スーパーチャージャーとは?
レクサスLX 570 スーパーチャージャー
クルマの出力を大きくしたい場合、もっとも簡単な方法はエンジンそのものを大きくし排気量を上げることです。
しかし、エンジンのサイズが大きくなると、重量も増えます。
そうなると、エンジンの重さやその爆発力をカバーするために、クルマの構造も頑丈なものにしなければなりません。
つまり、クルマそのものも重たくなってしまうわけです。
そんな中では、思ったように性能を向上させることは難しくなります。
そこで、エンジンそのものは大きくせず、空気を圧縮し多くの酸素をエンジンに送り込むことで出力をアップさせるという方法が取られています。そのために取り付けられる機器を過給器と言います。
そのような過給機のうち、エンジンの回転を利用して機械的に空気を圧縮するタイプのもののことをスーパーチャージャーと呼びます。
何のために必要?
次に、スーパーチャージャーはどのような目的で取り付けられるのかについて説明します。
■シリンダーにより多くの空気を取り込むために必要
通常のエンジン(NAエンジン)の場合、シリンダーへの吸気は大気圧(自然な空気の流れ)を利用して行われます。
しかしこの方法では取り込むことのできる空気の量に限界があります。
より多くの空気をシリンダー内へ取り込むためには、スーパーチャージャーのような過給器で空気を圧縮する必要が生じるわけです。
■排気量をそのままで出力をアップさせるために必要
通常のエンジンでも、排気量を大きくすればクルマの出力をアップさせることができます。
しかし、その場合はエンジンそのもののサイズも大きくなってしまいます。
そこでエンジンの大きさや排気量はそのままに、クルマの出力はアップさせたいという場合にはスーパーチャージャーのような過給器が必要になります。
メリットとデメリット
次に、スーパーチャージャーのメリットデメリットについて紹介していきます。
理解しやすくするために、まずはエンジンの仕組みから見ていくことにしましょう。
■エンジンの仕組み
ほとんどすべてのクルマのエンジンは、シリンダーの内部でピストンが上下に運動し、その力が回転運動に変わることで動力が得られるような仕組みになっています。
シリンダー内部の動きを順番に見ていくと、次のようになります。
(1)吸気バルブが開き、ピストンが下がって混合気(空気とガソリン)が入ってくる
(2)吸気バルブが閉じ、ピストンが上がって混合気が圧縮される
(3)スパークプラグで混合気に点火すると爆発燃焼し、ピストンが押し下げられる(この時の力がクルマを動かす力になります。ちなみに排気量というのは、爆発燃焼が起きるシリンダー内の空間容積のことを指しています)
(4)排気バルブが開き、ピストンが上がって燃焼ガスが排出される
スーパーチャージャーのような過給器が仕事をするのは、(1)の場面です。
先ほども述べたように、通常のエンジンの場合は自然吸気で空気が入ってくるようになっています。
アクセルの役目はこの空気量を調節することで、その量に応じたガソリンが噴射供給されることで混合気が作られます。
つまり、過給器で圧縮されることにより自然吸気以上の空気が送り込まれれば、噴射供給されるガソリンの量もその分増えることになり、結果として出力をアップさせることが可能になるわけです。
なお、過給器の種類としては今回のテーマである「スーパーチャージャー」以外にも「ターボチャージャー」があります。
ターボチャージャーとの違い
両者の違いは空気を圧縮するのに必要な力がどのように生み出されるかで、前者はエンジン(クランクシャフト)の回転力を利用してコンプレッサーを動かし空気を圧縮します。
これに対し、後者のターボチャージャーは、勢いよく排出される排気ガスの運動エネルギーでタービンを回し、タービンと同軸のコンプレッサーを回転させる事で空気を圧縮し、大気圧より高い圧力でシリンダーに空気を送り込む構造となっています。
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■メリット
では、スーパーチャージャーのメリットを見てみることにしましょう。
スーパーチャージャーのメリットは、エンジンの回転力で直接コンプレッサーを駆動するので、エンジンのパワーが出るレスポンスに優れる、という点が挙げられます。
ターボチャージャーの場合のプロセスは次の通りです。
排気ガスの排出
↓
タービンが回転
↓
コンプレッサーが回転
↓
空気の圧縮
↓
インタークーラーによる吸気の冷却
↓
シリンダーへの充填
そのため、アクセルを踏んでも、その瞬間には出力が出ない「ターボラグ」という現象が発生します。
スーパーチャージャーの場合、排気ガスでタービンを回す、というプロセスがないため、ターボチャージャーに比べ、パワーが出るまでの時間を短く出来ます。
