トヨタ MIRAIとは
≪写真提供:response≫トヨタ ミライ(海外仕様)
今、自動車業界は大きな分岐点に立たされています。長い自動車の歴史の中でさまざまな変化がありましたが、パワートレインにはほとんどのモデルでガソリンや軽油を燃料としたエンジンが採用されていました。
しかし、ガソリンなどの化石燃料には限りがあり、燃焼させることによる環境汚染なども大きな問題として取り上げられるようになりました。これまでにも何度も排ガス規制の強化などが行われ、車はどんどんクリーンな乗り物へと進化してきましたが、今後は化石燃料をそもそも使用しない車が求められるようになりました。
純ガソリンエンジン車の販売を2030年代など近い将来に禁止する動きも欧州などで活発化しており、自動車へよりクリーンな次世代パワートレインを搭載していくことは世界的に必至な流れとなっています。
そんな状況の中、注目されるのがガソリンエンジンに代わる新しいパワートレインです。多くの方が真っ先に思い浮かべるのがEVでしょう。すでに電気とガソリンの両方を使用して燃費性能を高めるハイブリッド車の普及は進んでおり、多くのモデルに導入されています。また、完全に電気のみで走行するEV車の普及もはじまっています。すでに日産 リーフなどは多くのユーザーに支持され、人気モデルの仲間入りを果たしました。
このように電気を使ったEV車がこれからの中心となると予測される中、トヨタはもうひとつの選択肢を出しました。それが水素燃料電池自動車です。その名の通り水素を使って走行する車であり、有害な排出ガスが出ず、同時にエネルギー効率が高いことからガソリン車に代わる選択肢として注目を集めています。
MIRAIはそんな水素燃料電池自動車としてはじめての量産車として誕生しました。そこで、まずは水素燃料電池自動車とは何なのか、そしてMIRAIとはどういったモデルなのかをご紹介します。
■水素燃料電池自動車とは?
燃料電池自動車とは、燃料電池によって水素と酸素の化学反応を発生させ、発電した電気エネルギーを使用して走行する車です。動力はモーターなので電気自動車の一種であるとも言えますが、一般的なEV車がバッテリーにチャージされた電気を使用することによって走行します。それに対して、水素燃料電池自動車は車の中で発電した電気を使用するという点が最大の違いです。
発電というと燃料を燃焼させるといったイメージが持たれがちですが、水素燃料電池自動車では前述の通り大気中にも存在する水素と酸素の化学反応によって発電を行うので、大気汚染の原因となるCO2などを一切排出することはありません。これが最大のメリットです。
またエネルギー効率が非常に良いこともあって、1度の水素充填で長距離の走行が可能です。EV車に搭載されているバッテリーの性能も高くなっていますが、1度の充電・充填で走行できる距離は水素燃料電池自動車の方が伸ばしやすくなっています。
さらに、駆動はモーターとなるのでガソリンエンジン車と比較すると騒音が少ないという点もポイントです。このように、多くのメリットを持つことからトヨタは水素燃料電池自動車の開発に力を入れているのです。
■MIRAIの魅力
MIRAIは2014年にトヨタが初めての水素燃料電池自動車として発売したモデルです。当時はまだまだ水素燃料電池自動車に対する理解が進んでいなかったこともあり、ヒットモデルとなったわけではありませんが、自動車ファンの間では文字通り「未来の車」として高い注目を集めました。
そんなMIRAIの魅力は単にこれからの時代に対応できるエコ性能の高さだけではありません。ガソリン車と同等か、それ以上の走行性能や快適性を実現しているという点です。特に2020年のフルモデルチェンジによって登場した2代目モデルはさらに改良が重ねられて魅力的な車に仕上がっています。
水素燃料電池自動車という点を除いても車としての完成度が非常に高く、環境車としてではなく純粋に車として「欲しくなる」モデルであると言えるでしょう。
■初代MIRAIと新型MIRAIの違い
MIRAIは2020年のフルモデルチェンジによってまったく別のモデルと言っていいほどに大きな変貌を遂げました。まず、目につくのはデザインです。初代モデルはあくまで環境対応車というイメージが強く、デザインはかなりクセがあるものでした。悪いデザインというわけではありませんが、多くのユーザーを惹きつけるだけの魅力があったとは言い難いです。
そもそも初代モデルは一般ユーザーというよりも、より素早く環境問題に取り組む必要がある官公庁や法人などがメインターゲットだったこともあり、他の車との違いが明確に打ち出されていました。
しかし、2代目MIRAIは明確に一般ユーザーにターゲットを広げています。レクサスLSなどと共通のGA-Lプラットフォームを採用してラグジュアリーでスポーティなセダンとなったことで車としての魅力が大幅に向上しています。簡単に言うと純粋に「かっこいい車」に仕上がっているのです。
もちろん、性能面も向上しています。初代モデルは1度の水素充填による航続距離は約650kmでしたが、2代目モデルでは約850kmとなり、実に1.3倍も伸びています。また、駆動用モーターの出力をアップしたのみでなく車体が軽量化したことによって走行性能もアップしました。
■高級車と呼べる名セダン
すでにご紹介した通り、新型MIRAIは高級車ともよべるラグジュアリーなセダンに仕上がっています。スタイルとしては世界的に高い人気を誇るカムリやレクサスLSに近いものとなっており、スポーティさと高級感を両立させています。外観のデザインのみでなく、内装にもしっかりとこだわっており、使われているパーツの一つひとつの質感も高められています。
近年ではセダンの市場規模は縮小傾向にはありますが、あらためてセダンの素晴らしさを思い出させてくれるモデルであると言えます。
水素燃料電池自動車の実用性
≪写真提供:response≫トヨタ ミライ(海外仕様)
MIRAIの購入を検討する上で気になるのはやはり水素燃料電池自動車の実用性でしょう。どんなに魅力的なモデルであったとしても、水素燃料電池自動車のそのものの実用性がなければ意味がありません。
そこで、ここではさまざまな角度から水素燃料電池自動車の実用性についてご紹介します。
■水素ステーションはどこにある?
