日産にとってのシルビアとは
新型シルビアについて、まず不安になる点を挙げると何よりも心配に思うのは、新型シルビアはシルビアたり得るのかという点です。
元々シルビアは、日産がスペシャリティーカーとして販売していた車でした。スペシャリティーカーが何なのかは解釈が様々分かれるところではありますが、一般的な解釈で言えば、「カッコイイ2ドアでスポーツカーっぽさを味わえる、デートにも使える若者向けの車」のことです。
日産 初代シルビア
初代シルビアや、空前の大ヒットとなったS13シルビアが発売された当時と現代では、大きく時代が異なります。「カッコイイ」の条件もかなり変わってきているでしょう。
「スポーツカーっぽさ」についても、環境保護が叫ばれる現代社会においては欠点になりかねません。
シルビアにまつわる日産の想定外
また、どんな車にも言えることですが、「自動車メーカーが考えているその車のイメージと、ユーザーが持っているイメージがイコールとは限らない」という点も、非常に大きな期待でもあり、不安でもあります。
「自動車メーカーの想定外の理由でユーザーにウケた」という例は、昔から非常に多く存在しています。
S13シルビア
■日産の想定外・1
そして何より、歴代シルビア最大のヒットとなったS13シルビアが、正にその「想定外の理由」で爆発的なヒットを呼んだ過去があるのです。
日産はS13シルビアを、「デートカー」と位置付け開発し、発売を開始しました。また、「女性にウケるデザインにする」というコンセプトもあったようで、S12シルビアから大きく外観を変え、スタイリッシュな車両としてリリースされました。
しかし、発売開始直後こそコンセプト通りに見えた状況が、蓋を開けてみると「走り屋に人気のスポーツカー」という状況になっており、「格安で入手可能なスポーツ走行を楽しむための車」としてヒットを続けていったのです。
■日産の想定外・2
そして、「シルビアにまつわる日産の想定外」はまだ続きます。
S13シルビアの大人気を受けてリリースされたS14シルビアは、「意のままの楽しい走りとセンスの良さを徹底追及したスタイリッシュスポーツクーペと、「S13シルビアでウケた走行性能を正統に進化」させるとのコンセプトの元、開発され発売されました。
参考画像:S14シルビア GT300仕様ザナヴィシルビア(98年)のレプリカ
しかし、コーナリング性能向上のために拡大されたトレッドにより、全幅は3ナンバーサイズとなり自動車税が増加。それを受けて「格安で入手可能」というイメージが崩壊し、主なユーザー層だった若者からは批判されることに…。
■日産の想定外・3
とは言え、シルビアには逆の想定外もあり、開発予算の関係で足廻りはほぼそのまま継承されていたため、8割以上のパーツが流用可能となっており、ユーザーからは「チューニングのユーザビリティに優れている」、「汎用パーツが豊富で入手しやすい」と高評価を得ている面もあります。
もしかしたら「ダブルウィッシュボーン等にランクアップさせたいのに予算が無い」と、日産の開発陣は悔しい思いをしたかも知れませんが、格安に遊べるスポーツカーを求めていたユーザーにとって、流用性の高い車で在り続けてくれたと評価され、思わぬ高評価につながることになりました。
■ユーザーが求める「シルビアらしさ」とは
以上のことから、シルビアを支持するユーザーがシルビアに求めているシルビアらしさとはズバリ「安くて(維持費含む)扱いやすいFRクーペ」ということになり、日産の言う「スペシャリティーカー」のコンセプトとは明らかなズレがあると感じます。
新型シルビアがもしリリースされるのであれば、日産にとっては大変だと思いますが「安くてカッコイイFRクーペ」にして欲しい…と願って止みません。
シルビアの人気「不完全だから良い」
シルビアは走り屋に人気があるということは、既知の事実であり真実です。
今となっては希少なFRパッケージ、リーズナブルな車両価格、それでいて比較的高い運動性能と、人気の理由には事欠きませんが、元シルビアユーザーとしての視点から考えると、全く別の良さがあるのです。
S13シルビア以降のシルビアに共通するシルビアの最大の魅力とは、「不満点があること」なのです。
通常、走り屋と呼ばれる属性の人たちは、自分である程度の改造を施します。
実際に走行して分かった不満点、例えば「パワーが足りない」「旋回性が悪い」「ブレーキがもうちょっと効いて欲しい」という不満を解消するべく改造を行うのです。
1995年の車両法規制緩和によって、改造の自由度は大幅に増加し、アフターパーツマーケットには品物が溢れ、誰でも気軽に改造を楽しむことが出来るようになっています。
しかし、未だ「改造=悪」という潜在的なイメージが世の中に存在していることも事実と言えるでしょう。車両の改造という行為に、合法ではあるものの罪悪感を多少感じてしまうというチューニングカーユーザーも少なからず居るでしょう。
そんなユーザーの背中を押すのが、シルビアの「不満点」なのです。「俺はココが不満だからしょうがなく改造しているんだ」という自己暗示型の言い訳をちょうどよく与えてくれるのです。
■S13以降のシルビアに感じる不満点
S13シルビアの初期モデルには、CA18DE (T) エンジンが搭載されていましたが、これはパワー不足が否めず、多くのオーナーは不満を持っていました。
その後のS13は、エンジンがSR20DE (T) に変更され、パワー不足は改善されたものの元々のロングノーズ・ショートデッキというスタイルの影響もあり、アンダーステアが強く、旋回性はお世辞にも良いとは言えませんでした。
S14シルビアでは、不人気だったタレ目は有名ですが、旋回性を求めて増やした全幅は振り回しやすさを損ない、S13シルビアから進化をしていない不足気味のボディ剛性に対する不満が良く聞かれました。
また、せっかくボールベアリングタービンを搭載しているのにブースト圧が低く、パンチに欠けるという批評も聞かれます。
