魔法の言葉、「四駆」… その意味とは?
日産 GT-R
なんとなくかっこよさを感じてしまう車用語のひとつ、四駆(ヨンク)。漢字で書くとわかりやすいのですが、「四輪駆動」の略として使われていますね。
現在どの自動車メーカーもSUVに注力していることもあって、これまで以上に身近な存在になってきている四駆。
SUV以外でも、軽自動車から高級セダンまで幅広く四駆が設定されていることもありますし、普段雪が降らない地域でも近年では突発的な豪雪災害に見舞われることもあり、次に車を買うなら走破性の高い四駆にしようかな、とお考えの方も多くいらっしゃるかもしれませんね。
そんな身近な四駆でも、その歴史や分類について詳しく知っているという方は意外と少ないのではないでしょうか。
そこでここからは、四駆の歴史や分類を簡単にご紹介していきます。四駆についてもっと詳しくなれること間違いなしです。
四輪駆動車が広まったのは意外と最近?!四駆の歴史をおさらい
■最初の四駆はレース用途だった!(〜20世紀初頭)
《画像提供:Response 》キュニョーの砲車(模型)
自動車の歴史は、蒸気機関で動く三輪の大砲運搬車「キュニョーの砲車」が1769年には登場して以降、200年以上の歴史を持っています。
そんな自動車の中でも、構造が複雑になるガソリンエンジンによる四輪駆動が実用化されたのは、実は結構最近のこと。
蒸気機関によるものやモーター駆動によるものは19世紀から細々と開発がされていたようですが、まず現在のようなガソリンエンジンが自動車の原動機として普及し始めるのが19世紀末ごろ以降ですし、その後に四輪駆動のガソリン車が登場したのは、もう20世紀になってからでした。
世界初となるガソリンエンジンによる四輪駆動車は、オランダのスパイカーというメーカーによって開発された「60HP」とされています。こちらは1903年に登場し、四輪駆動だけでなく四輪ブレーキや6気筒エンジンなど、様々な世界初を盛り込んだ意欲作。
現代の基準では巨大な、なんと8.7リッターという直列6気筒エンジンを搭載した60HPは、四輪駆動によるトラクション性能の高さも手伝ってか、時速110kmという当時では驚異的な最高速度を実現していたとのこと。
現在でも同車は、オランダ ハーグにあるラウマン自動車博物館に保存されているとのことです。
■軍用車両として発展し、乗用車にも使われ始める(〜1960年代)
《画像提供:Response 》九五式小型乗用車(お台場旧車天国16 出展車両)
その後、四輪駆動車の開発が大きく進んだのは、第二次世界大戦前後のこと。悪路での走破性の高い四輪駆動車は軍用車両として最適であったため研究開発が進められ、四輪駆動車のアイコン的存在でもあるほど有名な米国のジープは、「ウィリス MB」として1941年には本格量産が開始されています。
それに先立つこと数年、1936年には、日本でも国内初の四輪駆動車「九五式小型乗用車」通称・くろがね四起の量産が始まっており、こちらもそれまで二輪車やサイドカーで行っていた偵察・連絡用途に重宝されたそう。
残念ながらくろがね四起は、生産台数の少なさと戦後の混乱からか現存しているのはわずか数台とのことですが、石川県の日本自動車博物館で実車が確認できるそうです。
これらの軍用車両によって、四輪駆動の有用性は証明されたものの、四輪駆動車に必要になる等速ジョイントなどの部品の生産能力がまだまだ低かったことなども影響してか、一般向けの四輪駆動車が広まるのはもっと後のことになります。
《画像提供:Response 》ジープ ワゴニア(1963年)
現代的な乗用四輪駆動車が花開くのは1960年代のことで、1962年にはカイザー・ジープ社による「ワゴニア」が登場、1966年には英国のジェンセン社からスポーティな3ドアクーペの「ジェンセンFF」が登場するなどしています。
特にワゴニアは、先代モデルのジープ ステーションワゴン譲りのワゴン風ボディと余裕のある地上高を保ちつつ、前輪独立懸架を用意するなど乗り心地と操縦性が追求されていたほか、カーペット張りで上質な仕立ての内装を持つなど、現代でいう「SUVスタイル」がすでに確立されていたことが窺えます。
■様々な用途に用いられる四輪駆動が、幅広い車種に設定(〜現代)
アウディ スポーツクワトロ S1
その後1970年代には、スバルから「レオーネ」が登場するなど四輪駆動が採用された乗用車がどんどん増えていき、1980年代に至ってラリー競技への適用も始まるとスポーツイメージが付与されて人気が爆発。
そのこともあってか近年では、四輪駆動は悪路走破性のためだけの機構ではなく、有り余るハイパワーを路面にしっかり伝えるためにスポーツカーやスーパーカーへも搭載されることが増えており、有名な例としては日産 GT-Rやランボルギーニ車などが挙げられます。
