トランスミッションって何をするものなの?
MINIカントリーマン
車に搭載されているガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、燃料を燃焼させて回転エネルギーを得ます。
得られた回転エネルギーを使って車輪を駆動し、車を動かすことができます。ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでも、効率的に回転エネルギーを得られる回転数は限られています。。
自動車は10km/h以下の低速から100km/h以上の高速域まで速度を変化させる必要があるので、車輪の回転数を変えるためのギヤが必要になります。
速度に応じてギヤに切り替えることで、自動車は低速から高速まで幅広い速度で走ることができます。
自動車が走行するためには、運転中に速度に応じて適切なギヤに切り替える必要があります。マニュアル車であれば、ドライバーがクラッチを踏んで手動でシフトチェンジをします。
AT車の場合は、自動変速機(オートマチック・トランスミッション)が自動的にシフトチェンジをします。
市販車(AT車)に搭載されているトランスミッションは主に、ステップAT・CVT・セミAT・DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の4種類です。いずれもクラッチ操作をしなくても自動的にシフトチェンジが行われますが、内部の仕組みが異なります。
DCTって何?
ポルシェ911
一部のAT車は、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)が使用されています。DCTは、流体クラッチでなくてマニュアル車のようにクラッチ板を経由して動力を伝達します。
2枚のクラッチ板が交互につながる仕組みで、動力の遮断・シフトチェンジ・クラッチ接続の操作が自動的に行われます。2組のクラッチ板・ギヤのセットから成るので、デュアルまたはツインクラッチと呼ばれることがあります。
ちなみにMT車の変速機は、1組のクラッチ板とギヤのセットから成っています。そのため、DCTはMT車の変速操作を機械的に行うようなものではありません。
■DCTとATの違い
DCTとATは両方ともシフトチェンジの際にクラッチ操作を必要としないので、AT限定免許でも運転ができます。ただし装置の構造が異なるので、走行時の特性やエネルギー伝達効率などに違いがあります。
AT(ステップAT・CVT)は低速時に流体クラッチが使用されるので、アクセルを踏まなくてもクリープ現象で車が動きます。これに対してDCTはクラッチ版を介して動力が伝えられるので、クリープ現象が起こらない車種もあります。その場合発車の際は、アクセルを踏む必要があります。
■DCTのメリット
DCTは流体クラッチを使用していないので、AT・CVTと比べて動力の伝達効率が高くなります。エネルギーの伝達ロスが少ないので、燃費はMT車と同じくらいです。
変速操作が行われる際に動力が完全に遮断されることがないので、シフトショックが軽くてスムーズに加速します。シフトチェンジの操作に要する時間が短いので、駆動効率が高くなります。
MT車と同じようにクラッチ板を使用するので、高トルクエンジンにも使用が可能です。発進時に半クラになりますが、機械的に制御されるのでMT車よりもクラッチ板の寿命が長くなります。
DCTを採用した車・バイクの例
DCTは動力の伝達効率が高くて高出力エンジンにも対応できることから、スポーツカー・大型バイク・大型車などに採用されています。最高速度が300km/hを超えるスーパーカーや、大型トラック・バスなどにもDCTが採用されています。
■日産・GT-R
GT-R NISMO の2020年モデル
日産GT-Rの最高出力は570馬力、GT-R NISMOでは600馬力に達し、最高速度は時速300km/hを超えます。大出力エンジンの推力を確実に車輪に伝えるために、GT-Rには6速DCTが搭載されています。
クラッチは1・3・5の奇数段と2・4・6の偶数段に分かれており、マニュアル操作によるシフト選択も可能です。
■ホンダ・ゴールドウイング
ホンダ ゴールドウイング
DCTは装置が大きくなるので主に乗用車や大型車に使用されていますが、一部の大型バイクにも採用されています。
エンジン排気量1,833ccのホンダ・ゴールドウイングの一部のモデルには、7速DCTが使用されています。ちなみに7速ギヤ比はMT車の6速と同じ0.521なので、最高速度は同じです。
DCTは今後主流になれるか?
