現在までスバルの唯一のスペシャルティーカー、アルシオーネ!
スバル アルシオーネ
スバルのラインナップを思い浮かべてみてください。水平対向エンジン搭載で四輪駆動というところが基本、続いて出てくるのは「実用的」とか「ファミリーにぴったり」といったイメージも多いのではないでしょうか?
事実、現在のスバルラインナップは、唯一の2ドアクーペだったBRZが既に在庫対応のみで生産終了していることもあり、インプレッサスポーツやXV、レヴォーグ、フォレスターなどの実用性の高いものがメインとなっています。
スポーツ色の強いものとしてはWRX S4があるのですが、こちらも4ドアで後部座席も余裕たっぷり。実用性を犠牲にしてまで豪華さやスポーティさを追求した車は、現在のスバルラインナップには含まれていないと言えるでしょう。
そんなスバルにも、高級2ドアクーペというメーカーの華、実用性を投げ打っても色気を追求した究極の車が、2世代にわたって存在しました。アルシオーネです。
スバル アルシオーネSVX
初代アルシオーネでは今にも前方に突き刺さりそうなくさび形、2代目となるアルシオーネSVXではほぼ全方向がガラスであるかのようなキャビンの開放感など、スタイリングの特徴はそれぞれ異なりますが、スバルとして誇りを持った2ドアクーペであったことに変わりはありません。
現在のスバルのブランドイメージとはやや異なるかもしれませんが、走行性能を重視した高品質な車づくりは現在のラインナップとも共通するもの。惜しむらくは登場のタイミングで、特に豪奢な2代目はバブル崩壊以前に登場していれば、ここまでの稀少車とはならなかったかもしれません。
【2世代にわたった流れ星】歴代アルシオーネをご紹介!
たった2世代、1985年から1997年の10年あまりで姿を消してしまったアルシオーネたち。まるで流星のような煌めきの短さでした。
2世代のどちらも独自の魅力を備えたもので、それぞれにファンが存在します。詳しく見ていきましょう。
■初代:アルシオーネ(1985〜1991年)
スバル アルシオーネ(2016スバル感謝祭 参加車両)
和名が「すばる」となるプレアデス星団の中でも最も明るい星、アルキオネ(Alcyone)から車名を取ったアルシオーネ。メーカー側からも、これからのスバルを引っ張っていくイメージリーダーとなってほしいという期待が透けて見える、スバルの上級クーペにぴったりの名前でした。
アルシオーネ登場当初のスバルの思惑としては、当時の主力車種、レオーネとコンポーネントを共有しながら未来的なクーペスタイリングを与えることで、クーペとしては廉価な価格で「見た目買い」してもらえるような車格を想定していた様子。
実際、エンジン排気量は1.8リッターと、特に全長でかなり大柄なボディに対しては比較的小排気量の水平対向4気筒エンジンが搭載されていました。
しかし、主要マーケットとして見込んでいたアメリカでは、80年代半ばの急激な円高推移によって、車両価格が割に合わなくなってしまいます。
より車両単価を上げるべく、急遽6気筒エンジンが搭載されるのですが、それに合わせて重量増大分に対応するサスペンション、向上したトルクに対応する5穴ハブなど、6気筒仕様のみの改善点も数多く発生してしまい、1.8リッター車と同じ車格なのに、かなり価格が吊り上がってしまうという結果に。
スバル アルシオーネ インテリア
そこまでの急拵えの対処ではやはり顧客に見抜かれてしまうもの。それまでは2.0リッター以下のエンジンで廉価さがアピールポイントの一つである、ともすれば「奇抜」とも思えるユニークな見た目が特徴のクーペだったのに、急にパワフルさと上級感を演出しても顧客がついてくることはありませんでした。
これは、当時のスバルの立ち位置にも起因するもの。現在以上に実用性・四輪駆動の走破性を重視した趣味性の薄いラインナップを持っていた当時のスバルは、高級クーペの顧客からはなかなか見向きもされていなかったブランドだった、というのが実態だったのかもしれません。
日本においてもアルシオーネの苦戦は同様でした。思い切りの良い未来志向のエクステリアデザインや、変則2本スポークのステアリングに代表されるような既成概念に囚われないインテリアは、登場当初は喝采を浴びたとはいえ、実際に購入しようとはなかなか思えない派手さもありました。
価格的にも、6気筒エンジンのトップグレードなら約260万円と、同時代のトヨタ ソアラや日産 レパードの最安グレードがライバルとなってしまうような高価格。
スバルとしては未経験ゾーンの価格帯だったこともあり、コアなスバルファン以外はなかなか手を出せず、販売は大苦戦してしまいました。
ソアラについて詳しく知りたい方はこちら
スバル アルシオーネ(2016スバル感謝祭 参加車両)
この販売成績の苦戦が非常に残念に思えるのは、エクステリア、インテリア、メカニズム、どれをとってもアルシオーネの設計は非常に先進的かつ実用的で、未来の車が80年代にタイムスリップしたかのような先取り技術が満載だったからです。
今まさに新型高級車がこぞって採用している通常時格納されるエクステリアドアハンドル(アルシオーネでは下側のフラップを手動で押して操作)、空気抵抗低減と走行性能向上も見込めるフラットフロアや、チルトステアリングと同期して上下するインストゥルメントパネルなど、現代の車の特徴としてご紹介しても違和感のない先進性のある車作りは、スバルの凝り性が如実に現れた部分ですね。
スバル アルシオーネのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,510mm×1,690mm×1,335mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,465mm | |
最大乗車定員 | 4名 | |
車両重量 | 1,300kg | |
燃費 | 10モード:8.0km/L | |
エンジン種類 | 水平対向6気筒 2,672cc | |
エンジン最高出力 | 110kW(150PS)/5,200rpm | |
