いすゞは乗用車も作っていた!
いすゞ ジェミニ カタログ
「いすゞ」と聞いて一番に思い浮かぶものは何でしょう? 近年はCMをよく見かけることもあり、やっぱり「いすゞのトラック」が一番ではないでしょうか。
実際、街中で、郊外で、日本全国津々浦々どこに行ってもいすゞのトラックは走っていますよね。
会社としての歴史も、ディーゼルエンジンの開発に創業初期から邁進するなど、トラックやバスなどに強みを持ってきたことはもちろん大事なこと。しかし、20年前までは、いすゞも乗用車を作っていたのです。
いすゞ ピアッツァ(SOP ピアッツァミーティング2019 出展車両)
外国人デザイナーを起用した「117クーペ」や、欧米メーカーと繋がりを強く感じさせる「ジェミニ」などに顕著なことですが、どこか日本車っぽくない、垢抜けていて、独特な美意識のある車づくりが特徴で、ファンも多かったのです。
しかし、開発リソースの集中のため、2002年で国内の乗用車部門からは完全撤退。現在では乗用車を作っていたことを知る人さえ少なくなっているかもしれませんね。
もちろん、乗用車をスッパリ諦めたことによって、現在でもいすゞのトラック・バスが人気を維持できているのかもしれません。しかし、乗用車市場でのいすゞは、その先進的な発想に対してテクノロジーが追いつけていないような車も多数見られたので、もし現代でいすゞが乗用車作りをしていたら・・・?と、ちょっと想像してみたくもなるのです。
■実は現在も商用バンを売ってる?!
いすゞ コモ
日産 キャラバンのOEMではありますが、国内でトラックとバス以外の唯一のラインナップとなるのがいすゞ コモ。個人的な話で恐縮ですが、今まで実車は見かけたことがないように思います。
OEM車ですので、エンブレム類でしかキャラバンとの違いがないこともあり、見分けるのは相当に困難。実際に見かけた場合、そしてキャラバンから見分けることができたあなたは、相当な幸運の持ち主でしょう。
キャラバンと同じくスーパーロングボディやワイドボディ、ハイルーフのバリエーションもあるコモ。
現代の車らしくプリクラッシュブレーキも装備されているので、あえてキャラバンでもハイエースでもない、コモをお仕事に使われるのも面白いかもしれません。
■海外ではSUVやピックアップトラックもある、いすゞ
いすゞ D-MAX
国内向けにはトラックでも1.5トン積みの「エルフ」から、バスでも日産 シビリアンのOEMとなるマイクロバス「ジャーニー」からと、お仕事用の車のラインナップしかないいすゞ。
しかし、海外向けには、ピックアップトラック、およびそれをベースにしたSUVもラインナップがされています。
タイで生産されるD-MAXは、先代までは米・ゼネラルモーターズとの共同開発車だったのですが、2019年に発表された現行型では自社開発に移行。力強いデザインも相まって、現地でも非常に人気なのだとか。
その高性能は折り紙付きのようで、今度はマツダの新型BT-50として、D-MAXをOEM提供するほどです。現地の道路事情や使用状況にきめ細やかに対応していることが、人気の秘訣かもしれません。
国内で唯一のピックアップ、トヨタ ハイラックスの良きライバルとなれそうですし、国内の道路を走っているところが見てみたい車です。
ピアッツァの輝きは15年足らずで消滅。歴代モデルをご紹介
いすゞ ピアッツァ・ネロ(SOP ピアッツァミーティング2019 出展車両)
さて、そんな特徴ある車づくりをしていたいすゞの乗用車の中でも、まるで未来からタイムスリップしてきたかのような先進的デザインで人気を博したのが、ピアッツァでした。
現在どんどんと市場から姿を消していっているクーペとして登場したピアッツァの、2世代に渡るデザイン改革を見ていきましょう。
■初代(1981〜1991年):イタリアンデザインの未来的クーペ
いすゞ ピアッツァ(1981年) カタログ
今見てもハッとさせられるような特徴的なデザインを持つピアッツァ。低く抑えられた鼻先から一直線に伸びるウェッジシェイプは、事実上の先代である117クーペの柔らかな曲線ボディとは正反対でした。
そのデザインは、カーデザイン界の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロによるもの。同じくジウジアーロのデザインしたデロリアン DMC-12との共通性も感じられる、シンプルなラインながら存在感のあるデザインですよね。
ピアッツァのデザインを予告すべく発表されたコンセプトカーが、ジウジアーロ創設のデザイン会社、イタルデザインといすゞによる「アッソ・ディ・フィオーリ(クラブのエース、の意)」でした。
モーターショーでのコンセプトカーはあんなにカッコよかったのに、市販バージョンになるとガッカリ…というのは最近でもままあることですよね。
ピアッツァの場合も、アッソ・ディ・フィオーリは美しいが、こんな未来的デザインをそのまま市販化などできるはずがない!という下馬評が大多数を占めるなか、魅力そのままにピアッツァとして市販された点も、称賛を浴びました。
実際、写真を並べて見ても違いがはっきりと分からないほど。市販化のために、フロントウィンドウの角度など、かなり細かな部分にまで手直しが入っているそうなのですが、全体の雰囲気を壊さなかった点はいすゞの手腕でしょう。
いすゞ ピアッツァ(1981年) カタログ
室内でも未来感のあるテーマは継続しており、当時流行のデジタルメーターや、ハンドルから手を離さずにエアコンやハザードスイッチなどの操作ができるサテライト式コクピットが特徴的でした。
かなり傾けられたリヤガラスながら、ルーフが直線的に伸びていることもあり、後席にも大人が乗車可能な4人乗り。こんな未来的デザイン、かつボディサイズは控えめながら、実用性が確保されている点も、ジウジアーロデザインの秀逸さ、いすゞの開発力の高さを感じさせる部分でした。
