デフロックとは何?
デフロックは正式名称を「デファレンシャルロック」といいます。左右のタイヤの回転差を固定するために使用されるものです。通常の車だと、デフにロック機能が付いていません。これをオープンデフといいます。このオープンデフには弱点があります。それはひとつのタイヤが空転してしまうと、他のタイヤも動かなくなってしまうことがあるという点です。例えば、雪の上や沼地などの悪路でひとつのタイヤがはまり込むと、他のタイヤにも動力が伝わらなくなってしまうのです。
デフロックはそんな状態でもタイヤの空転を防ぎ、悪路からの脱出を助けてくれます。デフロックは、不安定な道を走る軽トラックやオフロードカーにはなくてはならない存在なのです。
■デフロックを理解するために知っておきたいこと
デファレンシャルギア(デフギア)の特性を理解することによって、デファレンシャルロック(デフロック)をより深く理解することができます。「内輪差」という言葉をご存じでしょうか。例えば、とある車が半径300mの円を描きながら走っているとします。R300という標識のあるカーブを走行しているイメージを持ってください。このとき左右のタイヤは異なる軌道を描きます。内側のタイヤの軌道は、外側のタイヤよりも、小さな円を描きます。これが内輪差です。描く円の大きさが違うということは、左右のタイヤの回転数が異なっているということです。
デフはこの回転差を、内部のギアを利用して吸収します。もしデフが機能しなかった場合、発生した回転差を逃すために、内側のタイヤを滑らせる必要が生じます。その結果、内側のタイヤが激しく摩耗することになるのです。このようにカーブを曲がる際には必要不可欠なデフですが、ときに問題が発生することがあります。悪路を車が走っているときに方輪が浮いてしまうと、反対側のタイヤに駆動力を伝えられず、動けなくなってしまうことがあるのです。
例えば、雪道などで動けなくなっている車を観察すると、片方のタイヤは激しく空転しているのに対して、もう一方のタイヤは全く動いていないことがあります。もしこの車にデフロックが付いていれば、片方のタイヤを回転させると、もう一方のタイヤも回転するため、よりスムーズに脱出することが可能です。このように悪路で頼もしい味方になってくれるデフロックですが、両方のタイヤが空転するとさすがに動けないので、その点はご留意ください。
そもそもデフロックはどういった車に必要?
デフロックはどんな車に搭載されているのでしょうか。主に搭載されているのは、悪路を走ることの多いオフロード車と、比較的柔らかい土やぬかるんだ道をよく走る軽トラックです。デフロックを付けると悪路走破性が高まりますが、一般の舗装路を走る際にはタイヤをすり減らしてしまうなど、逆効果になってしまいます。
そこでデフロック用のスイッチを搭載している車がほとんどです。デフロックが必要なときだけスイッチをONにできるよう設計されているのです。今からデフロックがなぜオフロード車と軽トラックに用いられるようになったのかを詳しく見ていきます。
■オフロード車
オフロード車は、普通の車では動けなくなってしまうような道を走ります。例えば、雪道や泥道、沼地などです。しかし、こういった悪路を走るためには、車自体にそのための性能が備わっていないといけません。4つのタイヤ全てにエンジンからのパワー(トラクション)を伝える必要があるのです。そのため、オフロード車には4WDというシステムが備わっています。これによって、オフロード車は4つのタイヤ全てにトラクションを分配できています。
しかし、この4WDシステムの均衡を壊すものがあります。それはデファレンシャルギアです。4WDには前輪用と後輪用の2つのデファレンシャルギアが備わっています。デファレンシャルギアには左右のタイヤの回転差に干渉する機能があります。この回転差に干渉する機能のうち、悪路走破性に影響を与えるのが、左右均等にトラクションを分配するという点です。
例えば、もし車が沼地にはまってしまって右側のタイヤが空転してしまった場合、右側のタイヤのトラクションは0です。デファレンシャルギアは回転差を調整するために、もう一方の左タイヤのトラクションも0にしてしまうのです。その結果、車はいつまでたっても沼地から抜け出せなくなります。そこでオフロード車にはデフロックが必要となります。デフギアをロックすることよって、右側のタイヤが空転したとしても、左側のタイヤの力によって脱出することができるようになるのです。
■軽トラック
どうして軽トラックにデフロックが付いているのでしょうか。それは軽トラックが使用されるシーンをイメージするとわかります。例えば、軽トラックは農家でよく使用されます。農家の方が乗る軽トラックは畑の上を走ったりするので、高いオフロード性が必要です。
