トヨタ ウィッシュって、どんなクルマ?
《写真提供:response》トヨタ・ウィッシュ 1.8S モノトーン
トヨタ ウィッシュは、トヨタ自動車が2003年から2017年まで、生産・販売していた3列シートミニバンです。走りやすさと使いやすさを追求し、発売開始の2003年には15万8,658台を販売し、大ヒットとなりました。その後、初代モデルはマイナーチェンジを1度おこなった後、2009年にフルモデルチェンジ。再び販売台数を伸ばしましたが、2012年のマイナーチェンジを経て、2017年に生産・販売を終了しています。
ウィッシュの魅力をまとめると、「5ナンバーサイズで車高の低い、低床・低重心ミニバン」ということになるかもしれません。ウィッシュが発売された当時、背の低い、低床・低重心ミニバンはたいへん人気がありました。後述しますが、ホンダ ストリームが2000年10月に、5ナンバーサイズの低床・低重心ミニバンとして登場し、人気をけん引。このコンセプトを追いかける形で2003年に発売されたのがトヨタ ウィッシュでした。ですからウィッシュは、生まれたときからストリームがライバルであり、低床・低重心ミニバンの魅力を追求したクルマということになります。
低床・低重心ミニバンは、どうしてそんなに人気だったのでしょうか。当然、たくさんのメリットがあるからです。それで、トヨタ ウィッシュの魅力をまとめる前に、ミニバンを低床・低重心にすることで得られるメリットを取り上げたいと思います。
●ミニバンを低床・低重心にすることで得られるメリット
■走行やコーナリングが安定する
《写真提供:response》original【ブリヂストン レグノGRV】コーナーでも直線でもピタッと決まる
コーナリングでは通常、背の高いクルマほど不利!
ミニバンを低床・低重心にするメリットのひとつは、コーナリングが安定することです。車高を低くするとともに、低床化させると、クルマ全体の重心位置が下がります。これが、コーナリングを安定させるポイントです。
コーナリングの際、クルマはロールして外側のサスペンションを大きく沈め、外側タイヤに大きな荷重をかけます。反対に、内側タイヤは浮き気味になり、グリップ力が低下します。このとき、重心位置が高いクルマほど内側タイヤが浮き気味になりやすく、重心が低いクルマほど内側タイヤの接地が有利でグリップ力が高いため、コーナリングが安定するのです。
たしかに、スポーツカーやレーシングカーの世界では、背の高いクルマを見ませんよね。コーナリングでの安定性を求めて、コース一周の平均車高を下げることが大きな目標になっています。
■乗り心地がよくなる
《写真提供:response》オリジナルブランドVacanza(ヴァカンツァ)の車高調キット「ZERO-WAGON」
ミニバンを低床にすると、乗り心地もよくなります。前述のとおり、クルマ全体の重心が下がると、ハンドル操作で生じる左右のふらつきを減らせて、走行そのものが安定します。そうすると、サスペンションを硬めに設定する必要がなくなります。これが重要で、硬いサスペンションはコーナーでクルマを安定させるのですが、乗り心地を悪くさせる要因にもなるのです。
というわけで、低床・低重心ミニバンでは、乗り心地を重視したやわらかめのサスペンション設定が可能になり、快適なドライブにつながるというわけです。
■広い室内空間につながる
《写真提供:response》reproducible【トヨタ ウィッシュ 新型】180cm+・90kg+チェック…2列目&3列目
背の高いクルマ(=車高の高いクルマ)は「走りが不利」ですが、背の低いクルマは「室内空間が不利」です。単純に考えても、天井が低くなれば、それだけ圧迫感が増し、快適な長距離ドライブは難しいでしょう。
しかし、これらの問題を一気に解決するのが、低床・低重心ミニバンです。上に余裕を生み出すのが難しいのであれば、下に余裕を生み出せばいいというわけです。それで、低床・低重心ミニバンは、車高の割に広い室内空間をもち、ミニバンならではのゆったりとした空間を削ることなく、セダン並みの走りの良さをもっています。
■クルマへの乗り込みがしやすくなる
《写真提供:response》ホンダ、新型オデッセイを発表 乗り降りのしやすさが魅力!