日産 GT-R デュアルクラッチ・トランスミッション
DCTはエネルギー伝達効率が高いことや変速がスムーズであることから、「夢のミッション」と呼ぶ人もいるほどです。
ただしATやCVTにも多くの利点があるので、将来に日本でDCTが主流になれるとは言い切れない部分があります。どの方式のトランスミッションが普及するかは、交通事情や車の使い方によっても影響されるからです。
■国産車で採用が少ないのは交通事情に合わないから?
日本は米国と同じようにAT車の普及率が非常に高いですが、昔はステップATが多く採用されていました。
現在はエコカーが増えており、小型車を中心にエンジンの最も効率の良い回転数を活かせるため燃費性能を向上させやすいCVT搭載車が増えています。
ちなみにステップATも進化しており、DCTと比べて遜色がないレベルまでスポーツ走行が可能な伝達効率を実現しているものもあります。
日本の道路は渋滞が多く、市街地では信号待ちで頻繁に停止と発進を繰り返します。DCTは発進停止を繰り返すシーンではギクシャクしてしまうこともあり、日本の街中で走行する場合には、低速域でもスムーズに操作できるAT・CVTのほうが適しています。
■DCTは多段化には不向き?
DCTはギヤに応じたサイズの歯車を経由して動力を伝える仕組みなので、多段化をすると機構が複雑になります。このことはステップATにも同じことが言えますが、装置の構造や重量の制約で段数が限られてしまいます。
一般的にガソリンエンジンなどの内燃機関は、回転数によってエネルギー効率に違いが出ます。燃費を向上させるためには、常にエネルギー効率が高くなる回転数で運転をすることが理想的です。
速度に関係なくエンジン回転数を一定の範囲で運転させる場合にはCVTが最適で、国産のエコカーではCVTが主流になっています。
エンジンの燃焼効率を考慮して燃費性能を向上させるためには、トランスミッションを多段化する必要があります。多段化に不向きなDCTは、ハイブリッドエンジンとの相性が良いとはいえません。
■進む車の電動化、DCTの未来はあるか?
近年はハイブリッドエンジンの普及が進んでいて、電動モーターを使って駆動する方式の自動車が増えています。
電動モーターは低速域から高速域までを多段の変速機なしでまかなうことができ、その分車両の軽量化、部品が減ることによる信頼性の向上が見込めます。
これらのモーターのみを動力とする車は基本的には多段のトランスミッションを必要としません。しかし、モーターといえど万能ではないので、現在発売されているEVの多くは減速機を使用しています。
また、ポルシェの高級EV「タイカン」では2速トランスミッションを搭載することでモーターの弱点である高速度域での性能を補っているなど、EVとトランスミッションとの組み合わせは今後も存続する可能性もあり、その際にはDCTが使用されることもあるかもしれません。
省エネ重視で自動車の電動化が進むと変速機が使われなくなるので、DCTの出番はありません。
■スポーツカーに関しては引き続き搭載されるかも!
国産のエコカーや高級乗用車ではCVTや電動モーターの普及が進んでいますが、どうしてもDCTに頼らざるを得ない分野があります。今後もDCTが採用される可能性が高いのは、スポーツカーです。
スポーツカーは高出力エンジンを搭載しており、駆動輪に対してエンジン出力をダイレクトに伝えることが求められます。コンマ1秒を争うスポーツカーの世界では、瞬時に最適なギヤに切り替えられるDCTが最も適しているからです。
日産自動車は無段階変速機の分野で高い技術を持っているにもかかわらず、GT-Rには6速DCTが採用されています。
ランボルギーニやフェラーリのスーパーカーにも、DCTが用いられています。このことから、スポーツカーの世界ではDCTが主流になる可能性があります。
まとめ
日産 GT-R デュアルクラッチ・トランスミッション
DCTは夢のミッションと呼ばれていましたが、エコカーの分野ではCVTや電気モーターの普及が進んでいます。それでも、大型車やスポーツカーの分野では近い将来にDCTが主流になる可能性があるといえます。