昔は高級装備だったけど…今や標準装備の「ディスクブレーキ」
ブレンボ製17インチ対向4ポットフロントベンチレーテッドディスクブレーキ
ディスクブレーキとは、自動車、バイク、航空機、鉄道車両などに使用されているブレーキの一種となります。最初に特許登録がされたのは1902年で100年以上前から存在していました。
それでもドラムブレーキのほうが制動力が高いという理由で、数十年間にわたり自動車には採用されませんでした。ディスクブレーキは水による影響を受けにくくて放熱性に優れていることから、自動車よりも先に航空機で採用されました。
自動車に採用されるようになったのは1950年頃で、現在は大半の乗用車で前輪または前後輪でディスクブレーキが用いられています。
■ディスクブレーキの仕組み
モンスタースポーツ ブレーキディスクローター(新型ジムニー用)
仕組みはとてもシンプルになっています。車輪と一緒に回転するディスク(ブレーキローター)をブレーキキャリパーと呼ばれる機構によって挟み込むことで、回転する車輪を減速・停止させます。
回転するブレーキローターを挟み込む際に接触させ、摩擦により減速させる部品をブレーキパッドと呼びます。ブレーキローターを挟み込むキャリパーには大きな力が必要になるので、油圧や空気圧などを利用した倍力装置が用いられます。
キャリパーは、ブレーキローターにパッドを押し当てるための装置となります。
ブレーキ倍力装置から送られてきた高圧のブレーキフルードが、キャリパー内のピストンを押し出すことでブレーキが作動する仕組みになっています。
■ドラムブレーキとディスクブレーキ、違いとそれぞれのメリット
《画像提供:Response 》ドラムブレーキ 分解図
車両に用いられるブレーキには、ディスク式とドラム式の2種類があります。両者はそれぞれ異なる特徴があり、車両の種類ごとにいずれか片方または両方を組み合わせて使用されています。
ディスク式は放熱性に優れており、水濡れの影響を受けにくいというメリットがあります。これに加えて、制動力の微調整がしやすいという利点もありますが、強い制動力を得るためには強い力のブレーキシューでローターを挟み込む必要があり、倍力装置が故障すると効きが悪くなってしまいます。
ドラム式は車輪と一緒に回転するドラムの内部で、内側から外側に向けてブレーキシューを押し付けて減速する仕組みになります。熱がこもりやすく、放熱性に劣るというデメリットがあります。
ドラム内に水が入ってしまうと、乾燥して制動力が回復するまでに時間が掛かってしまいます。ドラム式はディスク式と比べて弱い力で大きな制動力を得ることができ、停止時の拘束力が強いという利点があります。
ドラム内のブレーキシューを回転方向に押し付けるので、自己倍力作用(サーボ作用)が得られるというメリットもありますが、サーボ作用の影響で制動力の微調整がしにくいという欠点も存在します。
拘束力が強いという理由で、多くの自動車はパーキングブレーキ用として後輪にドラム式が採用されています。
■ディスクブレーキが広まったのは1950年代!意外と若い
シトロエン DS(1969年型 谷保天満宮旧車祭16 出展車両)
ディスクブレーキの特許は100年以上前に申請されたと先ほどご紹介しましたが、先行して列車や飛行機のブレーキシステムとして採用が始まっていたものの、自動車のブレーキシステムとしての実用化は、それから何十年も待たなくてはなりませんでした。
現代的なディスクブレーキを量産実用化した初めての車は、フランスの自動車メーカー、シトロエンが1955年に発売した「DS」とされます。
DSは数々の技術的革新で知られるユニークな車ですが、それまでは実験的に市販車に装着されたり、レーシングカーなどで限定的に用いられていただけの最新技術であるディスクブレーキを装備した点は、非常に先進的といえるでしょう。
初期のディスクブレーキはドラムブレーキに比べてブレーキ力に劣り、固着やサビなどのトラブルにも見舞われたものの、冷却性能やコントロール性能に優れているなどの利点が広く理解されるに従って、レーシングカーやスポーツカーだけでなく、量販車にも採用が広がっていったのでした。
ディスクブレーキにも種類がたくさん!
