新型セレナに搭載された国内初の「自動運転」プロパイロット
■国内メーカー初の技術
2016年から発売された新型セレナ
日産の開発した「プロパイロット」は、高速道路単一車線での渋滞走行と長時間巡航走行の2つのシーンで、アクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてを自動的に制御し、ドライバーの負担を軽減する自動運転技術で2016年に発売されたミニバン「セレナ」に搭載されました。
単眼カメラによる高度な画像処理技術で、道路と交通状況を把握し、ステアリングを正確に制御して人間が運転している感覚に近い自然な走行を実現します。
すでにクルーズコントロールなどの技術は各社が取り組んでいますが、渋滞時のハンドル、アクセル、ブレーキすべての自動化は、日本の自動車メーカー初の技術となります。
カーオブザイヤーにも選出された日産セレナ、人気のヒミツとは?
https://matome.response.jp/articles/2252016-2017日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベストカーにも選出された新型『セレナ』。8月の発売以降、10月には登録台数でセグメント1位、銘柄で3位と出足も好調のようです。その人気に迫ります。
「プロパイロット」イメージ
■操作方法・ディスプレイ
プロパイロットは、ステアリングスイッチの操作で簡単にシステムを起動・設定できるほか、システムの状態を分かりやすく表示する専用ディスプレイを採用しています。
画像処理ソフトウェアを搭載した単眼カメラにより、前方車両や白線を瞬時に三次元的に把握し、その情報をもとにアクセル、ブレーキ、ステアリングの制御を行います。
プロパイロットのシステム作動時は、設定された車速(約30~100km/h)の範囲内で、先行車両との車間距離を保つよう制御し、それに加え車線中央を走行するようにステアリング操作を支援します。
専用ディスプレイに表示、ステアリングのスイッチ操作
実車両でのプロパイロットのメーター表示
プロパイロットの技術的な特徴
■渋滞時は停止3秒以内なら自動発進
日本メーカーでは初めてステアリング操作も自動にした渋滞時の自動走行は、渋滞時に前方車が停止すると、ドライバーの操作なしで停止状態を保持、再発進は停止時間が短いとクルマが行い、停止が長めになると、ドライバーがアクセルを軽く踏むか、ステアリング内のボタンを押すことで再発進します。
プロパイロットの開発担当技術者によると、この操作の分かれ目は「3秒」に設定しているそうです。この「3秒」という時間はドライバーのストレス軽減などを考慮して割り出したもので、体験した人によると「間合いの良さ」が感じられるとの事です。
逆に停止が長めになった場合にはアクセル操作など何らかのアクションを求められますが、これにはドライバーの注意力低下を防ぐという効果もありそうです。
プロパイロットはあくまで「高速道路や自動車専用道での利用を推奨していく」(セレナの開発担当技術者)とのことですが、渋滞時の自動走行は一般道でも威力を発揮しそうとの印象が持たれています。
■既存技術とプロパイロットの違い
プロパイロットの機能は「スピード維持」「追従・停止・停止保持」「ステアリング制御」の3つ要素によって実現されていますが、どの機能もすでに実用化されているものばかりです。
スピード維持は「クルーズコントロール」前車への追従走行(スピード維持+加減速+停止)は、日産では「インテリジェントクルーズコントロール」で実現しています。ステアリング操作もすでに「レーンキープ機能」で行われている機能です。
では、これらの既存技術とプロパイロットとの違いは何でしょうか。
開発者によると、「停止保持の機能とステアリング制御を停止から高速走行までの速度域で行うようにしたこと、そして、ハンドルから手を放しても機械の制御だけでコーナーをトレースできるように制御ロジックを変えたこと」が違いとの事です。
具体的には「インテリジェントクルーズコントロール」は、追従走行で停止する場合はVDCによるブレーキ制御を行っていますが、停止状態をいつまで続けることはできません(実用的な制御がむずかしい)。
一方「プロパイロット」では電動パーキングブレーキを利用して、3分以上の停止で作動させるようにしています、これによって事故渋滞のようなシチュエーションにも対応することが可能です。
