ホンダ エレメントって、どんなクルマ!?
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
■ホンダのこれっきりカーのなかでも、かなり短命なクルマ・・・
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
エレメント!今見てもカッコいいですよね!とても、19年前の2002年にデビュー(北米市場で。日本市場では2003年に発売開始)したクルマとは思えません。
左右に「ぱっかーん!」と開いてしまう観音開きのドアなんて、どんな使い方をしようか!と考えると、楽しくなってしまいますよね。前後のフェンダーが黒い無塗装の樹脂製になっているのも、今どきのSUVっぽくていいじゃん!ってなります。
でも、エレメント、日本市場ではわずか2年3ヶ月で販売中止になってしまった、ホンダの数ある「これっきりカー」の歴史のなかでも、かなり短命なモデルなのです・・・。
■実はアメリカ人なエレメント
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
2003年に日本で発売されたクルマのなかでは、めちゃめちゃにぶっ飛んだコンセプトとデザインのエレメントですが、それには理由があります。エレメントはホンダのクルマなのに「輸入車」だったんです。
エレメントが作られていたのは、「ホンダ オブ アメリカ」。そう、エレメントはアメリカ人なのです。エレメントのコンセプトが尖っていたのは、「アメリカで作られていた」というだけではなく、なんと、「アメリカ人によって開発されたクルマ」だからでした。
ホンダは、日本の自動車メーカーで最も早く、1979年にアメリカのオハイオ州に工場を建ててクルマの生産をはじめました。以来40年余り、2020年にはオハイオ工場で生産したクルマの台数が2000万台!に達しました。
アメリカで自動車の生産を始めたホンダは、次に、「ホンダR&Dアメリカ」を立ち上げ、アメリカ人が欲しい!と思うクルマを、アメリカ人によって開発するための体制を整えました。
その「ホンダR&Dアメリカ」の若手エンジニアが、自分たちも欲しいクルマとして開発したのが、エレメントなのです。
エレメントのデザインコンセプトは、アメリカのビーチにある「ライフガードステーション」。クルマとしてのデザインではなく、「暴風雨にも耐えうる建築物的なアプローチ」を狙ってデザインされたエレメントは、一種独特なカタチのクルマとなりました。
普通、クルマは止まっている時だけじゃなくて、動いているときのスタイルも重視してデザインするのですが、エレメントは、あくまでも置いているときのスタイルを優先するなど、今までのクルマのデザイン手法とは相当異なる手法でデザインされ、結果的に、今見ても非常に個性的なデザインのクルマとなっています。
■大きなボディに開放的な室内
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
生まれも育ちもアメリカンなエレメントは、今から約20年前の日本市場で売られるクルマとしては相当大きなクルマでした。
全長こそ、4,300mmと長くないものの、全幅は1,815mmと相当幅広い。そして、全高は1,790mmもありました。
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
幅広くて背の高いカクカクデザインのボディを活かして、室内は非常に開放的な空間となっていました。エレメントのフロアはフラットに整形されていて、リアシートを跳ね上げれば、フルフラットの広大な空間が出現します。
防水シート+ビニールコーティングされた防水フロアの組み合わせで、多少濡れたぐらいならそのまま運転できて、ビーチ用具も濡れたままポンポン積み込める気軽さがありました。
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
リアゲートは上下2分割になっていて、下段のリアゲートの内側は樹脂で覆われてラゲッジルームの延長として、あるいは、ベンチ代わりに座る事もできるようなデザインになっています。
開口部といえば、エレメントの両側観音開きドアは高さ1,140mm、幅1,550mmと、タタミ一畳並の開口面積があり、前後のドアもほぼ90度まで開くという、超開放的なデザインになっていました。
リアゲートと両側観音開きのドアを開け放ってしまえば、エレメントの室内には自然に風が吹き込んできて、「気分はアメリカ西海岸のビーチ」という楽しさのある空間が演出されています。
やっぱり、こういう遊びのためのクルマを作らせたら、アメリカ人は上手いですね!
エレメントのメカニズム
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
エレメントのメカニズムの特徴は、なんと言っても広大な開口面積を誇る両側観音開きドア。でも、それを実現するためには、いろいろ難しいポイントがあります。
なぜなら、クルマのボディ剛性は、開口部が広くなればなるほど落ちてしまうからです。そのため、開口部の大きなクルマは、ボディ剛性を確保するための補強が必要になってきます。
エレメントは観音開きドアでBピラーがありませんから、剛性の確保と側面衝突の安全性の確保は、相当難しくなります。実際に、エレメントの観音開きドアには、強固な構造材がビルトインされていて、2つのドアを支えるフロアとルーフにも頑丈な補強が施されています。
そのためか、エレメントはかなり重いクルマになってしまっています。
日本仕様の場合、4WDモデルのみだった事も車重が嵩む原因になっていて、重いボディを動かすために2.4Lのi-VTECエンジンを搭載する事になり、その結果、あんまり燃費がよくない、という結果になりました。
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エレメントは、どうして「これっきりカー」になったの!?
