ダブルクラッチとは?
ダブルクラッチという言葉は、AT車全盛の現在では、あまり耳にしなくなった言葉かもしれませんね。
ダブルクラッチとは、マニュアル車(MT車)のギアチェンジの際、クラッチを二回踏む操作のことを呼びます。
令和の時代、マニュアルトランスミッション車はスポーツカーでも稀少な存在となっており、市場でのシェアは非常に低くなっています。その上ダブルクラッチは、後述しますが現代の車では機構上必要ないとされることが一般的な動作ですので、もはや知らなくても当然といえるでしょう。
また、昭和の時代であっても1970年代ごろ以降ともなればダブルクラッチは乗用車ユーザーの間ではすでに廃れていたこともあり、かなり年配の方以外では、カーマニアしか知ることのない「秘技」のような存在となっています。
ダブルクラッチが一般的だった頃の自動車ドライバーは、カッコつけてダブルクラッチを行うのではなく、マニュアル車をスムーズに運転しようと思うと誰もがダブルクラッチを身につけなければなりませんでした。
運転にはかなり高い技量が求められていたそのころの車に比べると、現代の車はなんでも自動でやってくれる賢すぎる存在。たまにはしっかりと感謝しておきたいところですね。
■ダブルクラッチのやり方
シトロエン DS4
①クラッチを踏む
②ギアをニュートラルに入れる
③クラッチを戻す
④アクセルを踏んで回転数を合わせる
⑤クラッチを踏む
⑥ギアを入れる
⑦クラッチを戻す
こういった手順になります。
文字にするとややわかりにくいかもしれませんが、基本的には、シフトチェンジの際に一旦ニュートラル位置でアクセルをふかして回転合わせをし、その後希望のギヤに変速するという作業です。
回転合わせをした後クラッチを踏み込んで変速することから、慣れないうちは思っていたよりも回転が落ちてしまい、ギクシャクしてしまうこともしばしば。普段よりもやや高めの回転までふかしておくことで、スムーズに変速できるようになるでしょう。
ダブルクラッチは、頭ではわかっていても実際の作業として行うと非常に難しく感じられるもので、特に名前の由来でもあるクラッチを変速途中で離し、回転合わせをしてから再度クラッチを切るという点が、慣れ親しんだ運転方法とは異なるため頭が混乱しがちです。
現代のマニュアル車でもダブルクラッチを行って問題になることはありませんが、普段と違うシフト操作に意識が集中してしまうと、事故の危険性もありますので、くれぐれも周囲の状況には気をつけましょう。
ダブルクラッチはどんな車で必要?「シンクロ」のない時代の名残
ホンダ CR-Z(6MT)
ダブルクラッチは、やり方でご説明した通り、回転合わせをより繊細に行うための動作です。なぜこのような面倒な動作が必要だったかというと、昔の車では工作精度の低さや材質の問題からトランスミッションのギヤに不具合が発生しやすく、長持ちさせるには気を使う必要があったということもありますが、そもそも繊細な回転合わせなしではギヤが入らないという問題もありました。
トランスミッション内のギヤとギヤの間での回転差を吸収してくれる「シンクロメッシュ」「シンクロ」と呼ばれる部品がまだ広まっていなかった頃の車では、回転をきちんと合わせないと本当にシフトノブが変速したいギヤに入らず、無理矢理シフトノブを押し込むと大きな異音が発生していました。
現代の車ではシンクロが各段に備わっていることがほとんどで、1速から3速などのように、「飛ばし」変速をしてもダブルクラッチをせずにスムーズな変速が可能となっています。
トランスミッションへのシンクロの装備は、1919年に発明され、市販車としてはキャデラックに1928年に搭載されたのが初とされています。その後乗用車では1960〜70年代ごろまでにはシンクロつきのトランスミッションが一般的になり、商用車ではやや遅れたものの、現代ではシンクロつき、その上自動変速機能つきのものが一般的になりつつあるほどです。
■ダブルクラッチは今も必要なのか?