水素燃料電池自動車は、水素ステーションで水素を充填しなければ走行することができません。そこで、気になるのが水素ステーションがどこにあるのかという点です。2021年5月時点で水素ステーションは全国142カ所にあります。
現状では決して多いとは言えず、首都圏などの都市部に集中しているので、地域によってはほとんど水素ステーションを見つけることができないというケースもあるでしょう。
この水素ステーションの少なさが水素燃料電池自動車の最大のネックとなっています。そのため、MIRAIの購入を検討しているのであれば生活圏内に水素ステーションがあるのかを確認することが重要です。
ただ、水素ステーションの整備は現在も進められているので、今後増えていくことになります。なので、もう少し水素ステーションが普及するのを待って購入するのもひとつの選択肢です。
■水素燃料電池自動車の燃費
水素の値段や燃費も気になるポイントです。水素の価格は現在1kgで1,000〜1,100円ほどとなっています。走行状況によっても変わりますが1kgあたりで約100kmほどの走行が可能です。
純ガソリン車の燃費は10〜15km/L前後が一般的なので、コストはほぼ同等であると考えていいでしょう。
■水素燃料電池自動車の走行性能
水素燃料電池自動車は車内で発電するという仕組みを持っているものの、駆動はモーターなので走行性能はEV車と同等であると考えていいでしょう。モーター駆動ならではの優れたレスポンスは、ガソリン車とは違う世界を感じさせます。
■水素燃料電池自動車が普及するには
水素燃料電池自動車が普及する上でもっとも重要となるのはやはり車両の低価格化と水素ステーションの整備でしょう。詳しくは後述しますが、MIRAIの価格は同クラスのガソリン車と比較するとかなり割高感があります。
また、水素ステーションがなければ日常の足としては使用できません。価格の面に関しては普及が進み大量に生産されるようになれば1台あたりのコストも下がるので低価格化は十分に可能です。
■水素燃料電池自動車の補助金
環境対応車は購入時に国や自治体からの補助金が出るようになっています。初代MIRAIの場合、最大で300万円の補助金が出るケースもあり注目を集めました。
しかし、現在では国からの補助金が減額されており、最大でも100万円ほどになっています。自治体の補助金も以前よりも減少しており東京都の場合は50万円ほどとなっています。
減額されたとはいえ、100万円以上の補助金が出るのは嬉しいポイントです。
MIRAIの価格は?
≪写真提供:response≫トヨタ ミライ
最後にMIRAIの新車価格や中古車市場価格などについてご紹介します。購入を検討している方は参考にしてみてください。
■MIRAIの新車価格
MIRAIには複数のグレードが用意されており、もっとも安価なベースグレードにあたる「G」は6,454,545円(税抜)です。上位グレードの「Z」は7,181,818円(税抜)となっています。最上位にあたる「Z“Executive Package Advanced Drive”」は7,818,182円(税抜)です。
水素燃料電池自動車の場合、ライバルがいないこともあって価格に関しては判断が難しいところですが、やはり同クラスのセダンと比較すると割高感を感じてしまいます。ベースグレードでも税込みでは700万円を超えますので決して安い車とは言えません。
■MIRAIの中古車市場価格
MIRAIは初代モデルを含めても販売台数が少ないこともあって中古車市場でもめったに目にする機会はありません。そのため相場を出すのは難しいですが、もともとの価格が高価なこともあって初期のモデルでも100万円〜200万円以上が中心となっています。
新車価格と比較するとお買い得感はありますが、選択肢があまりにも少ないため現実的とは言えません。
まとめ
≪写真提供:response≫トヨタ ミライ
今回はトヨタの水素燃料電池自動車であるMIRAIについてご紹介しました。EV車ではないこれからの車の選択肢のひとつとして注目を集めており、特に2020年に発売した新型は非常に魅力的なモデルに仕上がっています。
とはいえ、水素燃料電池自動車にはまだまだ課題も少なくありませんので今回ご紹介したポイントを頭に入れた上で検討してみてください。