マツダの屋台骨を支えた車、それがマツダ ファミリア
マツダ ファミリア(5代目)
現在では乗用車市場から消えてしまった車名ですが、マツダにとって、ファミリアとは非常に重要な車名です。
ファミリアは、マツダの若々しく革新的なイメージを作り上げた1台であるとともに、戦前から続いていた三輪トラックをはじめ商用車から自動車業界に参入したマツダが、初めて生産した小型乗用車こそ、ファミリアだったからです。
四輪乗用車としての初は、軽自動車の2ドアクーペであるマツダ R360クーペに先を越されていますが、ファミリアの開発自体は、R360クーペの次に発売された軽4ドアセダン、キャロルと並行して行われていた様子。
まだ乗用車で経験の浅かったマツダですので、大きめの車両からデビューさせるよりも軽自動車を先にということに決まったのか、1962年発売のキャロルにも先を越されてしまいますが、1963年にファミリアバンとしてデビューしました。
マツダの現在まで続く車名の歴史としては、キャロルに次いで2番目に長寿のモデル名となっています。
歴代ファミリアのトピックをまとめてみました
マツダ 323(日本名:ファミリア) ラリー仕様
先述の通り、ファミリアは1963年発売と非常に歴史が深い車で、全世代を詳しくご紹介すると大変な長さになってしまうため、勝手ながら筆者選のファミリア・トピックを5つご紹介します。
現在のマツダにも続く、デザイン力の高さと走行性能で評価され続けたファミリアを、詳しく見ていきましょう。
■【ファミリアトピック1】初代の登場、小型自動車市場へ堂々参入
マツダ ファミリア クーペ(1966年型 NAGOYA CLASSIC CAR MEETING 16 出展車両)
軽自動車2台に続いて、小型車として満を持して1963年に登場した初代ファミリア。当初はマーケティング調査の結果から商用のライトバンでの投入開始となり、乗用のワゴンとセダンは遅れて1964年に登場しています。
当初は782ccが投入されたエンジンは、先行したキャロルと同じくオールアルミ製。マツダの鋳造技術の高さを示す先進的なものでありつつ、両車で設計を一部共有することでコストダウンを図るという隠れた狙いもありました。
800ccエンジンと設計を共有する360ccエンジンを搭載したキャロルでは、ややエンジンの重量過多となるなどマッチングが難しかったようですが、ファミリアでは小型車エンジンとしては軽量化も狙えるアルミエンジンは武器となった模様。
ファミリアでもその後1,000ccエンジンが新たに追加されるなど、どんどんと高性能要求が高まっていたモータリゼーションの波の中で、併せてどんどんと豪華になっていきました。
■【ファミリアトピック2】ロータリーエンジンも搭載できた2代目
マツダ ファミリア ロータリークーペ(2015年 白・スパフランコルシャン SPA SIX HOURS参戦車)
先代でも排気量を拡大していたファミリアは、1967年登場の2代目では、やや拡大されたボディもあり、標準仕様でも1.0リッターエンジンに大排気量化。1.2リッターや1.3リッターの豪華版も用意されるなど、ただ安いだけの小型車ではない、走りまで意識したグレード展開がなされました。
中でも注目ポイントは、マツダとしてコスモスポーツに次ぐ2台目のロータリーエンジン搭載車、ファミリア ロータリークーペが1968年に登場したことでしょう。ノッチバッククーペとしてトランクを持ちながらも、かなり寝かせられたリアウィンドウと、それに滑らかに続くトランク、4灯のテールランプは、先代のクーペのエレガントさとは異なり、グッとレーシーな印象でした。
事実、国内外のレースでもロータリークーペは大活躍。1969年のシンガポールグランプリでの優勝など、日本だけでなく世界中でその魅力を振りまきました。
1970年には、ロータリーエンジンでは無理と言われた米国の環境規制法「マスキー法」の規制を通過し、北米市場への参入まで果たしていました。
■【ファミリアトピック3】「陸サーファー」の5代目は大ヒット!
