三菱・ランサーエボリューション
三菱 ランサーエボリューション・X FQ-440 MR
2015年、23年間の歴史に幕を下ろした車があります。その車の名前はランサーエボリューション。かつてWRC(世界ラリー選手権)でライバルたちと熱い闘いを繰り広げた、伝説的名車です。
今でも中古市場において高値で取引されるランサーエボリューション(通称”ランエボ”)の魅力を解説します。
これぞ羊の皮をかぶったオオカミ、ランエボ
ランサーエボリューションIX
ランエボについて詳しく述べる前に、まずはベースになった三菱の乗用車”ランサー”についてお話しします。ランサーエボリューションのベースとなった三菱の5ナンバーセダン、ランサーの歴史は1973年にまで遡ります。
ヨーロッパの槍騎士に由来する名前を持ったこの車は、頑丈なモノコック構造と空力特性に優れたボディ、4G32ツインキャブエンジンを武器にラリーシーンへとデビューし、車格に勝る車たちを相手に次々に勝利を挙げました。
ランエボの登場前夜、三菱はギャランで既にラリーシーンにおいて実績を残していましたが、このギャランに搭載されていた4G63型2.0リットル直列4気筒インタークーラーターボエンジンをより軽量小型のランサーに搭載するべく、ベースとなるランサーの車体とサスペンションを強化しました。
また、ボンネットなどを軽量化した他、レカロ製のシートやMOMO製ステアリングを装備したモデルをランサーエボリューションとして発売しました。エボリューションとは英語で進化を意味する様に、三菱が新たなステージへ踏み出した歴史的瞬間と言えるでしょう。
WRC(世界ラリー選手権)のグループAカテゴリーでは、参加車両のベースとなる車種は年間2,500台以上生産している車種でなければならないという規定がありましたが、市販されたランサーエボリューションは瞬く間に人気となり、あっという間に製造分を完売しました。
■今でも中古車市場で人気の高い秘密
中古市場でランエボの価格が下がらない大きな理由の一つに、「25年ルール」という物があります。これは、発売から25年を経過した自動車は米国ではクラシックカー扱いとなり、原則的に右ハンドル車の輸入を禁止している同国への輸入が認められるという法律です。
このルールがあるが為に、ランエボを始めとする貴重な日本車が次々に市場から姿を消しています。
映画やゲームの影響か、米国で正規販売されていなかったランエボもスポーツカーファンにはその存在を知られており、25年ルールの適用を待って輸入する例が増えています。
日本のランエボファンとしては、ランエボが海外の人にも認知されてうれしい反面、中古市場で手に入りにくくなるので困った事でもあります。
今でも人気のランエボは買いか?
三菱 ランサーエボリューションX FQ-400
ここ数年日本の中古市場では高性能スポーツカーの価格が高騰しており、ランエボを中古で買おうと思っていたユーザーにとっては手痛い状況となっています。
1995年1月に発売されたランエボ3は発売から25年が経過する今年から25年ルールが適用となる為、購入を検討している人は早めに動いた方が良いかもしれません。
■ランエボの中古車を買うならどの世代?
ランサーエボリューションには初代の1から10までが存在しますが、そのうち3までが第一世代、4からが第二世代、7からは第三世代に分けられます。最終モデルである10だけはベース車両がギャラン フォルティス(海外名はランサー)となっています。
1992年発売の初代ランエボについては前述した通りですが、1994年発売のランエボ2では、シャシーが大幅に改良されている他、最高出力が1と比べて10PSアップの260PS/6,000rpmとなっています。
1995年に発売されたランエボ3ではフロントバンパーの開口部が大きくなった他、大きなウイングを備えた事も外観的特徴です。最高出力は2から10PSアップの270PS/6,250rpm。総販売台数は1万台を超える好セールスを見せました。
1996年に発売されたランエボ4からは、ベースモデルのランサーがフルモデルチェンジしている事から第二世代に分類されます。旋回性能が向上した事、最高出力が当時の日本車の上限である280PSに達しました。歴代ランエボの中で最高の販売台数をマークしたモデルでもあります。
1998年に発売されたランエボ5では、ボディサイズが見直され、車幅1,770mmの3ナンバーサイズとなっています。これにより高い走行安定性能を手に入れています。
1999年、5の発売から僅か1年後に発売されたランエボ6ではフロント周りの意匠が変更されました。空気抵抗の改善と冷却性能の強化が行われましたが、レースでは5以上の成績を残す事が出来ず、一部ユーザーからは進化ではなく退化だという声もありました。
トミ・マキネン選手の4年連続ドライバーズタイトル獲得を記念したトミ・マキネンエディションも2000年に発売されました。
2001年に発売されたランエボ7の大きな特徴は、2002年に追加されたシリーズ初のAT仕様モデルの登場です。これにより、MT操作が苦手なスポーツカーファンもランエボに乗る事が出来る様になりました。また、ベースとなるランサーのモデルチェンジにより、このモデルからは第三世代に分類されます。
2003年に発売されたランエボ8は、MTが5速から6速になった事、2004年に発売されたMRでは量産車初となるアルミルーフを採用した事が大きな変更点です。このモデルから海外での販売が正式にスタートしています。
2005年に発売されたランエボ9では、連続可変バルブタイミング機構の「MIVEC」システムを採用した事が主な変更点です。また、歴代でランエボ9にのみ、ワゴンタイプがファミリーに加わりました。
2007年に発売されたランエボ10は、ベースモデルがギャランフォルティスとなっており、第四世代に分類されます。後期型では最高出力が280PSを大きく超えて300PS/6,500rpmとなっています。