エンジン最大トルク | 210.8N・m(21.5kg・m)/4,000rpm | |
駆動方式 | 四輪駆動(フルタイム4WD) | |
トランスミッション | 4速AT |
■2代目:アルシオーネSVX(1991〜1997年)
スバル アルシオーネSVX(東京モーターフェス2018 出展車両)
2代目では、モデル途中で上級化して失敗してしまった先代の反省から、当初より比類なき高級感、最先端テクノロジー、そして先鋭化したデザインを引っ提げて登場しました。
特徴的なのは、各ピラーが細く、まるで全方向がガラス張りのような開放感あふれるキャビン。まるでコンセプトカーのような仕上がりは一目で分かるアルシオーネSVXならではの特徴でした。
またフォルムやディテールを見ても、欧米のライバル高級クーペと並んでも見劣りしない、繊細なラインで構成されながらも存在感と迫力のある仕上がりに進化。
初代と比べて全幅を広げつつも全高を落としており、初代の腰高な印象から一新、ワイド感を強調する水平基調のヘッドランプ・テールランプも相まって、実寸値以上にワイドな印象を与えていました。
スバル アルシオーネSVX インテリア
洗練が進んだのはエクステリアだけではありません。やや子供っぽさもあった初代のインテリアからは未来感が大幅にトーンダウンしましたが、正統派グランツーリスモといった趣のスポーティなインテリアデザインに大変身。
価格にプレミアムがついても納得できそうな、高級感のあるデザインや材質がふんだんに用いられ、フラッグシップらしい優越感をオーナーに与えたことでしょう。
スバル アルシオーネSVX(東京モーターフェス2018 出展車両)
先代の失敗を引きずらないために国外向けにはアルシオーネの名前が消滅し、単に「SVX」として販売されたアルシオーネSVXはしかし、またしても北米では人気を得ることができませんでした。
車としての仕上がりは文句なく、今見ても古びない傑作のエクステリアと、大排気量化してパワーアップしたエンジンの魅力もあったのですが、これでも売れないとなれば、やはりスバルのブランドイメージとアルシオーネSVXの間にギャップがあったということでしょうか。
開発時より上級化を意図していたアルシオーネSVXは先代以上に高価格化。当時は現在よりもずっとクーペ市場のライバルが多かったこともあり、市場の中で埋もれてしまったのかもしれません。
これは日本でも同じ。廉価グレードでも新車価格は300万円超で、それでもソアラやレパードなどの他社高級クーペよりは割安だったのですが、スバル車に対する価格イメージからは大幅なズレがあったと言わざるを得ないでしょう。
その上、発売はまさに日本のバブル景気が崩壊する真っ最中で、やってきた不景気の中では2ドアクーペの市場規模はどんどんと小さくなっていくばかりでした。
販売期間中の新車登録台数は6,000台足らずと、非常に手の込んだ開発がされた車であることが見て分かるだけに、悲しくなってしまうような販売実績となってしまいました。
スバル アルシオーネSVXのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,625mm×1,770mm×1,300mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,610mm | |
最大乗車定員 | 5名 | |
車両重量 | 1,620kg | |
燃費 | 10・15モード:7.0km/L | |
エンジン種類 | 水平対向6気筒 3,318cc | |
エンジン最高出力 | 177kW(240PS)/6,000rpm | |
エンジン最大トルク | 308.9N・m(31.5kg・m)/4,800rpm | |
駆動方式 | 四輪駆動(フルタイム4WD) | |
トランスミッション | 4速AT |
果たして存在するのか?!アルシオーネ中古車という宝探し
スバル アルシオーネ
このように、一般顧客からは真の魅力が理解されず、スバリストからは羨望の眼差しを浴びるという、二面的な評価を受けるアルシオーネ。
初代は、今では30年近く昔の車ですので、中古車市場では激レア。2020年9月現在では、中古車在庫は1台しか確認できません。
よりシンプルに開発陣の意図を味わえそうな1.8リッター仕様が在庫されていますが、走行距離13万キロオーバーの車ながら本体価格は320万円が設定されています。
もはや程度の良し悪しを選べる時代ではなくなってしまったということでしょう。初代アルシオーネの魅力に取りつかれてしまった方は、お早めに問い合わせされることをお勧めします。
スバル アルシオーネSVX カタログ
初代アルシオーネよりは選びやすいアルシオーネSVXは、それでもたったの20台の在庫しか見当たりません。
平均価格では103.5万円と、やや安めではあるのですが、走行距離の少ない程度極上のものでは400万円クラスが一般的と、こちらも高騰気味です。
注目は走行距離326kmの1997年式 アルシオーネSVX S4。ワンオーナーで慣らし運転も終わったかどうかという低走行は、このチャンスを逃すともう二度と出会えないかもしれない、博物館級のアルシオーネSVXです。
現代の車と並んでもその存在感は格別のもの。スバルの歴史を噛み締めつつ、ボクサー6エンジンでゆったりとしたドライブに出かけられては。
まとめ
スバル アルシオーネSVX
初代と2代目、どちらも開発陣の強い意志を感じる「いい車」なだけに、市場の冷めた反応にはメーカーもファンもヤキモキしたことでしょう。逆に見れば、真に魅力の分かる慧眼なオーナーだけが購入した、知る人ぞ知る名車、と言えるかもしれませんね。
スバルを取り巻く現状は、趣味性の高い車を単独で作れるほど安楽な経営状態ではないと思われ、今後アルシオーネのようなクーペはもう二度と登場しないかもしれません。ですが、こんな夢のある車を作っていたこともあるということだけでも、スバルを応援したくなるのではないでしょうか。