「レーンキープ機能」ではあえて抑えたステアリングの介入も強め、舵角を制御する角度の解像度も20倍細かくし、人間の操作がなくても、細かい修正操舵や旋回操作を自動化支援しています。
これにより、道路の細かいうねり、カント(バンク)のある道でも安定した走行が可能です。S字カーブなども「レーンを逸脱しないための制御」ではなく、積極的にカーブを曲がっていくラインをトレースする機能となっています。
■単眼カメラで実現
これまで、先行車との車間距離を自動的に調整して走行するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC。日産はインテリジェント・クルーズ・コントロール=ICCと呼ぶ)は、ステレオカメラやミリ波レーダーといった機器を使うのが定番で、単眼カメラを使うにしても先行車との測距にはミリ波レーダーを組み合わせていた。
それに対して日産のプロパイロットは単眼カメラだけで測拒して制御するもので、高速走行でこれを実現したのは日本初となります。
そこで、単眼カメラによる認識で本当にどこまで対応できるのかということがきになります。
この疑問について、日産の電子技術開発本部 IT&ITS開発部の笈木大介氏によれば「単眼カメラを使う技術はすでにエマージェンシーブレーキで採用していて、日産としてセレナが初めてというわけではない」と語っています。
一方で「エマージェンシーブレーキ」は30km/h以下の比較的低い速度域での対応で、ACCは100km/hを超える高速での対応となるため、単眼カメラでの対応は難しかった事が予想されます。
そこで、日産はこれまで蓄積された技術に加え、測距技術に独自のアルゴリズムを持つイスラエルの「モービルアイ」社の技術も採用しています。
モービルアイ(イメージ)
笈木氏はモービルアイと自社技術の組み合わせについて、「測距にモービルアイ社の技術は採用していますが、エマージェンシーブレーキで培った技術の蓄積もあり、制御については弊社が直接開発して安全性を確かめています」と自信をのぞかせています。
また「その測拒能力はステレオカメラやミリ波レーダー並みと考えていいか。特に割り込みがあった場合とかで」という突っ込んだ質問に対しても「センサーが複数あればそれに越したことはありませんが、前方に対する制御で他のセンシングよりも劣るとは思っていません。割り込みについてもケースbyケースなので、一概に“超えているか”どうかの判断は難しい」との回答を行っています。
笈木氏の回答から、日産は「単眼カメラでもステレオカメラやミリ波レーダーに遜色ない制御ができる」としており、また「同一車線内を走行している限りは、都市高速のようなきついカーブでもない限り、ほぼ車線内でカーブをトレースするアシストを行う」と言え、通常の高速道路を使ったドライブなら十分に実用になるレベルに到達したと考えられます。
プロパイロットを実際使った感想は?
実際のプロパイロットの使用感や性能について、レスポンスのセレナ試乗記やテストコースでの走行などで語られています。
■ステアリング操作の介入感
プロパイロットを使用している際の「ステアリング制御の介入感」については、ハンドルに手を添えている程度だと、はっきりと動きがわかる程度には強いそうです。
一方で、介入のオーバーライドは少しの力で切り替わるようになっているため、自分で運転する意識があれば軽いハンドル操作で、すぐに手動でのステアリングに切り替わるとのことでした。
同じく運転アシストを提供している米国のEVメーカー「テスラ」の場合はかなり力をいれて制御を奪うイメージでオーバーライドしており、それと比較してプロパイロットは自分で切り足しや修正を行えば自然に切り替わるそうです。
プロパイロットでは、走行中でも車線や前の車両を検知しながらステアリングを操作してくれる。この制御のため、ステアリングの切れ角は0.004度の分解能でセンシングし、操舵を行っている。『シーマ』や『スカイライン』に搭載されているレーンキープ機能では、0.1度以上の精度だという(矢作氏)。
意識していないと、ステアリング制御の介入感は高いほうで、ハンドルに手を添えている程度だと、はっきりと動きがわかる。ただし、介入のオーバーライドは少しの力で切り替わるようになっているので、自分で運転する意識があればすぐに手動でのステアリングに切り替わる。テスラはかなり力をいれて制御を奪うイメージでオーバーライドするが、プロパイロットは自分で切り足しや修正を行えば自然に切り替わるという。
試乗コース
