車のオーバーハングって何?
ランボルギーニ ガヤルド スパイダー
オーバーハングとは、前後のタイヤの中心部から外側へとはみ出した車体部分を指す名称です。真横から車のボディを見た時に、前輪・後輪の車軸からそれぞれ前の部分と後ろの部分が該当します。
車のオーバーハングは車によって違うのは何故?
BMW 5シリーズ
昔から小さい車はオーバーハングが短く、大きい車は反対に長い車種が多い傾向にありました。ボディが長くなるほど重くなるため、メーカーとしては価格や重量を下げたい小型車は必然的に短くなったという訳です。
ボディが短ければ、走行安定性・動力性能が上がるという構図があったからです。そのためにはホイールベースを限界にまで伸ばしてキャビンを大きく取り、反対にエンジンなどメカニズム部分は小さく、そして短くするといった工夫がとられてきました。
逆に大型車はストレート6やV12エンジンを縦置きで搭載する場合、ロングノーズが必然となったため長くなりがちだったという訳です。室内空間の居住性を重視する大型車では、特に長くなる傾向にあります。
オーバーハングの比率が高まれば安心感と高級感が生み出され、比率が低くなれば小回りが利きアクティブな印象が高まるということです。
なお大きな変化が訪れたのは、1990年前後の時期からです。多くの車がホイールベースの長尺化と、それに伴うオーバーハングの短縮化が進みました。小型車は居住性の改善を、大型車はそれにプラスして直進安定性とそれに付随する快適性の向上が目的です。
ここで直面した問題が衝突時のクラッシャブルゾーンの確保でしたが、各社がしのぎを削り合う中で前方衝突時にエンジンが直下してキャビンが逃げる構造が生み出されます。
これにより、あらゆる軽自動車やコンパクトカーもこの方式に恩恵を受けながらクラッシャブルゾーンを確保することに成功しました。
オーバーハングの違いによる車の性能への影響
ロールスロイス ファントム
オーバーハングの長短は、車体の見た目の印象に影響を与えるだけではありません。最小回転半径などの運動性能や、衝突時の衝撃吸収力に大きく関わってきます。
長い車体ほど衝突時に発生するエネルギーは、オーバーハングのエリアが物理的に吸収してくれるため室内へは伝わりにくくなるからです。90年代までは衝突時に備えて、ある程度の空間を持たせることは衝撃吸収の面で必須でした。
しかし衝突時の力を上手く分散させることができ、室内に衝撃が伝わりにくいクラッシャブルゾーンが開発されたことにより、様々なサイズのオーバーハングをもつ車が生まれるようになります。
その結果オーバーハングは短くして、その分室内スペースを拡大したデザインの車が大型・小型問わず増えつつあります。
■同じ車種でもモデルや年式で違うオーバーハング
同一車種でもモデルイヤーや型番の違いにより、オーバーハングが異なる場合があるということを覚えておきましょう。
たとえばトヨタ自動車が製造・販売しているフラッグシップ車の1つ、クラウンもその例の一つです。クラウンは1955年より販売を開始して以来、2018年に発売した15代目に至るまで絶え間なく進歩を続けています。
その間に少しずつ仕様は変化を続けており、オーバーハングに関しても例外ではありません。2012年から2018年にかけて製造および販売されてきたクラウンの14代目と比べて、15代目となる現行バージョンはオーバーハング量が短くなっています。
55mというわずかな差であるにも関わらず、この短縮により5ドアクーペのようなロングキャビンライクな見た目も重々しくならずスマートです。
加えてホイールベースを長尺にしたことにより、操作面や安全性がより向上しています。このようにモデルはもちろん、年式を重ねるごとにオーバーハング量が変化していくことは非常に多いです。
オーバーハングで変わる車の外見
トヨタ オーリス ツーリング スポーツ
これまで見てきたように、オーバーハングが異なることにより、見た目や印象に影響を及ぼします。もちろん運動性能や、衝突時の衝撃吸収力にも大きく影響を与えます。
ここからはオーバーハングの長短によって変わる印象や、その特徴について個別に見ていきましょう。