■ローターの形状や材質のバリエーション
《画像提供:Response 》ホンダ NSX タイプS カーボンセラミックブレーキローター
普段はホイールの後ろに隠れていることもあってあまり注目されないディスクブレーキのローターですが、実はさまざまなバリエーションが存在するのです。
まずは形状の違い。近年ではスタンダードな1枚板タイプの「ソリッド」ローターはブレーキ負荷の軽い軽自動車やコンパクトカーでしか見られなくなっており、多くの場合では2枚のディスクが重なり合った「ベンチレーテッド」タイプのローターが標準装備されています。
ベンチレーテッドタイプは2枚のディスクの間が空洞になっており、そこを空気が通り抜けることでローターの放熱・冷却性能を大幅に向上させたタイプです。
ベンチレーテッドタイプの中でも、放射状にフィンが設けられている一般的な「ストレートタイプ」、フィンが渦巻き形状になっていて空気の通りを改善した「カーブヴェーンタイプ」、そもそもフィンではなく細かな点で2枚のディスクを支えているので軽量かつさらに冷却性能を向上させた「ピラータイプ」と、さらに細かく分類することができます。
またローターは、あまり数は多くないものの材質のバリエーションも存在します。一般的には鋳鉄が材質として用いられるローターですが、ハイエンドスポーツカーやレーシングカーなどでは、カーボンセラミックを用いたものが利用される場合もあります。
カーボンセラミック製のローターは非常に軽量な上、サーキットを全開走行し続けても性能が低下しないなど、メリット満載ではあるのですが、問題はコストです。カーボンセラミックブレーキがオプション設定となっている車では、オプション価格が100万円を優に超えることも多いなど、ハイエンドな車にだけ用いられる超高級ブレーキとなっています。
■キャリパーの形式や構造別のバリエーション
曙ブレーキ 対向10ポットキャリパー(IAAE16 出展品)
ローターにブレーキパッドを押しつけるキャリパーにも、バリエーションが存在します。まずは形式別に、片持ち式と対向式の2種類に大きく分けることができます。
片持ち式は、片押し式、フローティングキャリパーなどと呼ばれることもあるもので、具体的にはブレーキパッドを押し出すピストンがキャリパーの片面にしか備わっていないことが大きな特徴です。ピストンの数が少ない分部品点数が減り、重量が減り、必要なスペースも小さくて済むなど、一見メリットだらけのように思える仕組みです。
対する対向式は、オポーズドキャリパーなどと呼ばれることもありますが、ローター両面にブレーキパッドを押し出すピストンを備えていることが大きな特徴。当然ながら、片持ち式と比べるとピストンが反対側にも備わる分キャリパーのサイズが大きくなりますし、ホイールとのクリアランスも大きめに必要になります。
一見、対向式のボロ負けのような印象も受けますが、対向式キャリパーの大きなメリットはそのブレーキ性能の高さとコントロール性の良さ。ブレーキパッドを均一な面圧でローターに接触させることができるので、スポーツカーやレーシングカーだけでなく、車重のあるSUVやセダンなどにもぴったりなキャリパータイプとなっています。
【注意点や頻度は?】ディスクブレーキのメンテナンスについて
ディスクブレーキには調整も必要
ブレーキは車両を安全に減速・停止させるために必要不可欠な装置で、命綱のような存在です。命綱であるブレーキを確実に作動させるためには、きちんとメンテナンスをする必要があります。
ディスクブレーキには、使用していくうちに消耗していく部品がありますので、故障や不具合によって制動力が低下することのないよう、定期的に点検を行い、適宜部品を交換する必要があります。
■ディスクブレーキのメンテナンス項目や、交換が必要な部品とは?
《画像提供:Response 》無限 ブレーキフルード
ディスクブレーキを構成する部品は、運転手から近い順に、ブレーキペダル、倍力装置、ブレーキホース、キャリパー、キャリパーピストン、ブレーキパッド、ブレーキローターなどから構成されていますが、これらのうち使用に応じて劣化していく部品は、性能を維持するために交換が必要になります。
例えば、倍力装置はホース、シリンダ、ピストンなどで構成されていますが、これらが劣化するとブレーキフルード漏れを起こすことがあります。
また、倍力装置からキャリパーまでをつないでいるブレーキホースは一般的にはゴムでできており、裂け目ができるなどすると、これもまたブレーキフルード漏れを起こすことがあります。
ブレーキフルードが漏れてしまうと、ブレーキを作動させられなくなるため、これらは非常に大事な部品です。
他にも、ブレーキフルード自体も劣化したり水分が混入すると効きが悪くなるので、定期的に交換が必要となります。
■ブレーキパッドの交換目安は?減りすぎは車検に通りません
トヨタ クラウンアスリート用ブレーキパッド…TRD
ブレーキパッドは、キャリパーピストンに押し出されて回転しているローターに押し当てられる部分で、ブレーキを効かせるためには必要不可欠な部品です。
ブレーキパッドは、ローターと接触する度に段々と摩耗していくので、一般的な乗用車の場合3年から4年ほどで交換が必要になってくる場合が多いです。また、ブレーキの使用頻度が高かったり、急減速の頻度が高いと、ブレーキパッドの寿命は短くなります。