巡航走行や追従走行については、インテリジェントクルーズコントロールや類似の機能を使ったことがある人なら、ボタン操作を含めて、ほぼ同じ感覚で運転できる。渋滞や高速道路の巡航でクルーズコントロールを使っている人は、違和感はないのではないだろうか。渋滞などでは、足の操作に意識を集中せずとも適切な加減速、停止、発進を行ってくれる。
しかし、ステアリング制御は、はっきりとした介入操作を感じる。ハンドル操作は自分で行う意識でいると、ハンドルの方が勝手にぐいぐい動いて曲がっていく感じだ。しかも、ハンドルの動きがカクカクした感じだ。ただし、舵角制御の解像度はレーンキープでの制御の20倍とのことで、車の動きがぎくしゃくするわけではない。介入感をはっきりさせるのは、自動運転であることをドライバーに意識させるためでもあるそうだ。
テストコース上の継ぎ目、うねりについては、速度が低めだったこともあり、逆に介入を感じることはほとんどなかった。継ぎ目を乗り越えるときは、普通にガタンという振動があり、通常の運転でも無意識レベルで修正操舵をしていてもおかしくないくらいだが、自動運転の介入を感じるほどではなかった。舵角制御の解像度が高いので、コーナリングや危険回避以外の細かい操舵はステアリングからは感じられないのかもしれない。
■プロパイロットはどこまで曲がることができるのか
プロパイロットは、どちらかというと50km/h以下、渋滞走行の運転支援を重視したとのことでコーナリングは発生する横Gによて制御されています。
一般的な高速道路の走行条件において、よほど無理な運転をしなければ、どんな高速道路のカーブでも0.2Gも発生させればクリアできると言われているそうです。
日産の開発者によるとプロパイロットでは「0.12G」を上限とした制御でコーナリングさせているとのことで、条件によっては運転手による手動での制御が必要となります。
もし、プロパイロット動作中のコーナリングで0.12G以上のGが発生したら、舵角は保持するがそれ以上の制御を行われません。
ドライバーは車の動きやレーンキープのワーニングなどで判断し、手動運転にオーバーライドする必要があります。
実際の道路では、例えば東名高速道路の大井松田、御殿場間のコーナーが連続するようなところは100km/h以上の場合、人間の操作が必要になるとのことでした。
加減速、停止、発進、コーナリングに自動制御が入る
ステアリングを自動制御とした場合、どれくらいのカーブまで対応してくれるのだろうか。プロパイロットが、どちらかというと50km/h以下、渋滞走行の運転支援を重視したとのことで、コーナリングは、発生する横Gによて制御している。一般的な高速道路の走行条件では0.2G前後の横Gで収まるという。よほど無理な運転をしなければ、どんな高速道路のカーブでも0.2Gも発生させればクリアできるということだ。プロパイロットでは、0.12Gを上限とした制御でコーナリングさせている(矢作氏)。
もし、プロパイロット動作中のコーナリングで0.12G以上のGが発生したら、舵角は保持するがそれ以上の制御を行わない。ドライバーは車の動きやレーンキープのワーニングなどで判断し、手動運転にオーバーライドする必要がある。といっても、曲がれそうもない動きを車がすれば、ドライバーはブレーキやハンドル操作するはずなので、すぐに手動に切り替えることができる。
実際の道路では、例えば東名高速道路の大井松田、御殿場間のコーナーが連続するようなところは100km/h以上の場合、人間の操作が必要になるだろう(内藤氏)とのことだ。
■タイヤによって変わるプロパイロットのフィーリング
自動車評論家の諸星氏は、日産セレナのプロパイロットがタイヤによって動作が異なるとのことについて語っています。開発者によるとプロパイロットのセッティングは195/65R16で行っているとのことで、諸星氏は195/60R16タイヤのセレナ ハイウェイスターでは、その動きが過敏でフィーリングがいまいちとの事でした。
また、プロパイロットを初めとする自動制御を搭載したクルマに対して「操舵初期のレスポンスがよすぎるタイヤは挙動が急激になり、ダルなタイヤは修正舵が間に合わない可能性もある」として、タイヤ交換の際に注意が必要と語っています。
