DOHCとは?
ホンダ CR-V新型
DOHCは(Double OverHead Camshaft)の頭文字で、ピストン式のレシプロエンジンで採用されている機構のひとつです。自動車などに採用されているレシプロエンジンの仕組みですが、最初に吸気弁を通して燃料と空気の混合気を燃焼室内に散布します。
弁が閉じてからピストンによって混合気が圧縮され、燃料に点火されて燃焼します。燃焼した後の排気ガスは、排気弁を通して排出されます。吸気弁と排気弁は燃焼タイミングに合わせて開閉させる必要があり、回転するカムシャフトを使って弁の開閉を制御させます。
DOHCエンジンは、吸気弁と排気弁が別々のカムシャフトによって開閉される機構を持っています。DOHCは吸気と排気でそれぞれ独立した2つのカムシャフトで弁を開閉することでカムシャフトの負担を軽減させることができ、回転数に応じて弁の開閉タイミングを制御する可変バルブタイミング機構と組み合わせやすいというメリットがあります。
可変バルブタイミング機構によって、低回転時と高回転時で吸排気弁の開閉タイミングを変えることで燃焼効率を高めることができ、高速運転時の燃費性能の向上に寄与します。DOHC機構により、ガソリンエンジンの高回転・高出化が可能になりました。
DOHCエンジンはSOHCエンジンとはどうちがうの?
マツダ CX-8
吸排気弁の開閉を1つのカムシャフトで同時に行うエンジンのことを“SOHCエンジン”と呼び、DOHCと比較すると全体の構造が単純で部品点数が少なくなります。
SOHCエンジンはカムシャフトが1本で済みますが、吸排気弁の開閉タイミングをコントロールするために複雑なロッカーアーム機構が必要になるというデメリットがあります。
これに加えてSOHCエンジンは弁の数・サイズや位置の自由度が低く、燃費性能を向上しにくいという問題もありました。DOHCエンジンは弁のサイズを大きくしたり数を増やしやすいことから、多くの混合気を吸い込むのに有利です。
DOHCエンジンは、吸排気のタイミングを容易に調整することができます。弁の開閉をコントロールしている2本のカムシャフトはモーターや油圧などで別々に駆動させることができるので、回転数に応じて最も適したタイミングで弁の開閉が可能です。
SOHCエンジンは1本のカムシャフトで吸排気弁の両方を制御するので、これらを独立に制御しにくくなります。SOHCエンジンはカムシャフトが1本だけなので、エンジン内の摩擦抵抗を小さくすることができます。
■DOHCエンジンのメリット・デメリット
DOHCエンジンはSOHCエンジンの抱える問題点を改善するために開発されたもので、メリットとデメリットがあります。DOHCエンジンのメリットは、高回転・高出力に向いていることです。
特にガソリンエンジンは回転数が高いので、高回転時に出力や燃費性能を向上させるのに有利です。逆にデメリットですが、弁の開閉を制御するカムシャフトが2本になることで構造が複雑になることです。
部品点数が増えるのでエンジンの重量が増加し、小型化・軽量化には不向きです。構造が複雑になることで、エンジンの価格が高くなるというデメリットもあります。 SOHCとDOHCエンジンには異なるメリットとデメリットがあるので、どちらを採用するかは自動車メーカーごとに分かれます。
トヨタはDOHCエンジンを多く採用していますが、近年になって摩擦抵抗の小さなSOHCエンジンに力を入れるようになった自動車メーカーもあります。
他にはどんな種類のエンジンがある?
ホンダ 2.0直噴エンジン
現在発売されている自動車のエンジンはDOHCエンジンが主流ですが、「SV」や「OHV」などもあります。
それぞれの特徴について見ていきましょう。
■SV(サイドバルブ)エンジン
日本語では「側弁式(そくべんしき)」、他にも「フラットヘッドエンジン」とも呼ばれます。
ガソリンエンジン黎明期に多く見られた方式で、構造が至ってシンプルなのが特徴です。
低オクタン価のガソリンでも動く、エンジン自体が小型であるというメリットもありますが、後述のOHVエンジンや、現在主流のDOHCエンジンと比べて燃費はよくありません。
■OHV(オーバーヘッドバルブ)エンジン
SV(サイドバルブ)エンジンよりも新しい時代のエンジンで、「プッシュロッドエンジン」とも呼ばれます。
排気弁をシリンダーヘッド上に備えている為、日本語では「頭上弁式」と呼ばれます。
DOHCエンジンと異なり、カムシャフトはシリンダーヘッドではなくシリンダーブロック側に位置しているという違いがあります。SV(サイドバルブ)エンジンと比べて燃費性能が向上しているが、現在のDOHCエンジンには劣ります。
DOHCエンジンの歴史
ホンダ フィットプロトタイプ
DOHCエンジンは、20世紀初頭にスポーツカー向けの高性能エンジンとして開発されました。第二次世界大戦後にレーシングカーや一部の高級スポーツカーにDOHCエンジンが採用されていましたが、機構が複雑であることから一部の特殊な自動車にしか使用されませんでした。
一般向けの自動車にはSOHCエンジンやOHVエンジンが先に実用化され、これらは1960年代の乗用車に多く採用されていました。
1980年代に低燃費・高出力化のためにトヨタ自動車が普及型のDOHCエンジンの開発に成功すると、1980年代後半頃からほとんどの乗用車にDOHCエンジンが標準的に用いられるようになりました。現在は、軽自動車・バイク・ディーゼルエンジンにもDOHCが採用されています。
DOHCエンジンを搭載した代表的な車種
ホンダ シビックタイプR
現在はほとんどのガソリンエンジン車がDOHCエンジンを搭載していますが、実際にこのエンジンを搭載した代表的な車種をいくつかご紹介します。
■1. ホンダS800
ホンダ S800
1960年代頃は、DOHCエンジンは一部のスポーツカーにしか採用されていませんでした。
ホンダSシリーズは初代S500・2代目S600・3代目のS800と全車DOHCエンジンとなっています。
1966年に発売されたホンダS800は当時としては珍しいDOHCエンジンを搭載した小型スポーツカーで、791ccの水冷直列4気筒エンジンを搭載していました。
エンジンの最高出力は70馬力(8,000rpm)で、最高速度は時速160kmに達しました。搭載する小型エンジンは8,000rpmもの高回転に対応しており、当時としては高性能を誇るスポーツカーといえます。
■2. ホンダNSX
ホンダ NSX
ホンダ・NSXは、1990年から2005年にかけて販売されていた2シータースポーツカーです。
初期型のNSXは3LV6気筒DOHCミッドシップエンジンを搭載しており、国産市販車トップクラスの走行性能を誇りました。
3Lエンジンの最高出力は280馬力で、発売当時のポルシェ 911を超える高出力でした。ちなみにNSXは2016年にハイブリッド化されて再登場し、搭載する3.5L直噴DOHCエンジンとモーター出力の合計は581馬力に達します。
■3. スバルWRX STI
スバル WRX STI
搭載するエンジンの最高出力は308PSに達し、トランスミッションは6速MTのみでAT車が存在しません。
AT限定免許ではWRX STIの運転ができませんが、自由自在に車を操ることのできるMT車の走りを思う存分楽しめます。
まとめ
スバル WRX STI
DOHCエンジンは構造が複雑だったので1980年代後半になるまで普及しませんでしたが、優れた性能により現在はほとんどの自動車に採用されています。
ただし一部の車種ではSOHCエンジンや直噴エンジンが使用されているので、自動車を購入する時は排気量だけはでなくてエンジンの機構にも注目してみると良いでしょう。