霊柩車とは
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霊柩車とは、亡くなった方の遺体を葬儀の会場などから火葬場まで運ぶ際に使用される自動車です。通常は専用車両となってその他の用途で使用されることはなく、特殊用途車両に分類されます。
日本においては比較的広く知られている専門車両ですので、多くの方が一度は目にしたことがあるでしょう。とはいえある程度イメージすることはできても、具体的にどんな車なのかはわからないという方も多いようです。いわば、霊柩車は身近なようであまり知られていない自動車であると言えるでしょう。
ここではまず、霊柩車の役割やルーツなどについてご紹介します。
■霊柩車の役割
前述の通り、霊柩車は遺体を火葬場などへと運ぶための専用車両です。用途が限定されていることから、専用の装備が備えられています。車体の後部には棺専用のレールやストッパーなどが備えられており、通常の乗用車とはまったく異なっています。
霊柩車と近い役割を担う自動車として寝台車が挙げられ、こちらも同様に遺体を運ぶという役割を担っています。しかし、霊柩車が葬儀会場から火葬場などへと運ぶことを目的としているのに対して、寝台車は病院などの亡くなった場所から葬儀会場などの安置場所へと運ぶための車両です。
寝台車には棺ではなく、ストレッチャーや担架などを固定する設備が備え付けられています。
■霊柩車のルーツや歴史
霊柩車と言えば、日本においては多くの方が屋根付きで豪華な装飾などが施されたものをイメージするでしょう。近年では霊柩車にもさまざまなタイプのものがありますが、もっとも印象が強いのが屋根付きの「宮型霊柩車」でしょう。この霊柩車のルーツはかつて土葬が主流だった時代まで遡ります。
当時、人が亡くなると親族や地域の人達が遺体を輿に乗せて墓地へと運ぶのが一般的でした。この輿の形を模して、宮型霊柩車の原型になったと言われています。
自動車を利用した現在の霊柩車が日本で誕生したのは1917年のことと言われています。当時、大阪の葬儀社がアメリカですでに普及していた霊柩車を輸入し、これが関西を中心に拡大して全国に広がっていきました。
こうして霊柩車が普及することによって、それ以前に一般的だった葬列という風習はあまり見られなくなっています。
■海外の霊柩車
前述の通り、日本で霊柩車が普及する以前からアメリカではすでに霊柩車が存在していました。自動車が一般的になる以前から、欧米諸国では馬を利用した霊柩馬車の使用が一般的になっていました。そのため、自動車が普及するにつれて自然に霊柩車へとシフトして行ったと考えることができます。
現在でも、日本と同様に世界各国に霊柩車や同様の役割を担う専用の自動車が存在しています。そう考えると霊柩車は世界共通の文化であると言えるでしょう。
海外の霊柩車事情とは少し異なりますが日本の霊柩車は海外でも人気が高く、特に日本では減少傾向にある宮型霊柩車は「走る宮殿」と呼ばれており、注目を集めています。
霊柩車のいろんな知識
霊柩車ってどんな乗り物?
霊柩車の基本的な機能や役割は前述の通りですが、特殊な役割を担う車ですので、さまざまな迷信などがついて回るものです。
続いては迷信などをはじめとして、霊柩車に関するさまざまな知識についてご紹介します。
■霊柩車に関する迷信
霊柩車にはいくつかの迷信がありますが、中でも特に有名なのが「霊柩車を目にしたら親指を隠さなければならない」というものです。語られる理由については地域によって異なりますが、広く聞かれるのは親指を隠さなければ「親の死に目に会えなくなる」「親に不幸が訪れる」といったものです。
この迷信のルーツには諸説あり、単に親指を「親」とかけたものという説もありますが、近年有力視されているのは、「親指から魂が出入りすることから、人が亡くなってまだ成仏していない間は親指から侵入される恐れがあるので隠さなければならない」という江戸時代の伝承が変化したものであるという説です。
霊柩車に限らず、お葬式など人の生き死にに触れるシーンからはさまざまな迷信が生まれます。これはそれだけ人間が命を尊いものであると考え、同時に死を恐れていることのあらわれなのかもしれません。
■時代によって変化する霊柩車
昭和の頃までは宮型霊柩車が一般的でしたが、現在では洋型霊柩車が主流になりつつあります。これにはさまざまな理由がありますが、宗教観の多様化によって葬儀の形が変化したためであると言われています。宮型霊柩車は仏教や神道においてしか使用することができないことから、さまざまな形の見送りに対応できる洋型霊柩車が増えたと考えられます。
近年では、あまり霊柩車を目にしなくなったという方も多いのではないでしょうか。これは以前と比べて葬儀の規模が縮小傾向にあり、豪華な霊柩車が使われなくなったことが影響しているようです。
霊柩車も以前のような宮型霊柩車やリムジンタイプではなく、より目立たないミニバンタイプのものが人気を集めるようになりました。このタイプの霊柩車は一般車とほとんど見た目が変わらないことから、気付かれにくくなっています。このような理由から、霊柩車を目にする機会が減ったのでしょう。
■霊柩車の種類
現在では霊柩車にもさまざまな種類があります。すでにご紹介した宮型霊柩車をはじめとして、輸入車や国産車の大型セダンなどをベースとした洋型霊柩車、そしてミニバンなどの後部を改造したバン型霊柩車も増加傾向にあります。
小規模な葬儀で使用されることが多いのがバス型霊柩車です。その名の通りマイクロバスなどを改造して造られた霊柩車で、親族などの関係者全員が揃って火葬場まで移動することができます。複数台の車で連なって火葬場へと向かうことが難しい地域などでは、一般的となっています。
霊柩車の価格は?購入できる?
