ作動時の緊急通報サービスやナビ地図データの自動更新などを提供してきました。
2011年からは、DCMから収集された走行データを用いたビッグデータ交通情報サービスを「Tプローブ交通情報」として、純正ナビゲーションシステムやTCスマホナビに提供しているほか、2014年にはスマホなどの回線やWi-Fi、DCMを利用した新テレマティクスサービス「T-Conect」(ティーコネクト)を開始しました。
トヨタは2020年までに、グローバルでほぼ全ての乗用車にDCMを車載する計画を立てています。
またDCMを車に搭載することで、車両情報をIoT化できます。IoT(Internet of Things)とは、モノに通信機能を搭載してインターネットと連携や接続させることです。
車をIoT化することで、車両の故障にいち早く気づきメーカーとディーラーが連携して対応することが可能になります。ほかにもクルマがDCMによってIoT化することで、多くのモビリティサービスが生まれることが期待されます。
■J-ReBORN計画を後押しできる
「J-ReBORN計画」とは、トヨタが2015年度に策定し、2016年より開始した、今後10年にわたって国内新車販売台数150万台を確保する計画です。
トヨタ「サステイナビリティ データブック 2016|ビジネスパートナーとともに」より
人口減少や若者のクルマ離れで自動車市場が縮小する中、トヨタはMSPFを使いメーカーと販売店の結びつきを図ることで、2020年代の自動車ビジネス活性化に繋げるとしています。
提携事業者・会社は?
現時点での提携事業会社は米アマゾン、中国最大のライドシェア企業滴滴出行(Didi Chuxing)、ピザハット、ウーバーの4社。そして技術パートナーとしては、滴滴出行、マツダ、ウーバーの3社となっています。
これまでの取り組み
■2016.11 MSPF構想、DCMの全車搭載を発表
■次期「プリウス」にアプリ「ポケットPHV」のサービス開始を発表
ポケットPHVは、DCMを搭載したプリウスをスマートフォンの専用アプリで、自動車の充電状況を確認や、エアコンのリモート制御が可能になるサービスで、他にも充電スポットの検索なども可能となります。
■2017.1 カリフォルニア・サンフランシスコにてカーシェア事業者用アプリの実証テスト開始
トヨタは販売店向けのカーシェア事業用アプリを開発し、2017年1月より米国でカーシェア事業を手がける「Getaround」社とともに、カリフォルニア・サンフランシスコで実証テストを実施、8月には米国ハワイ州のトヨタ販売店の「Servco」社とともに米国ハワイ州で実施しました。
このカーシェア事業用アプリは、スマートフォンによるドアの開閉システム、「スマートキーボックス」を用いたドアロックの開閉などの機能に加え、事業者向けに車両管理や利用者の認証、決済サービスといった機能を持ちます。
また、トヨタがモビリティの管理・利用・分析などさまざまな機能を包括的に備えたプラットフォームとして構築中の「モビリティ・サービス・プラットフォーム」の重要なアプリケーションサービスのひとつとして、このアプリの開発を推進しています。
■2018.1 MaaS専用ev「e-パレットコンセプト」発表
トヨタは2018年1月に米ラスベガスで開催された「CES 2018」にて、モビリティサービス(MaaS)専用次世代電気自動車(EV)「e-パレット コンセプト」を初公開しました。
e-パレット コンセプトは、トヨタが有する電動化、コネクティッド、自動運転技術を活用したMaaS専用次世代EV。
フラットかつ広大な空間には、ライドシェアリング仕様、ホテル仕様、リテールショップ仕様など、用途に応じた設備が搭載可能で、さまざまなサービスに対応し、人々の暮らしを支える「新たなモビリティ」となる可能性を持ち合わせています。
また将来は、複数のサービス事業者によるシェアリングや、複数のサイズバリエーションをもつ車両による効率的かつ一貫した輸送システムなど、サービスの最適化を目指している車両となります。
今後は、2020年代前半には米国など各地域でのサービス実証を目指すとともに、2020年には一部機能を搭載した車両を東京オリンピック・パラリンピックのモビリティとして提供することも計画しています。
まとめ
トヨタはモビリティサービスプラットフォームを活かしたサービスの実用化を進めています。車を持つことから、移動手段へと変化してきている中、トヨタの自動車だけでなく、カーシェアリングなどのモビリティサービスが今後より注目されることとなるでしょう。