通常、マニュアル車は、ギアを変える際に一度クラッチと呼ばれるペダルを踏み、ギアをあげて(もしくは下げる)その後、ギアチェンジが終わってからクラッチを離すという操作でギアチェンジを行います。
作業手順として、
クラッチを踏む⇒ギアを変える⇒その後クラッチを離すという作業を行います。
これが通常のギアチェンジの手順です。
それなら、ダブルクラッチはどういう時に必要なんだと思われる方も多いかもしれません。
結論としては、特に必要ありません。
というのも、もともと、昔のトランスミッションの機構では、ダブルクラッチが必要でした。というのも、ギアを変えるときのエンジンの回転数を、アクセルでうまく調整して合わせる必要があったためです。
しかしながら、今の車のトランスミッションの機構では、変速時にスムーズに回転が合う構造(フルシンクロメッシュトランスミッション)となっています。
そのため、厳密に言えば今の車にはダブルクラッチはあまり必要ではないと言えるでしょう。
ただし、趣味というのは一見無駄に見えることにも価値を見出すものです。車の運転が趣味という方なら、機構上は必要なくても、車を労りながら慎重にかつ大胆にダブルクラッチをして、スムーズに変速が決まれば気持ちよさも感じられるでしょう。
クラッチを踏み直す操作はしなくても、変速時に回転をアクセルで合わせるようにすると変速ショックが少なくなり、同乗者を思いやった運転ともなります。必要はないものの、しても問題ないダブルクラッチは、カーマニアこだわりの必殺技のような存在になっているのかもしれません。
■ダブルクラッチには賛否両論ある
先ほども述べたように、今の車はすべて、フルシンクロメッシュトランスミッションだからダブルクラッチは必要ない。
といった意見と、一方で走行条件によっては効果的、スポーツ走行には必要、という意見があるようです。
これは、シンクロを装備したトランスミッションであっても、大きな負荷がかかった状態で回転差が大きいシフトチェンジなどをするとトランスミッション内のギヤやシャフト、リンケージなどを傷めたりするのではないかという心配から言われるもので、実際にサーキット走行でトランスミッションにトラブルが発生してしまうこともあります。
先ほどもご紹介した通り、クラッチを踏み直さなくても、回転をしっかり合わせるような操作をマスターしておくと役に立ちそうですね。
また、シンクロは消耗部品ということもあり、不具合によってシンクロによる回転合わせがうまく作動しない場合もあるかもしれません。そんな場合でも、ダブルクラッチをマスターしていればスムーズに変速ができ、トランスミッションへ余計な負荷をかけることなく修理工場へ向かうなんてこともできるかもしれませんね。
シングルクラッチやデュアルクラッチは、ダブルクラッチとは違うの?
フィアット パンダ
シングルクラッチとは、オートマチックトランスミッション(AT)の一つです。
ATには、その他にもトルコン式、CVT、シングル式に対してデュアル式(DCT)と呼ばれているものなどもあります。
・スムーズな自動変速でギアチェンジする方式のトルコン式AT。
・さらにスムーズに、かつ燃費のため無段階式にしたCVT。
・MT構造のままに、クラッチと変速の自動化に成功したのがシングルクラッチ式AT。
・このシングルクラッチ式の動作のぎこちなさを改善したのがデュアルクラッチ式ATとなります。
これらの名前は、トランスミッションの形式を示しているものであり、ダブルクラッチのように操作方法を示しているものではありません。とはいえ、デュアルクラッチ式のトランスミッションのことをダブルクラッチと呼んだりする例もありますので、文脈でしっかり判断する必要があります。
デュアルクラッチ式トランスミッションは、次世代のオートマとして華やかに登場しましたが、意外と操作に対してレスポンスが気難しい場合もあるなどデメリットも見られ、現在ではやや下火となっています。
クラッチを2枚持つことから、連続したギヤのシフトチェンジではまさに瞬速の神業シフトアップ/ダウンが可能なデュアルクラッチ式トランスミッションは、主に欧州車などが一時期採用を進めていましたが、現在ではトルコン式オートマチックトランスミッションに回帰している例が多く見られます。
現在はオートマチックトランスミッションの多段化が流行しており、デュアルクラッチ式では構造上多段化すると非常に大きく重くなってしまうため、その点でもやや敬遠される形式となっているのかもしれません。
日本車では日産 GT-Rなど、スポーツ走行を目的とした車に設定されていることが多いデュアルクラッチ式トランスミッション。チャンスがあればぜひ体験しておきたい技術の一つです。
まとめ
ホンダ シビック ハッチバック(MT車)
最新のAT車を運転する際にはもう必要がない、ダブルクラッチ。
今ではこの言葉自体を知らない方も増えてきています。
MT車や旧車に乗る機会のある方は、少し試してみたい、そんな存在かもしれませんね。
よくある質問
■ダブルクラッチってなんのこと?
ダブルクラッチとは、マニュアルトランスミッション車における変速方法の一つで、変速中に一度ニュートラル位置でクラッチを離し、回転合わせをしてから再度クラッチを切り、希望のギヤに変速をするものです。マニュアルトランスミッションが現在よりも進歩していなかった時代には広く用いられた変速方法でした。
■最近の車でもダブルクラッチをすると効果があるの?
シンクロメッシュを備えた現代の車のマニュアルトランスミッションなら、ドライバーが回転合わせをしなくても変速してしまうことは可能です。しかし、ショックのないスムーズな変速をしようと思うと、ダブルクラッチのように回転合わせをする必要がありますし、回転合わせをしてからの変速の方がトランスミッションへの負荷が小さいので故障を未然に防げるという意見もあります。