ミニバンを低床化すると、クルマに乗り込む際の段差が小さくなり、乗り降りがしやすくなります。
ミニバンの利用が多いのは、おそらくファミリーでしょう。さまざまな年齢層の方が乗り降りすると思いますが、子どもやお年寄りには、段差が大きいクルマは意外と乗りにくいものです。段差が大きいと、乗るのに難しく、降りるのに危険なもの。その点、低床ミニバンであれば、ステップがなくてもそのまま安全に乗り降りできます。足元の自由が利きにくい服装でも、問題ありません。
また、低床のメリットとして、重たい荷物を載せやすいということもあげられます。重い荷物は、トランク位置まで持ち上げる動作がたいへんですが、低床ミニバンであれば、持ち上げる高さは低くくてすみ、女性でも積み下ろししやすいでしょう。
■都会的でスタイリッシュなフォルム
《写真提供:response》original【トヨタ ウィッシュ 新型発表】写真蔵…スタイリッシュなエクステリア
低床・低重心のプラットフォームで作られたミニバンは、基本的にスポーティなフォルムです。とくに、ウィッシュやストリームといった背の低いミニバンであれば、よりスタイリッシュ。クルマのサイズ感や運転感覚も、セダンと大きな違いがなく、乗り換えでも違和感が少ないでしょう。
この都会的なスタイルは、低床・低重心ミニバンの真骨頂といえます。着座位置は、ウィッシュが発売された当時に販売されていたセダンとほぼ同等の高さに抑えられており、セダンを乗り続けてきた人たちがミニバンの分野に足を踏み入れる機会を作り出しました。
初代ウィッシュの全体的な特徴
《写真提供:response》original【トヨタ『ウィッシュ』発表】目指したのは“気軽さ”…対『ストリーム』
初代ウィッシュが登場したのは2003年でした。当時は、さまざまなタイプのミニバンが誕生し、そのバリエーションを広げていた時代。その中で、とくに人気を博していたのがホンダ ストリームでした。2000年に登場した初代ストリームは、低床・低重心で、セダン並みのスポーティな走行性能と精錬されたスタイルをもち、「2000-2001 日本カー・オブ・ザ・イヤー」も受賞しています。
トヨタはこれに対抗するべく、低床・低重心のミニバンを開発します。これが初代ウィッシュでした。ボディサイズは、FFモデルが「全長4,550mm・全幅1,695mm・全高1,590mm」で、全長・全幅・全高がすべてストリームと全く同じになっており、強く意識して作られたことを感じさせます。ウィッシュは、その誕生時からストリームがライバルだったわけです。
ウィッシュのコンセプトは、「WISH COMES TRUE」で、スポーティかつユーティリティあふれるミニバンを目指しました。モノフォルムを強調したシルエットと、サイドからリヤへと続くウィンドウグラフィックが流麗で、シンプルな中にも躍動感が強調されています。リヤドアはヒンジ式ですが、2列目・3列目シートへの乗降にストレスをかけないよう工夫がなされています。
2003年1月の発売開始時のグレード体系は、FF駆動の「X Eパッケージ」、「X」、「X Sパッケージ」と、4WDの「X」、「X Sパッケージ」の全5種類で、排気量は1800ccでした。その後、2003年4月に排気量が2000ccの「G」と「Z」のグレードが追加されます。整理すると、全体ラインナップとしては、「X」、「G」、「Z」の3タイプ。ただし、「X」グレードには、エアロバンパーや本革巻きステアリングなどがセットになった「Sパッケージ」と、厳選装備の「Eパッケージ」の選択肢。さらに、FFと4WDの選択肢も加わります。なお、「G」と「Z」のグレードについては、FF駆動のみとなります。
インターネット自動車販売のカービューが発表した、2003年の年間人気車ランキングでは、トヨタ ウィッシュがトップを飾り、装備や価格が高く評価されたことがわかります。販売台数でも、月間ベースで2003年2月から11カ月連続でトップ3を維持しました。
2代目ウィッシュの全体的な特徴
《写真提供:response》トヨタ ウィッシュ 1.8A
2009年4月に、ウィッシュは2代目へとフルモデルチェンジしました。今回のコンセプトは、「スマートマルチプレイヤーWISH」で、エンジンには1.8リッターと2.0リッターの2機種を用意。どちらのエンジンも、トヨタが開発したバルブマチック仕様で、効率よくエンジンパワーを生み出し、低燃費と高出力を両立させるものでした。トランスミッションには、滑らかな走りを実現するCVTが組み合わされています。マニュアル感覚での操作も楽しめる7速スポーツシーケンシャルシフトマチックを全車に標準装備。また、「1.8S」と「2.0Z」のグレードでは、パドルシフトを採用して、ステアリングを握ったままでもシフトアップやシフトダウンの操作を可能にし、運転の楽しさを体感できます。
2009年4月の発表時のグレード体系は、ベーシックな仕様の「1.8X」と、エアロ仕様で大径ホイールを配して3ナンバーワイドのスポーツグレードとなる「1.8S」、オプティトロンメーター(自発光メーター)などの快適装備を搭載した上級グレードの「2.0G」と、オーバーフェンダーやリアダブルウィッシュボーン式サスペンションを装着したモデルで最上位グレードの「2.0Z」が用意されました。このうち、「2.0Z」グレードのみ、2列目がキャプテンシートとなる6人乗り仕様で、そのほかは前列から「2・3・2」となる7人乗りです。
いまトヨタ ウィッシュはおすすめな理由!