ブレーキパッドは、摩耗するとキーキー音が出るか、一部の高級車ではセンサーが検知して運転席のパネルに表示されて知らせてくれる仕組みになっています。
ブレーキパッドは新品であれば10mm程の厚さがありますが、通常は1万kmを走行するごとに1mmから2mm程のペースで摩耗します。
パッドの厚さが2mmから3mm程になると交換が必要で、1.6mm以下になると車検が通らないので注意しましょう。
ブレーキパッドが摩耗してしまうと、パッドの摩擦に強い部分が擦り切れてしまい制動力が低下する、ブレーキローターを損傷するなどの原因になりますので、余裕を持った交換がおすすめされます。
交換費用の目安ですが、軽自動車や普通車は1セットで1万円弱程で、高級乗用車やミニバンであれば、1万5千円前後となります。前輪だけであれば、ガソリンスタンドや整備工場で30分から60分くらいで交換作業ができます。
■ディスクブレーキを点検整備する際の注意点も要チェック
《画像提供:Response 》自動車整備工場 イメージ
ディスクブレーキは今や大半の乗用車に装備されており、信頼性や耐久性が格段に向上しています。それでも制動性能を維持するためには、日頃の点検整備が必要となってきます。
点検で異常を発見した場合は、運輸局長の許可を受けた認定工場にメンテナンスを依頼するようにしましょう。
ブレーキに関する部品交換や分解作業は法律で『特定整備』にあたることが定められており、国の認証を受けた工場でしか行なってはいけないことになっています。
整備士資格を持っていない方でも、自分の車なら『特定整備』にあたる内容も含めて整備をすることは合法ではあります。しかしブレーキは、作業が不適切だと大事故にも繋がりかねない重要な部品ですので、安易にDIY整備にチャレンジするのは控えた方が賢明といえそうです。
上記でご紹介した音や警告表示以外にも、ブレーキペダルを踏み込んだ時、いつもの踏みしろよりも深く踏み込まないとブレーキが効かないなと思ったら、ブレーキパッドが消耗している、ブレーキフルードが漏れているなどの不具合が考えられます。ですので、安全のため、ディーラーや整備工場でブレーキの点検を依頼するようにしましょう。
ブレーキパッド以外にも、ブレーキパッドが接触するブレーキローターにも厚みの基準が決められており、長期間使用して基準を下回った厚みになったローターは交換が必要になります。
また、ブレーキローターは一般的に鉄でできているため、長期間にわたり自動車を使用しないと、表面に錆が生じます。
表面に錆が発生するとブレーキをかける際にゴーという異音が出るほか、ブレーキパッドがローターに正しく接触できなくなり制動力が低下するおそれがあり、研磨をして錆を取り除く必要があります。
オートバイや自転車にも使われるディスクブレーキ
ホンダ CRF250L フロントディスクブレーキ
自動車以外にも、オートバイや自転車にもブレーキが取り付けられています。ディスク式は主に航空機や4輪車に使用されていますが、最近はオートバイや一部の自転車にも使用されています。
市販されているほとんどのオートバイの前輪にはディスク式が取り付けられており、外から見て確認ができます。スポーツタイプの一部の自転車にも、オートバイと同じように前輪部分にディスク式が取り付けられています。
ディスク式は制動力を細かくコントロールしやすいというメリットがあるので、バランスを保つ必要があるオートバイや自転車の前輪のブレーキに適しています。
まとめ
STI製brembo 17インチ対向2ポットリヤベンチレーテッドディスクブレーキ(ドリルドディスク、STIロゴ入り)
ブレーキは、必ずといっていいほど乗用車やオートバイなどの乗り物のほとんどにに取り付けられています。
私たちの命を守るとても重要な装置ですが、消耗部品が劣化すると性能が低下して非常に危険なので、日頃からきちんとメンテナンスをするように心がけましょう。
よくある質問
■ディスクブレーキと他のブレーキはどうやって見分けられる?
自動車のブレーキとして用いられるものは、ディスクブレーキとドラムブレーキの2種類が一般的です。ディスクブレーキはその名の通り「ローター」と呼ばれるディスク部がホイール内に露出しているのが目印で、ドラムブレーキはホイール内に見える深皿のような形をした「ドラム」が目印です。
■ディスクブレーキのサビ、どうにかならないの?
一般的にディスクブレーキのローターには鋳鉄が用いられており、ブレーキパッドが接触する面はピカピカでも、それ以外の部分は赤茶色にサビてしまうことも少なくなく、美観を損ねるだけでなくホイーールへダメージを与える場合も。気になる場合は防錆加工を施したローターを利用するとサビの発生が抑制できます。また、カーボンセラミック製のローターは、一切サビが発生しない点が魅力の一つです。
■ディスクブレーキは頻繁にメンテナンスが必要と聞いたけど本当?
ドラムブレーキと比べると、ディスクブレーキは部品点数が多く、部品の消耗スピードも早めなので、メンテナンス頻度が高くなりがちと言えます。一般的な走行ではそこまで頻繁に部品交換が必要になることは稀と思われますが、ブレーキ液の量やブレーキの効き、異音が発生していないかなどを、日常的に確認するようにすれば安心です。