また、エンジンの回転力で直接コンプレッサーを駆動するため、比較的低回転からパワーを出す事が出来ます。
■デメリット
ここまで見るとメリットだらけのようですが、残念ながらいくつかのデメリットも存在します。
スーパーチャージャーは、エンジンの回転力で駆動されるため、パワーの増加に寄与すると同時に、エンジンの抵抗となる、というデメリットがあります。エンジンの抵抗は、パワーのロスに繋がります。エンジン出力の一切の抵抗にならないターボチャージャーとは、この点が大きく異なります。
また、スーパーチャージャーの抵抗はエンジンの回転に正比例して高くなる傾向になるため、近年のスーパーチャージャーは、回転数を感知するクラッチを付けて、ある一定回転以上になれば、スーパーチャージャーの駆動をカットする制御を実施しているクルマが多いです。
更に、スーパーチャージャーのコンプレッサーは、ターボチャージャーに比べ、重量が重く、体積も大きいため、エンジン重量が重くなったり、エンジンの体積が大きくなって、クルマへの搭載性が悪くなる、というデメリットもあります。
搭載車種まとめ
次に、スーパーチャージャーの変遷、採用車種、後付けが可能かどうかなどといった点について見ていくことにしましょう。
■変遷
トヨタの7代目クラウン
日本車に初めて採用されたのは、1921年(大正10年)にベルリンモーターショーでメルセデスが世界初のスーパーチャージャー搭載車を公開してから60年以上も後のことです。
1985年、トヨタの7代目クラウンに日本の市販車としては初めての搭載モデルが登場しました。
その後、いくつかの車種にスーパーチャージャー付きエンジンが搭載されたこともありましたが、現在ではスーパーチャージャーを採用している日本車は数えるほどしかありません。
この理由としては、コストの問題や、デメリットのところで説明した高回転域でのロスの問題に加え、技術の発展によりターボラグが低減されるなどのターボの欠点が改善されてきたことなどが影響していると考えられます。
■採用している車種
次に、スーパーチャージャーが採用されている車種をいくつか紹介します。
現在、日本のクルマでは2車種に限定されます。
そのうちの一つは日産の「ノート」で「エコスーパーチャージャー」が搭載されており、必要な場面で作動させることでパワーを補うとともに燃費の向上にも貢献しています。
日本車のもう一つの採用車種は、マツダの「MAZDA3」です。
「MAZDA3」には「夢のエンジン」とされるスカイアクティブX(SKYACTIV-X)が搭載されているのですが、低回転域に弱点があるためそれを補う目的でスーパーチャージャーが採用されているのです。
マツダ3 新型
また、日本車以外ではアウディのA6 3.0 TFSIクワトロ、ジャガーのFタイプクーペ、ポルシェ「カイエン」のハイブリッドモデル、ランドローバー「レンジローバー」のガソリンエンジンモデルに採用されているほか、ボルボXC90のT6およびT8にはスーパーチャージャーとターボチャージャーの両方が搭載されています。
アウディ A6 3.0 TFSIクワトロ
ジャガー Fタイプクーペ
ポルシェ カイエンSハイブリッド
ランドローバー レンジローバー
■後付けは可能?
最後に、スーパーチャージャーの後付けは可能かどうかという点についても触れておきましょう。
もちろん、後付け用の製品も販売されており、クルマに詳しい方なら自分で取り付けて愛車をパワーアップさせることも可能です。
ただし、費用が50万円から100万円前後、場合によってはそれ以上と高額になることに加え、もとのエンジンがパワーアップ仕様とはなっていないことからあらゆる部分に悪影響が出てしまう可能性もあります。
それに、自分でスーパーチャージャーを後付けしたことにより不具合が発生したとしても、メーカー保証は効きません。
ですので、クルマに詳しくない方の場合は、スーパーチャージャーを後付けするよりは搭載車を買ったほうが無難と言えるでしょう。
まとめ
日産 ノート
スーパーチャージャーは、ターボチャージャーに比べてターボラグが無い、エンジン回転が低くてもパワーを出す事が出来る、というメリットがあります。
しかし、近年では、エンジンが低回転時の弱い排気ガスのエネルギーでも、ターボチャージャーを十分に回転させる事ができる可変ターボ等、ターボチャージャーの技術革新が進んでいます。そのため、低回転でもパワーを出せ、ターボラグも少ない、と言う次世代のターボチャージャー付エンジンが多数開発されています。
よって、スーパーチャージャーの技術的メリットが薄らいでいる、というのが近年の状況です。
そんな中でも、海外のクルマではまだまだ活躍中です。
今回の記事で、少しでもスーパーチャージャーについて理解していただけたなら幸いです。