およそ8年間にわたってマイナーチェンジを繰り返し、販売が継続されたランエボ10でしたが、2015年に発表されたランサーエボリューション ファイナルエディションを持って、長きにわたったランエボの歴史に終止符が打たれる事が発表されファンは悲しみました。
ちなみに、ファイナルエディションは5MTのみとなっています。
ランエボ1から3までのモデルは、前述の25年ルールの影響もあってか国内ではほとんど流通していません。購入するなら第二世代に属するランエボ4以降のモデルが見つけやすくなっています。
ランエボの中古車価格
ランサーエボリューション | 他サイトにも情報なし |
ランサーエボリューションⅡ | 220万円台~230万円台 |
ランサーエボリューションⅢ | 90万円台~420万円台 |
ランサーエボリューションⅣ | 130万円台~190万円台 |
ランサーエボリューションⅤ | 190万円台~330万円台 |
ランサーエボリューションⅥ | 170万円台~650万円台 |
ランサーエボリューションⅦ | 50万円台~450万円台 |
ランサーエボリューションⅧ | 140万円台~350万円台 |
ランサーエボリューションⅨ | 210万円台~490万円台 |
ランサーエボリューションⅩ | 90万円台~710万円台 |
安い物は100万円以下から高い物は700万円オーバーとかなり高額となっており、車種によっては入手困難となっています。
(車情報サイトResponseより 2020年11月現在)
海外にも熱狂的なファンを獲得したランエボ
ランサーエボリューションX
WRCで通算25勝という偉業を成し遂げたランエボの名前は海外のモータースポーツファンにも広く知られており、ランエボの終焉を嘆く声は世界中で聞かれます。最近ではゲームを通して、WRCでの輝かしい歴史を知らない若い世代にもランエボのファンになる人がいます。
程度の良いランエボの探し方
三菱 ランサーエボリューションX FQ-400
ランエボはスポーツカーなので、これまでのオーナーがどれくらい走って来たかによって状態は異なってきます。前述の25年ルールの影響の為状態の良い個体、特にフルノーマルで走行距離の浅い個体は見つけるのが年々難しくなっています。中にはプレミア価格が付いている個体もあります。
程度の良い個体を探すには中古車情報サイトをとにかく頻繁にチェックする事、気になる個体があったらすぐに現車を確認に行く事、購入資金をためて置く事です。親しくしているショップがあるなら、希望の条件を伝えて業者向けのオークションで見つけてもらうのもいいでしょう。
修復歴がある個体に関しては、それなりにハードな乗り方をされている可能性があると考えられるので慎重に検討した方が良いかもしれません。
ランエボとWRC(世界ラリー選手権)
ランサーエボリューション WBC 登場
かねてよりレース活動に積極的だった三菱ですが、ランエボの初参戦は1993年シーズンです。それ以前は三菱はギャランVR-4でWRCを闘い、結果を出していましたが更なる飛躍の為に投入されたマシンがランエボだったのです。
1994年シーズンにはランエボ2を投入しますが、ライバルであるスバルやトヨタの後塵を拝します。しかし、1995年シーズンの第二戦で、三菱チームのケネス・エリクソン選手が1位、トミ・マキネン選手が2位でフィニッシュし三菱ランサーエボリューションの名を世界に知らしめました。
1997年シーズン、トミ・マキネン選手は年間4勝を挙げ、2年連続のドライバーズチャンピオンに輝きました。
1998年に投入された5では、トミ・マキネン選手は終盤の3連勝を含む計4勝を挙げ、三菱は初のマニュファクチャラーズタイトルを獲得しています。
1999年、ランエボは6へ進化し、トミ・マキネン選手はドライバーズタイトル4連覇を成し遂げました。
2000年、2001年は苦戦を強いられた三菱は、2002年シリーズにはランサー・セディアをベースにした「ランサーエボリューションWRC」を投入しますが、年間未勝利に終わっています。
2003年シーズンは活動を休止し、新体制で臨んだ2004年シーズン、三菱はニューマシン「ランサーWRC04」を投入しますが勝利を挙げる事は出来ませんでした。
2005年シーズンは、開幕戦モンテカルロで3位、最終戦のオーストラリアで2位となりますが、三菱経営陣は経営再建を最優先の課題として、2006年以降のWRC活動の休止を発表、三菱車のレースでの活躍に幕が下ろされました。
ランエボの復活はあるのか?
三菱 ランサーエボリューション X
2017年、三菱が海外(台湾)で発売したセダンが話題を呼びました。新型グランドランサーです。新たなランエボ開発のはじまりか!?と世界中のランエボファンが注目しました。しかし、残念ながらランエボ復活とはなりませんでした。
2017年6月に開催された三菱自動車の株主総会の席上で当時の益子修CEOは、「ランサーエボリューションの新規開発については前向き」との発言をしました。しかしこれも、三菱自動車の業績が回復し、余裕が出た場合という条件付きとなります。
理由として考えられるのは、スポーツカーは開発に莫大なコストが掛かる事と、原価率が高く大きな利益を得にくいという問題がある為です。ランエボファンとしては採算を度外視してでも復活してもらいたいところですが難しいでしょう。
まとめ
ランサーエボリューション
2015年に1,000台限定で販売された「ランサー エボリューション ファイナルエディション」の販売終了を持ってランサー エボリューションはその歴史に幕を閉じました。同時に三菱の国内ラインナップからセダンが消えてしまいました。
ランエボファン、三菱ファンは三菱のスーパースポーツセダン、ランサーエボリューションの復活の日をいつまでも夢見ている事でしょう。