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
エレメント、今見ても魅力的なクルマですよね。カッコは今流行りのクロスオーバーSUVだし、室内も広くて、なんと言っても大きく開く両側観音開きドアは、いろんな使い方を考えさせてくれます。
ホント、エレメントって、今、もう一回販売したら、結構売れるんじゃないでしょうか。そうなんです。エレメントは、「今、見れば」魅力的なんです。
しかし、20年前の消費者には、そう見えなかったんでしょうね。
エレメントが発売された、2003年当時の自動車マーケットを振り返ってみると、ミニバンブーム全盛期の頃ではありました。ホンダではオデッセイやストリームが、トヨタではエスティマやウイッシュが売れていた時代。
そんな時代に、5人しか乗れないのに約260万円もしたエレメントは、消費者には割高に写ったのかもしれません。260万円出せば、全長が50cmも長くて7人がしっかり乗れて押し出しも効く、オデッセイの2.3Lモデルが買えてしまいます。
そして、ステップワゴンやストリームは2Lモデルもラインナップされていて、価格も200万円台前半から購入可能でした。
そうなると、エレメントを買う人と言うのは、アウトドアを趣味にしている人か、そのカタチやコンセプトがすごく気に入った人となってしまい、かなり限られたセグメントになってしまいます。
やっぱりエレメントは、クロスロードのような他のホンダの「これっきりカー」と同じく、デビューが早すぎて、時代が追いついて来なかったんでしょうね・・・。
惜しむらくは、エレメントに2Lエンジン+FFと言うお買得モデルが設定されていなかった事。価格がもう少し安ければ、アウトドア好きの若者達にもアピールできて、新しいマーケットを開拓できたかもしれません。
ただ、エレメントはアメリカで生産されていて、当時のアメリカマーケットではホンダは適当な2Lエンジンのラインナップが無く、2Lエンジンモデルがそもそも作れないと言うホンダの事情もありました。
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エレメントの中古車ってどうなの!?
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エレメントの中古車は、2021年3月の時点で56台がレスポンス中古車に登録されています。平均価格は98.5万円と、約18年前に発売開始されたクルマとしてはかなり価値が残っているクルマだと言えます。
エレメントは、今の時代でも十分通用する、と言うか今の時代のどストライクなコンセプトやデザインなので、今でもエレメントが欲しい!と思う人が多いのでしょうね。それが、強気とも思える中古車価格に現れています。
エレメントは、新車販売時、2.4Lの4WDモデルのみ設定のモノグレードだったので、中古車選びの際にあまり迷うポイントはありません。15〜18年前に発売されたクルマですから、多くのモデルが走行距離10万キロ以上となっています。
やはり、低価格の個体になるほど、走行距離が長くなっている傾向がありますので、リーズナブルなエレメントをお探しなら、メンテナンスの履歴や内外装のチェックをしっかり行う事が大事でしょう。
走行距離が10万キロ未満やその近辺の個体は、140万円以上の価格帯となっており、20年近く前に発売された新車価格約260万円の国産車としては、非常に高い価値を維持していると言えます。
2021年3月時点で最高価格の個体は、走行距離がわずか1.7万キロのワンオーナー車という、ほとんど新車のようなコンディション。この個体は、もう走らせないでガレージにしまい込んで、コレクターズアイテムにしてしまいたくなりますね。
エレメントの中古車は全体的に価格帯が高いので、「中古車ならではのお買い得感」はそれほどありません。なので、エレメントの中古車を購入するのは、今に通用するコンセプトを持った、たった2年3ヶ月しか販売されなかった希少なクルマを所有する、という点に価値を見いだせる人が良いと思います。
余りに過走行になってしまえば価値は大幅に下がってしまいますが、おそらく、エレメントの中古車は次に売るときにもそれなりの価値が残ると思います。
ただ、内外装のデザインは新しくても、基本、15〜18年前に販売されたクルマですので、純正部品のストックが枯渇している可能性が大いに考えられます。エレメントを維持していこうと思う人は、そこらへんの情報もしっかりチェックしておいたほうがいいでしょう。
まとめ
《写真提供:response》ホンダ・エレメント
ホンダの「これっきりカー」の一台であるエレメント。でも、エレメントは今でも欲しい!と思わせる魅力をもったクルマです。
エレメントを発売した頃のホンダは、実にいろんなモデルを精力的にマーケットに提案していました。初代オデッセイや初代ステップワゴンを大ヒットさせ、日本の自動車マーケットの構造を大きく買えてしまった1990年代中盤の勢いを、まだホンダに感じる時期だったとも言えます。
まぁ、その「いろんなモデル」達がなかなかマーケットに受け入れられず、「これっきりカー」を連発してしまった、という側面もありますが、そのチャレンジ精神はクルマ好きとして素晴らしいと思います。
最近のホンダはすっかり大人になってしまって、大外しもしませんが、おおっ!これは新しい!とユーザーを驚かせるようなクルマも少なくなってしまいました。その事に、一抹の寂しさを感じるホンダファンも多いと思います。
実にホンダらしい、時代を先取りしすぎた一台であるエレメント。あなたも、一度オーナーになってみませんか?