また、もしタイヤが悪路にはまって抜け出せなくなったら、農作物の出荷が遅れてしまうかもしれません。そうなれば各方面に影響が出ます。そういう理由で、軽トラックにもデフロックが必要なのです。
デフロック搭載の主な車種
デフロックはどのような車種に搭載されているのでしょうか。ここでまとめてみます。
■普通車編
普通車のなかでデフロックが付いていることが多いのは、なんといってもスズキのジムニーでしょう。ジムニーは軽自動車に分類されますが、ラダーフレームとリジットアクスルサスペンションによって、高い悪路走破性を誇っています。クロスカントリー競技にも使用される車として知られていますが、実はもとからデフロックが搭載されているわけではありません。
デフロックが付いていなくてもトラクション性能が高いことや、車の販売価格を抑える必要性があったため初期装備されていないという説があります。一般の方にとっては別にデフロックが付いていなくても気にしないかもしれませんが、本格的なクロスカントリーファンには物足りなかったようです。そこでジムニーのアフターパーツとして、デフロックを搭載することが可能となったのです。
ジムニー乗りに人気のデフロック
ジムニー愛用者に人気なのが、エアロッカーというデフです。これはオーストラリアのARB社が販売しているものです。エアロッカーの中には小型のコンプレッサーが搭載されており、デフロックを遠隔操作することができます。オーストラリアはほとんどの国土がオフロードといいても過言ではありません。ARB社はそのようなオーストラリアを拠点として、全世界に向けてオフロードカー用の部品を販売しています。クオリティが非常に高いため、世界中の軍隊に正式採用されるほどです。このミリタリー感も、ジムニーファンの心を揺さぶるポイントです。
日本では株式会社アウトバックが正式代理店としてエアロッカーを取り扱っています。こちらもオフロードカー用パーツの老舗メーカーとして知られています。価格はだいたい14万円前後、その他にも交換工賃などが発生しますが、ジムニー乗りは自分の手で装着してしまう人が多いようです。
■軽トラック編
ひと昔前でしたら、各メーカーがこぞって軽トラックを開発していました。しかし今では自社で生産することをやめて、OEM供給をしています。
OEM供給にすることで開発費や生産費などを抑えることができるからです。また軽トラックの場合、OEM供給でも売上が順調であることも一因でしょう。これから各メーカーのデフロック搭載の軽トラックを紹介していきます。
スズキキャリイ "KC農繁仕様/KC 4WD 5MT”
スズキキャリィのOEM供給として販売されているのが以下の3車種です。
・マツダスクラムトラック
・三菱ミニキャブトラック
・日産クリッパー
スズキキャリィは、現在販売されている軽トラックの中でも、最大のエンジン出力を誇っています。搭載されているパートタイム4WDとデフロックによって、その出力の良さを活かします。合計4社から販売されているので、街中でよく見かけるのではないでしょうか。
ダイハツハイゼット “農用スペシャル”
ダイハツハイゼットのOEM供給として販売されているのは以下の2車種です。
・トヨタピクシストラック
・スバルサンバートラック
パートタイム4WDが搭載されているほか、MT車では「スーパーデフロック」という機能も装備されています。これは農用スペシャルグレードだけに与えられる機能で、悪路から脱出しやすくなる可能性がより高くなるとのことです。色の種類も豊富で、農業に携わる女子からも支持されています。
ホンダアクティ “アタック”
各社がOEM供給へと舵を切る中、ホンダは一貫して自社生産にこだわっています。ホンダの軽トラックはアクティです。軽トラックの中で唯一フルタイム4WDとミドシップエンジンレイアウトを搭載しています。ホンダアクティには独自のコンポーネントがあり、まさに畑のタイプRです。
雪道でのデフロックは注意が必要?
デフロックは悪路での走行を助けてくれますが、雪道になると非常に危険になります。
■4WDは特に注意すべき???
4WDでデフロックされている車が雪道を走る際は、細心の注意が必要です。デフロックされている状態の4WDは、カーブが曲がりにくくなっています。前後のタイヤが同じ回転数のまま、曲がろうとするからです。
通常の道路でさえ曲がりにくいのに、それが雪道になると、カーブを曲がり切れずに事故を起こしたり転落してしまう場合もあります。必要時以外はデフロックを切っておくなど、対策をしておきましょう。
まとめ
デフロックはオフロードを走る際、私たちの安全を守ってくれる頼もしい存在です。また農家の方たちも助けるなど、私たちの気がつかないところで社会にも貢献しています。普段はあまり意識しませんが、デフロックは世の中にとって大切なものなのです。