モデル後期に設定された、「ハンドリング バイ ロータス」グレードもピアッツァの特徴。スポーツカーの名門として名高い英・ロータスとの技術提携による仕上げは、マニアをも唸らせるロータスチューンの優れた乗り心地を誇りました。
いすゞ ピアッツァ(SOP ピアッツァミーティング2019 出展車両)
当時はいすゞの乗用車販売ディーラーネットワークがあったのですが、輸入車販売大手のヤナセのディーラーでもピアッツァを発売するという面白い試みもありました。
これは、いすゞが当時GM傘下の企業であることと、GMの輸入代理店でもあったヤナセが、それぞれ拡販を見込んでのことでした。
実際にどれほど効果があったかは定かではありませんが、ヤナセ販売仕様は「ピアッツァ・ネロ」と名付けられ、モデルライフ後半にはピアッツァ輸出仕様のパーツを流用して顔付きが変わるなど、独自路線も追求。
ともすればピアッツァ以上の稀少性を誇る車かもしれませんね。
いすゞ ピアッツァ(初代)のスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,385mm×1,675mm×1,300mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,440mm | |
最大乗車定員 | 4名 | |
車両重量 | 1,270kg | |
燃費 | 10モード:8.6km/L | |
エンジン種類 | 直列4気筒ターボ 1,994cc | |
エンジン最高出力 | 110kW(150PS)/5,400rpm | |
エンジン最大トルク | 225.6N・m(23.0kgf・m)/3,400rpm | |
駆動方式 | 後輪駆動(FR) | |
トランスミッション | 4速AT |
■2代目(1991〜1994年):短命に終わった最終型は国際派仕様
いすゞ ピアッツァ(東京旧車会「ダイサン」ミーティング 2020年7月 出展車両)
未来的なデザインで好評を博したものの、あまりに先進的すぎたのか顧客がついてこられなかったようで、販売実績としてはパッとしなかった初代ピアッツァ。
2代目ではややトーンダウンし、メカニズムも含めてやや普遍的な仕上がりとなりました。
先鋭的でシンプルな面構成が特徴的だった初代に比べると、ややマッチョなデザインとなっていますが、全長が初代比で10cm以上短縮されたこともあり、コロッとした印象もありますよね。
ゼネラルモーターズとの提携の結果が色濃く感じられる2代目ピアッツァは、北米向けの車を日本にも導入するという成り立ちではありますが、基本的にはいすゞのジェミニベースである点は初代とも共通です。
いすゞ ピアッツァ(東京旧車会「ダイサン」ミーティング 2020年7月 出展車両)
しかし、残念なことに2代目ピアッツァの特徴は、いすゞが1993年に乗用車の自社開発・生産を中止したため、デビューからたったの3年でモデル廃止となったことかもしれません。
これによって2代目ピアッツァは、いすゞ開発の最後の乗用車となってしまいました。
初代ではモデル後期の特別グレードとして設定されたハンドリングバイロータスですが、2代目では車両開発自体にロータスが携わっており、全車ハンドリングバイロータス仕様だった特別性も虚しく、日本国内の新車登録台数では約2,000台というレアさ。
現在でも2代目よりは初代の方が多く見かけるのは、人気の大小もあるかもしれませんが、その稀少性故と見るのが正しいのかもしれません。
いすゞ ピアッツァ(2代目)のスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,225mm×1,695mm×1,315mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,450mm | |
最大乗車定員 | 4名 | |
車両重量 | 1,160kg | |
燃費 | 10・15モード:9.7km/L | |
エンジン種類 | 直列4気筒 1,809cc | |
エンジン最高出力 | 110kW(150PS)/6,400rpm | |
エンジン最大トルク | 171.6N・m(17.5kgf・m)/5,000rpm | |
駆動方式 | 前輪駆動(FF) | |
トランスミッション | 4速AT |
果たして「存在」するのか?いすゞ ピアッツァの中古車
いすゞ ピアッツァ(SOP ピアッツァミーティング2019 出展車両)
そのルックスでは大人気ながらも、実際の販売台数は奮わなかったピアッツァ。年式の古さも相まって、中古車在庫は「ほぼ存在せず」といった印象。オートマがいい、マニュアルがいい、この色がいいなどと選べるような状況ではありません。
2020年9月現在の中古車市場では、初代・2代目を合わせてもたったの7台、そのうち2代目は年式が新しくなるのにも関わらずたったの1台のみと、もはや歴としたコレクターズアイテムと呼べるでしょう。
どの車両も総額100万円は超えるほか、購入後のパーツ供給は、いすゞは既に乗用車撤退済みということもあって絶望的な状況と思われます。
デザインが心に刺さっても、実際にオーナーになるにはかなりの覚悟が必要そうですね。
いすゞ ピアッツァ・ネロ(SOP ピアッツァミーティング2019 出展車両)
初代、2代目ともにヤナセから販売されていたピアッツァ・ネロの中古車も探してみましたが、なんと在庫台数はたったの1台。
リトラクタブルヘッドライトが廃止された最終型モデルが在庫されているようですが、素のピアッツァの稀少性でも物足りない方にはぴったりの、まさに「自分だけの1台」が実現できそうです。
まとめ
いすゞ ピアッツァ(SOP ピアッツァミーティング2019 出展車両)
売れ筋の車で大手と対抗しても仕方ない、変化球でこそ勝負!と思ったかどうかはわかりませんが、いすゞの乗用車は変化球を極めたような、表情すら独特な車ばかりでした。
そのラインナップの中でも華のあるクーペボディを持つピアッツァは、これからも知る人ぞ知る、いすゞの誇る名車として語り継がれていくことでしょう。