霊柩車っておいくら?
個人で霊柩車を購入する機会はほとんどないでしょう。それだけに霊柩車が販売されているのを見かけることはほとんどなく、どのくらいの価格なのかが気になるのではないでしょうか。
最後に霊柩車の価格や購入の方法などについてご紹介します。
■霊柩車のベース車両
霊柩車のベース車両はさまざまですが、近年主流になりつつある洋型霊柩車の場合は、リセダンなどの大型の一般乗用車がベースとなっているケースがほとんどです。
最初から霊柩車として設計されている自動車はほとんどなく、市販されている乗用車をベースとして改造しているケースがほとんどです。とはいえ葬儀社が独自に改造するのではなく、さまざまなメーカーの自動車をベースとして霊柩車を製造・販売する専門メーカーが存在します。
かつては宮型霊柩車などのように外観的にも大規模な改造を施すケースが多かったのに対して、近年では外観はそのままに内部のみの改造を行うバン型霊柩車なども増えています。そのため一目でベース車両が何なのかわかるうえに、一見しただけでは霊柩車には見えないタイプのものも増えています。
■霊柩車の価格
霊柩車の価格はベース車両や装飾などによって開きがありますが、一般的な洋型霊柩車の場合、1,000万円前後が相場だと言われています。装飾が効果な宮型霊柩車の場合、2,000万円を超えるケースもあります。
霊柩車は大量生産されるものではなくその多くが手作業によって仕上げられますので、ベース車両の価格から考えると少し割高になってしまうケースが多いようです。
内部の装備のみを改造するバン型霊柩車などの場合は外装にはそれほどコストはかかりませんので、もう少し価格も安くなります。
霊柩車が中古車として出回ることもありますが、それほど需要が高いわけではありませんので走行距離が少なくても400万円以下で購入できるケースもあります。
■霊柩車を個人で購入できる?
霊柩車は特別な用途の車両ではありますが、個人で購入することも可能です。ごく少数ではありますが、霊柩車を自家用車として使用している方もいるようです。しかし、霊柩車は一般の自動車ディーラーなどで購入できるものではありません。専門メーカーでの受注生産になりますので、購入を決めても納期がかなりかかるケースもあるようです。
中古車の場合、一般車両と同じように市場に出るケースがあります。この場合、普通の中古車と同じように購入することが可能です。中古車販売店などでもごくまれにではありますが、販売されていることがあります。
ただし、霊柩車は他の一般車両と比較すると台数は圧倒的に少なくなります。そのため、中古市場で好みの車両を探すのはかなり難しいと言えるでしょう。
■霊柩車の車両としての分類や車検の取り扱いは?
霊柩車の車両としての区分は特別用途車両で、緑ナンバーになります。つまり、貨物自動車などと同じ扱いになります。
霊柩車と一般貨物自動車との違いは、1台からでも緑ナンバーを取得できるという点です。一般貨物の場合は5台からしか緑ナンバーの取得ができません。
車検などの取り扱いについては、一般貨物などと同様になります。
めったにないケースですが、霊柩車を自家用車として使用する場合は当然緑ナンバーを取得することはできず、通常の白ナンバーになります。
霊柩車の装備のまま使用する場合は車両区分は貨物扱いになり、車検有効期間が乗用車よりも短くなるなど、注意が必要な点もあります。
まとめ
ロールスロイス ・ファントムの霊柩車
霊柩車を目にしたことはあっても、具体的にどんな車なのかは知らないという方は多いようです。確かに、日常的に霊柩車に触れる機会があるという方は多くないでしょう。
そこで今回は霊柩車のルーツや種類、そして価格などについてご紹介しました。個人で霊柩車を購入しようという方はそれほどいないかもしれませんが、知識として覚えておいてもいいかもしれませんね。