また日本では、そのスポーツカー系の流れとは別に、1980年代以降のRVブームによっても四輪駆動が身近な存在になりました。ウィンタースポーツなどのアウトドアなライフスタイルが流行し、今でいうSUVやステーションワゴンなど、四輪駆動車が俄然人気となったのです。
RVブームが去った後でも、日本では豪雪地帯にも都市部が多数存在することもあって、四輪駆動車が普段から活躍する機会がありました。その結果、SUV系だけでなく、幅広いタイプの車に対して四輪駆動車が幅広く設定されることが一般的になりました。
現代ではバリエーション豊富! 四駆の種類
日本国内では様々な車種で四輪駆動が選べることはご紹介した通りですが、価格帯の違いや用途の違いに合わせて、様々なバリエーションの四輪駆動が存在しています。
簡単に、それぞれご紹介していきます。
■フルタイム式4WD
トヨタ ランドクルーザープラド
フルタイム式は、エンジンからの出力をセンターデフと呼ばれる部品によって前後輪に配分し、常に四輪へ駆動力をかけ続けるシステムです。
四輪駆動といえど、エンジンからの出力を四輪全てに均等に伝えてしまうと、カーブなどでタイヤの回転数の差を吸収できないので舗装路などでは走行できなくなってしまうおそれもあります。そのため、前後輪の間での回転差を吸収するセンターデフを用いるのです。
フルタイム式はその名の通り「フルタイム=常時」四輪を駆動していますので、路面状況の突然の変化にも強い点が特徴ですが、四駆の高いトラクション性能が必要でない場面であっても駆動し続けていることから、燃費などへの悪影響も生んでしまうシステムとなっています。
これらの特徴から、より本格的な走破性が求められる車種に採用されることが多くなっています。
■パートタイム式4WD
トヨタ ハイラックス
パートタイム式は、トランスファーと呼ばれる駆動力を配分する装置を利用して、二輪駆動と四輪駆動を切り替えることのできるシステムです。
機構的に比較的シンプルでなおかつ悪路での走破性が優れていることなどから、現在でも採用する車種が見られます。
しかし、パートタイム式4WDはセンターデフを持たないことから前後輪での回転差を吸収できないので、舗装路上での四駆の使用は控えるのが鉄則。
この難点を避けるべく、パートタイム式ながらセンターデフを備え、舗装路上での安定性向上を狙ったフルタイムパートタイム複合式4WDも存在していますが、現在ではパートタイム式はかなり本格派のクロカン車にのみ搭載される玄人向けのシステムとなっています。
■オンデマンド式4WD
マツダ CX-30
通常時は二輪駆動、必要な時に自動的に四輪駆動に切り替わるという扱いやすさから、幅広い車種に搭載されているのがオンデマンド式。
ドライバーによる操作が必要ない四駆という意味ではフルタイム式のような印象もあり、実際にフルタイム式と呼ばれる場合もあるのですが、こちらは二輪駆動がデフォルト状態になっていることから、四駆に切り替わるまでの間に瞬間的にタイムラグがある点は注意が必要です。
オンデマンド式4WDには、駆動輪がスリップすることでメカ的に四駆へ切り替わるパッシブタイプと、電子制御によって能動的に四駆に切り替えることのできるアクティブタイプがありますが、特にパッシブタイプではその切り替わりのタイムラグを感じやすく、唐突に挙動が変化するので違和感を感じてしまうことも。
それに対してアクティブタイプでは、近年の車の様々なセンサーを利用して、車がスリップする兆候を瞬時に察知して前もって四駆に切り替える、なんてことも可能ですし、ドライバーがスイッチ操作で切り替えることができるものも存在しています。
■電動4WD
ポルシェ タイカン 4S(海外仕様車)
近年進む車の電動化に合わせて搭載車種が増えてきているのが、モーターによって四輪駆動を実現する電動4WDです。
車種によって駆動の組み合わせには種類がありますが、有名なところでは、トヨタのE-Fourのように前輪はハイブリッドシステムで駆動・後輪をモーター駆動としたものや、日産のe-POWER 4WDなどのように前後それぞれにモーターを搭載してそれぞれ独自制御するものなどがあります。
これらのように、モーターを利用することで前輪と後輪とを機械的につなげることなく四駆を実現するシステムは、重たいプロペラシャフトを搭載しなくて済むなどメリットがあります。
これらのハイブリッド車だけでなく、日産は2021年の発売予定のEV「アリア」に前後独立のモーターによる四輪駆動「e-4ORCE」を搭載することを予告していますし、EVメーカーとして急成長を続けるテスラ社のEVでも、前後にモーターを搭載した「デュアルモーター」仕様が幅広く設定されています。
今後も電動車両のさらなる普及に伴って、より電動4WDが設定される車が増えていくことでしょう。
本格派の走破性を持つ、注目の四駆はこれだ!