■オーバーハングの長い車
オーバーハングの長い車を真横から眺めることで、見た目の特徴は顕著に出てきます。フロントが長い場合は鼻が高くスマートな印象で、リヤの場合は尻尾が長くてトランクが突き出しているような印象を抱くかもしれません。
ホイールベースが前に出てるように感じたり、両面が長ければ海外産の高級車に近いように感じる場合もあるでしょう。車種やモデルによってはフロント、もしくはリアだけ長く突き出ているデザインの製品もあります。
しかし、決して非対称だからといってバランスが悪く見える訳ではなく、全長との比率や曲線のデザインによってスタイリッシュに感じることも多いです。デメリットとして挙げるとすれば、最低地上高が小型車より必要になるという点です。
特に車両をローダウンするなどカスタマイズを施したい場合、短い車両よりも基準値は厳しくなります。またオーバーハングは長くなればなるほど、段差でバンパーを擦りやすくなるという点にも注意が必要です。
フロントが長いタイプは顎を、リヤが長い場合は尻を、両方が長ければそのどちらも段差を乗り越える際に警戒しなければなりません。
■オーバーハングの短い車
ショートオーバーハングの車は、小回りが利くという点が大きな特徴です。狭い場所に駐車する際も、切り返しが少なくて済むなど非常に便利です。
ステアリングを切った時の車の向きの変えやすさを示す回頭性は、オーバーハングの長短がダイレクトに影響します。短いことによりタイヤの軸を中心とした、方向転換の際の半径が縮まるため小回りが利くというのが理由です。
車体が短くなることにより重量が小さくなり、その分左右のブレが減って安定性が増します。またホイールベースが長くなることで、車内の空間の広さが向上するのも大きな魅力となります。ただし室内スペースが増す一方で、トランクルームの容量が減ってしまうのがデメリットです。
車のオーバーハングの役割
ルノー メガーヌ スポーツツアラー
見た目以外に影響を与える役割として、低速域での取り回しが挙げられます。カタログに掲載されている最小回転半径は、もっとも外側になるタイヤの接地面の中心の軌跡を基にしたデータです。
すなわち同じ最小回転半径の車を用意したところで、実際の小回り性能に関してはオーバーハングの数値によって、大きく左右されてしまうということです。
もちろんこの数値が低い、つまりオーバーハングが短いほど取り回しがしやすくなります。ただ全長が同じでホイールベースを長くしてしまった場合、取り回しが難しくなってしまうため注意が必要です。
最小回転半径だけでは推し量れないばかりか、オーバーハングだけでも判断できないという点もよく覚えておいてください。
■トラックなどのオーバーハング
日立建機 190tダンプトラック
トラックやバスなどの大型車で、オーバーハングが極端に短いことを疑問に思う方も多いかもしれません。
車体がただでさえ長い上にオーバーハングまで長いと、取り回しや安定性に難が出てしまいます。狭い場所での取り回しに苦慮し、入ることができない駐車場や小道が増えます。
カーブなどでは、注意しないとオーバーハング部分が反対車線にはみ出るといった事態を招き、非常に危険です。
オーバーハングが長いほどこのはみ出す量は増え、後方からの追突や前方からの対向車に衝突する危険性が増加します。内輪差に気を取られ、オーバーハングのことまで配慮できなくなることが主な原因です。
出来るだけ事故の発生する確立を下げ、カーブや狭い道路でも小回りを利きやすくするためにもオーバーハング量を縮めることは、必要不可欠という訳です。
まとめ
ダイハツ ビーゴ/トヨタ ラッシュ
車の主要諸元表には全長・全幅やホイールベースが掲載されていますが、オーバーハングについては記載されていません。
しかし、見た目の印象はもちろん、その数値によって運転性能や安全性は飛躍的に変化する重要な数値です。
1990年頃を皮切りに、大きく変化してきたオーバーハングとその周辺の機構を学ぶことで車の知識は深まります。諸元表には記されていませんが、きちんと把握することでより理想の車選びを実現させることができるでしょう。