S15シルビア
S15シルビアでは、ボディ剛性も大幅に向上し、ボディサイズも一回り小さくなり、出力もSR20DETで250psと全体的にブラッシュアップが図られましたが、250psの出力に対するブレーキや縮小されたトレッド幅によるコーナリング性能のスポイルが目立つようになってしまいました。
また、トラクションの掛かりは飛躍的に向上しましたが、その反面、コーナリング中に限界を超えた直後のアンコントローラブルな性格が、シルビアのサスペンション機構の限界を感じさせるものとなっています。
これらの“挙げ出したらキリがない”ほどの「不満点」を与え、チューニングの後押しをしてくれるのがシルビアなのです。
■シルビアはチューニングベースとしての素質が高かった
改造する必要性を多く感じ、チューニングパーツが豊富にあったとしても、シルビアが改造し辛い車だったなら、現在のような人気は無かったでしょう。シルビアは、とにかく改造しやすい車と言えます。
改造しづらい車だと、「マフラーを交換するだけでもプロが数人掛かり」だったり、「エアクリーナーを交換しようものならセッティングが狂う、ECUで弾かれてろくすっぽ走らない」、「オーディオデッキを交換するためにダッシュボードを全バラシ」ということもあります。
「比較的エンジンルームのスペースにも余裕があり、パーツの着け外し自体が簡単に行える」、「プレミアムカーではないのでそもそも部品点数が少ない」、「サスペンション交換が簡単なストラット+マルチリンク式」、「少しチューニングするだけで大きく性能が向上する素性の良さ」など、まるで日産が「どうぞ、お好きに弄ってください」と言わんばかりのキャラクターなのがシルビアです。
以上、長文となりましたが新型シルビアに対する不安は、ここまで挙げた「シルビアらしさ」をどこまで継承してくれるか、といったところです。
日産 新型シルビアに期待したい点
もちろん新型シルビアのここに期待したい、期待しているという要素も複数あります。
新型シルビア 予想CG
■新型シルビアのネーミング
ネーミングは期待の方が大きいポイントです。
是非とも「シルビア」を継承して欲しいと願っています。可能であれば「S16」と型式も継承して貰えれば、シルビアファンとしてこれほど嬉しいことはありません。
■パワートレインについて
2ドアのFRプラットフォームも継承して欲しい点として多くのシルビアファンが挙げる点かと思います。個人的には2シーター/2人乗りでも構わないと思っています。
現在、新型シルビアのパワートレインとして有力視されているのが、直4ターボエンジンである「VC-T」と言われています。
ターボモデルのラインナップは貫いて欲しいと思っていますが、現在の自動車を取り巻く環境を考えると、昔のような「アクチュエーターをちょっと弄ってドッカン」は難しく、「マイルドで低回転からサポートするような」、「しっとりと電子制御されたターボ」になる可能性が高いかも知れません。
ミッションに関しては、ほぼAT車の世の中ではありますが、従来のシルビアユーザーはMT車しか望んでいません。
MTラインナップが継続してくれることを期待します。
S15シルビアの6速MTは賛否両論ありましたが、恐らく搭載されるとすれば6速以上のマニュアルミッションとなるでしょう。
■デザインについて
新型シルビアのデザインについて、エクステリアはフロントマスクにVモーショングリルデザインを採用する、インテリアは7~9インチ程度の比較的大きいモニターと操作系スイッチがお洒落に配置されるなど、所謂「今風」なデザインになることはある程度予想が付きます。
デトロイトモーターショー2017で公開された「Vmotion 2.0」
今まではデトロイトモーターショー2017で発表された「Vモーション2.0コンセプト」が新型シルビアのイメージに近いと個人的に思っていました。
東京モーターショー2013で公開された「IDx NISMO」
しかし、東京モーターショー2013で発表された「IDx NISMO」のイメージもフェアレディZに近いものの、初代シルビアのそれに通ずるものがあり、無視することが出来ません。
前後重量配分を考えると、マツダのND系ロードスターのようなフロントミッドシップが正解と言えますし、直進安定性を考えるとロングホイールベースになる可能性も捨てきれません。
いずれにせよ、ロングノーズ・ショートデッキの古き良きスポーツカーのシルエットに少しでも沿ってくれるようなデザインに期待したいと思います。
■価格についても期待
元々、同グレードの他社車種に対して、比較的安価に入手出来ることがメリットの一つでもあったシルビアを名乗るからには、販売価格帯は大きなトピックです。
新型シルビアのライバル車はロードスターやアテンザ、スイフトといったライトウェイトスポーツカーからシビックタイプRや86(BRZ)といった国産スポーツカーたちになるはずです。
それらの販売価格を鑑みて、250万円以下で発売されれば、文句なく格安な車両と言えるでしょう。
最後に。
新型シルビア発表の噂について、一時期の盛り上がりは現在薄れてきています。脱化石燃料の時代が近付いており、GT-Rにも生産終了の噂が浮かぶ中、新しいスポーツカーの開発は簡単なことではないでしょう。
日産にはスカイライン、フェアレディZというFRスポーツが存在し、これ以上スポーツカーのラインナップを増やすのは経営戦略上どうなのかという疑問も少なからず残ります。
しかし、S13~S15シルビアのような、若者が気軽に楽しく、その気になれば本気のスポーツ走行までカバー出来るスポーツカーが日産のラインナップに無いのは寂しい限り。
他社のスポーツカー開発が羨ましいと感じている元シルビア乗りは相当数居ると思いますが、私自身、もし新型シルビアがシルビアの名を冠して発売されれば飛び付きたい気持ちでいっぱいですので、日産にはシルビア復活のその日まで頑張っていただきたいと思っています。