■背の低い、低床・低重心ミニバンが少なくなった
《写真提供:response》ホンダ・オデッセイ アブソルート 20th アニバーサリー
飛ぶ鳥を落とす勢いだった、背の低いミニバンですが、時代の流れとともに次第に人気を失っていきます。そして見渡すと、今ではこのタイプのクルマが、ほとんど見当たらなくなりました。ウィッシュのライバルだった、ホンダ ストリームはウィッシュより一足早く、2014年5月に生産が終了。その後、2017年にウィッシュも生産を終了しました。
今年に入ってからは、ウィッシュと似たコンセプトをもつプリウスα(アルファ)が、2021年3月に生産を終了し、つい先日、一時代を築いたホンダ オデッセイも、『狭山工場の完成車ライン閉鎖に伴い、2021年内に生産が終了する予定である』との発表がありました。
とはいえ、クルマの保管場所や道路事情から、保有するクルマのサイズに制限を受けるユーザーが比較的多い日本の自動車市場において、背の低いミニバンは、優れたパッケージングのクルマですし、「このタイプの車でなければ」というユーザーも一定数いると思われます。
いまでは新車で見つけることが難しくなった「背の低いミニバン」も、中古車市場ではまだまだ豊富にあり、そのひとつとしてウィッシュは有望な選択肢です。
■コストパフォーマンスがいい!

《写真提供:ACイラスト》やっぱりお手頃価格は魅力的ですよね?
2021年6月現在、トヨタ ウィッシュをresponse中古車価格で確認すると、市場には1,000台ほど登録があり、中古車本体価格は税抜:8万円~税抜:161万8,182円となっています。平均価格は、税抜:57万2,000円前後。同様の方法で、ホンダ ストリームを調べると500台ほどですので、ウィッシュは選択肢がそこそこ豊富であるとわかるでしょう。選択肢が多ければ、それだけ掘り出し物が見つかりやすいはずです。
しかも、生産・販売が終了した2017年の年式(=ウィッシュの中で、もっとも新しい年式)でも、中古車本体価格が税抜:100万円~107万2,000円前後で見つけられます。軽自動車の中古車でも100万円を超えるクルマがざらにあると考えると、3列シートミニバンがこの価格で購入できるのは魅力的かもしれませんね。
■万人受けするデザイン
《写真提供:response》トヨタ ウィッシュ 1.8S モノトーン
ウィッシュのデザインは、クセのないスタイリッシュさがポイントです。悪く言えば、個性がないデザインですが、裏を返せば万人受けするデザイン、落ち着いたデザインともいえます。
個性的なデザインは鮮烈な印象を与えますが、時が経過するとそれだけ古さを感じさせることも少なくありません。その点、ウィッシュのデザインであれば、時間が経過してもそこまで古さを感じさせず、長く乗っていけると考えられます。
まとめ
《写真提供:response》トヨタ ウィッシュ 2.0Z
今回は、トヨタ ウィッシュについて、まとめてみました。販売が終了してからおよそ4年が経ちますが、中古車市場ではコストパフォーマンスに優れ、かつ程度のいいクルマを見つけやすくなっている印象です。お手頃なミニバンをお探しであれば、選択肢のひとつに加えてみるのはいかがでしょうか。