■トヨタ ランドクルーザー
トヨタ ランドクルーザー ヘリテイジエディション(海外仕様車)
1950年代から続く歴史のある車名で、世界中で本格派四駆として支持され続けているランドクルーザー。現行型は200系と呼ばれ、デビューは2007年という長寿モデルですが、その堂々たる体躯の存在感は圧倒的ですね。
ランドクルーザーに採用されている四輪駆動システムはセンターデフを備えたフルタイム式ですが、見所はそれだけでなく、電子制御を巧みに組み合わせることでさらに高度な走破性が実現されています。
ダイヤル式のトランスファー切替スイッチによってハイレンジとローレンジに切り替えが可能なほか、センターデフロックも可能などクロカン車らしい本格派装備はもちろんのこと、全車に標準装備されるマルチテレインセレクトを使用すれば、ドライバーの意思に応じてロック、モーグルなど路面状況に応じた適切な駆動制御へと切り替えが可能となっています。
トヨタ ランドクルーザーのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,950mm×1,980mm×1,870mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,850mm | |
最大乗車定員 | 8名 | |
車両重量 | 2,690kg | |
燃費 | WLTCモード:6.7km/L | |
エンジン種類 | V型8気筒ガソリン 4,608cc | |
エンジン最高出力 | 234kW(318PS)/5,600rpm | |
エンジン最大トルク | 460N・m(46.9kgf・m)/3,400rpm | |
駆動方式 | フルタイム4WD | |
トランスミッション | 6速AT | |
新車価格 | 6,340,000円(消費税抜) |
■トヨタ RAV4
トヨタ RAV4 アドベンチャー
RAV4って、街乗り向けのSUVじゃないの?とお思いでしょうか。確かに、RAV4が侮れない悪路走破性を備えていることはあまり広く知られていないことかもしれませんね。
ハイブリッド車に搭載される「E-Four」に加え、ガソリン車にはグレードに応じて「ダイナミックトルクコントロール4WD」と「ダイナミックトルクベクタリングAWD」の2種類が用意されるなど、同一の車種で合計3種類もの四輪駆動システムが用意される点もRAV4の注目ポイントではありますが、その中でも注目したいのは「ダイナミックトルクベクタリングAWD」。
こちらはなんと、走行状況に応じて前後だけでなく後輪左右のトルク配分まで自動制御するという高度な四輪駆動システムで、コーナリング時には外側の後輪に駆動力を最大50%まで配分できることから、高速コーナーもグイグイ曲がれる四駆となっています。
また、プロペラシャフト前後に備えたディスコネクト機構によって、二輪駆動走行時には重たいプロペラシャフトを回転させず、動力損失を大幅低減させるという世界初の機構も搭載。これによっていざというときの四輪駆動による安定性と、普段の二輪駆動による優れた燃費性能を両立しています。
トヨタ RAV4のスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,610mm×1,865mm×1,690mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,690mm | |
最大乗車定員 | 5名 | |
車両重量 | 1,630kg | |
燃費 | WLTCモード:15.2km/L | |
エンジン種類 | 直列4気筒ガソリン 1,986cc | |
エンジン最高出力 | 126kW(171PS)/6,600rpm | |
エンジン最大トルク | 207N・m(21.1kgf・m)/4,800rpm | |
駆動方式 | ダイナミックトルクベクタリングAWD | |
トランスミッション | CVT | |
新車価格 | 3,009,091円(消費税抜) |
まとめ
日産 ノート e-POWER 4WD
四駆の歴史とその種類、おすすめ車についてご紹介してきました。
SUVブームで注目度の上がっている四輪駆動ですが、実はここまで様々な車種に四輪駆動が設定されている日本市場は世界的にもなかなか珍しいようで、ヨーロッパなどでは近年SUVルックなのに二輪駆動しかラインナップしない車種も増えてきているなど、気候や文化の違いを感じさせます。
使い方に応じて様々な種類、価格帯の四駆が数多く揃っていることは、日本に住む我々の隠れたメリットなのかもしれません。