プロパイロットでは、クルマが車線の中心からずれるとそれを修正するためにステアリングが自動的に操舵されクルマが移動する。しかし、横浜で乗ったハイウェイスターはその動きが過敏で、極端な表現をすれば急にハンドルを切ったような印象(実際はそこまでではないが)を受ける。このフィーリングにはどうしても納得がいかず、試乗後にハイウェイスターGとノーマル仕様の諸元を比較してみると、ハイウェスターGの場合はタイヤサイズが195/60R16で、そのほかのグレードでは195/65R16が標準であった。
これはもしかしたらタイヤが原因で挙動が急になるのでは? という予測をしていた。それを確かめるために今回はGグレードに乗ったのである。
予測は見事に当たった。Gグレードのプロパイロットの車線キープ時のフィーリングはじつに素直で、まったく違和感を感じなかった。ステアリングが操舵されたことが手に伝わってくるが、クルマが動き出すタイミングは若干の遅れがある。そして動き自体がゆったりとしているので、車線内をクルマが動いても乗員が横に振られるようなことがない。
試乗後、開発部の方にお話しをお聞きしたところ、セッティングは195/65R16で行っているとの確認が取れた。もちろん195/60R16タイヤでの確認は行っているが、タイヤに合わせたセッティングは行わず、いずれも同じセッティングになっているという。195/60R16でベストなセッティングにしてしまうと195/65R16にした際に、修正舵が間に合わないとのこと。
また、プロパイロット付きのセレナ(だけではなくレーンキープ機構付きのすべてのクルマ)を買った人は、タイヤが減って交換するときも注意が必要だ。操舵初期のレスポンスがよすぎるタイヤは挙動が急激になり、ダルなタイヤは修正舵が間に合わない可能性もある。クルマの制御が緻密になればなるほど、標準以外のパーツを使うのが難しくなってきている状況が見え隠れする。
プロパイロットの今後の展開
■「セレナ」オーナーからの高い評価
日産は「オートモーティブワールド2017」の講演会において、ミニバン『セレナ』に搭載した「プロパイロット」を7割のユーザーが「運転がとても楽になった」と評価していることを明らかにしています。
講演を行った日産の徳岡部長は「セレナのセールスをみるとプロパイロットの装着率は60%以上になっている。70%以上のお客様からは『運転がとても楽になった』という回答を頂いている。『ややそう思う』という回答も含めると、ほとんど100%のお客様がプロパイロットに対してベネフィットを感じて頂いているという結果が出ている」と述べています。
オーナーの7割が「運転が楽になった」と評価
■海外市場での展開について
海外市場での展開
プロパイロットは現在、日本で販売しているセレナにのみ搭載されています。「オートモーティブワールド2017」で日産の徳岡部長は「今後、プロパイロットをいろいろな市場や車種に展開していく計画」語っています。
一方で各海外市場での展開について「例えば高速道路の走行シーンひとつとっても市場ごとのカスタマーの要求事項とか、道路環境が違う。またシステムにとっては設定する上限車速だとか加減速の仕方、ステアリング制御の効かせ方の好みが市場ごとに違う」とも指摘。
そのうえで「あまりシステムに縛られたくないという欧州の方と、システムにかなり任せたいというアメリカの方の志向がずいぶん違うので、そういった意味ではプロパイロットの技術を今後広く市場に投入していく場合には、それぞれの市場の条件をシステムの織り込んでいく適合開発が必要になってくると感じている」と語っています。
■EVリーフへのプロパイロット搭載
EV「リーフ」
日産自動車は2017年1月5日、米国ラスベガスで開催中のCES 2017において、EVの『リーフ』に近い将来、「プロパイロット」を搭載すると発表しています。
日産 リーフ (米国仕様)車内
■2020年には市街地の運転にも対応
今後のプロパイロットのロードマップとして、日産は2018年には高速道路での車線変更を自動的に行う、「複数レーンでの自動運転技術」、2020年までに「交差点を含む一般道での自動運転技術」を投入する予定と発表しています。
■ゴーン氏「2020年まで10モデル以上へプロパイロットを拡大」
日産自動車のカルロス・ゴーン会長兼CEOは、2017年1月5日、米国ラスベガスで開催されたCES 2017の基調講演において、「プロパイロット」をグローバル規模で拡大展開していくことを明らかにしています。
カルロス・ゴーン氏は「ルノー日産アライアンスは、欧州、日本、中国、米国で2020年までに、10モデル以上へプロパイロットを搭載する予定」と発表している。
CES2017 カルロス・ゴーン会長兼CEO