マツダ ファミリア(5代目)
時は流れて1980年、第二次オイルショックの余波が世界中で続き、高燃費なロータリーエンジン搭載を推進していたマツダは危機に陥ります。
そんな中登場した5代目ファミリアは先代までの後輪駆動をやめ、前輪駆動にスイッチ。
これはスペース効率が重視される小型車の世界的なトレンドに乗ったもので、マツダは既存の設計が活かせない前輪駆動への移行を渋っていましたが、ついにファミリアで移行しました。
先代からすでにファミリアの主力はハッチバックボディへ移行していましたが、FFとなったことや、シンプルでありながら精悍さも感じさせるデザインもあり、5代ファミリアは大いにヒット。
デビュー同年に始まった日本カーオブザイヤーの初代受賞車となるなど、評論家からの評価も非常に高く、世界的な人気車種となりました。オイルショックによる小型車への移行の流れと、より高品質な車を求める流れの両方をうまく掴み、マツダの経営を大いに支えたほか、マツダ車へのイメージすら変化させた模様。
5代目ファミリアはその洒脱なスタイルが若者にもウケて、実際にサーフィンはしなくともルーフ上にサーフボードを取り付けて雰囲気を楽しむ「陸(おか)サーファー」なるスタイルを流行させるなど、若者文化にも浸透。
1982年では3回、1983年では5回、当時の小型乗用車の絶対王者たち、トヨタ カローラと日産 サニーを下して月間国内販売台数ナンバーワンの好成績を残すなど、記憶にも記録にも残る大ヒット車種となりました。
■【ファミリアトピック4】元祖・4ドアクーペ?!ファミリアアスティナ
マツダ ファミリアアスティナ カタログ
7代目ファミリアと同じ年、1989年に登場したファミリア アスティナは、5ドアの実用的なボディを持ちながら、そのスポーティなエクステリアが話題になりました。
7代目ファミリアがハンサムなデザインだったのに対し、スラントノーズにリトラクタブルヘッドライトと一気にスポーツクーペの装いに。特にノーズ部の低く構えた印象は、標準仕様のファミリアとはかなり異なる印象を与えますよね。
メーカーとして「4ドアクーペ」というキーワードでアピールしたことも納得できる、実用車とは思えないスポーティさが魅力でした。
そんなクーペ風の見た目ながら実用性が確保されていた点も注目に値します。近年流行している4ドアクーペのはしりとして有名なのはトヨタのカリーナEDですが、室内空間に難があったとされるカリーナEDに対して、アスティナは後席の余裕も荷物も飲み込む実用性を兼ね備えていました。
同世代にはWRCに挑戦したファミリアGTXもラインナップされており、マツダが一気にスポーツイメージを高めていっていることを実感させるラインナップでした。
■【ファミリアトピック5】アクセラへと家督を譲った最終9代目
マツダ ファミリアセダン スポルト20(2001年型)
当時流行していた長めのハッチバック、ショートワゴン系のボディを与えられたS-ワゴンとセダンの2本立てで1998年に登場した9代目ファミリア。
ファミリアならではの魅力という部分ではやや影が薄く、実用性のあるセダンとショートワゴンという印象ですが、スポルト20などのスポーツグレードを積極的に展開した点は印象的でした。
特別なグレードとしては、マツダスピードファミリアが挙げられます。専用色の青色ボディとゴールドの大径アルミホイールは、ともすればインプレッサのような印象もありましたが、足回りからエンジンまで総合的に手が入れられたスポーツセダンとして、硬派にスポーティなファミリアとしては久々の登場でした。
後継となるアクセラが2003年に発売されるとともに、セダン、S-ワゴンともに徐々に販売終了。乗用車としては、その車名の40年以上に渡る長い歴史に幕を降ろしました。
■【ファミリアトピック 番外編】ファミリアの名は今でも続いている?!
マツダ ファミリアバン DX
実は、今でもファミリアの車名自体は続いており、新車で購入することもできます。
トヨタ プロボックスのOEM車両ではありますが、ファミリアバンが継続してラインナップされ続けており、ビジネス用途でのハードワークを支える「ゴト車」として活躍し続けています。
ファミリアの始まりがバンだったことを考えると、何となく運命まで感じてしまうような展開ですよね。
市場規模の関係で、マツダ自社による開発はもはや難しいようですが、これからも末長くラインナップしてもらい、ファミリアの名前をつなげてもらいたいものです。
ファミリアの中古車まとめ、中古車を見つけるのは極めて困難!
マツダ ファミリアプレスト ロータリークーペ
ファミリアの中古車市場は、最終型でも10年以上経過していることや、中古車として一般的なここ10〜20年のラインナップが実用性重視で趣味性の薄いグレード展開だったこともあり、ほぼ在庫がないのが現状です。
2020年9月現在の在庫状況では、他社のOEM車ではないファミリアシリーズを総合計してもたったの17台しか確認できません。
その在庫も、スポーツグレードや限定車が主だったもので、一般グレードになるともはや存在しているのか不安になるほどに見つけられません。
中古車市場でお好みのファミリアを見つけたら、急いで問い合わせないと、ライバルに押さえられてしまうかもしれませんね。
まとめ
マツダ ファミリア(5代目)
マツダの危機を救えたほどの魅力的なコンパクトカーだったファミリア。現在でも後継車であるマツダ3の快進撃は続いていますが、乗用車として車名が途絶えてしまっていることはやや残念にも感じられますね。
今見てもシンプルでかっこいいデザインも多いファミリア。マツダの歴史の生き証人として、お乗りの方には大事に乗り続けていただきたいところです。