まずは「ワンボックスカー」の定義をおさらいしましょう
トヨタ ハイエース
ワンボックスカーという車両形状の分類は、実は日本独特なものであることはご存知でしたか。
海外でもワンボックスと呼べそうな車は存在するのですが、呼び方としてはワンボックスとは呼ばないそうです。
ワンボックスカーとは、文字通り考えれば「一つの箱」の形をした車のことですが、諸説ありますが、厳密にはキャブオーバー型車のことを示す場合が多そうです。
キャブオーバー型とは、キャビンをエンジン上部(オーバー)に設置した車のことで、つまり運転席の下にエンジンを持つ車のこと。
そのため、一般的なミニバンなどのようにノーズ部にエンジンを設置した車は、厳密にはワンボックスカーに含めないのが主流です。
近年では国内でも衝突安全基準が厳しくなってきている影響から、衝突時に衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンを車両前方に設置する必要があり、ワンボックスカーでも鼻先に短いボンネットを持つものが増えてきていますが、それでもエンジンが運転席下に設置されている点は変わりません。
トヨタ グランエース
ワンボックスカーの代表的車種である「ハイエース」と、ノーズ部にエンジンを設置したミニバン「グランエース」を見比べると、ミニバンに比べてワンボックスカーは横から見た時に鼻先が短いことが見て取れますよね。
この鼻先の短さは、全長を伸ばさなくても室内空間や荷室空間を拡大できることになるので、ワンボックスカーは商用バンやミニバンに多く採用されてきたスペース効率に優れた形式です。
また、運転席がエンジン上部の高い位置に設置されることも特徴的な部分で、車両前端が把握しやすく取り回し性が優れていることもポイント。
これらの優れた特徴があってこそ、日本のビジネスを長年支えてきたワンボックスカー。現在では段々とラインナップが減ってきてはいますが、それでも各車種の魅力は大きく、お仕事用だけに使うのはもったいないので自家用車として利用するユーザーも数多く存在します。
現行のワンボックスカーについて、車種ごとにより詳しく見ていきましょう。
現行ワンボックスカーまとめ!意外と選択肢は少なめです
■【普通車】トヨタ ハイエース:定番ワンボックスは耐久性抜群!
トヨタ ハイエース
もはや日本になくてはならない存在であろうワンボックスカーが、トヨタ ハイエースでしょう。
積載能力に優れたバン、10人が快適に移動できるワゴン、幼稚園の送迎でおなじみの幼児バスなど、さまざまなグレードが用意されたハイエースは、あらゆる職種で活躍するワンボックスカーとなっています。
トヨタ ハイエース ファインテックツアラー インテリア
もちろん、ワンボックスならではの広々としたキャビンはどんな用途でも受け入れる懐の広さが特徴的。
ワゴンやより上質な特装車「ファンテックツアラー」などでは多人数がいっぺんに移動できますし、バンであっても乗員は余裕たっぷり。
リヤシート通常時荷室長でも1,855mmを確保するなど、並のミニバンでは太刀打ちできない人も荷物もガンガン運べるユーティリティ性の高さは、ワンボックスならではの魅力ですね。
トヨタ ハイエース ワゴン グランドキャビン
エンジンでは、ワゴンで選択可能な2.7リッターと2.0リッターの直列4気筒ガソリンに加え、バンでは2.8リッター 直列4気筒ディーゼルターボも選べるなど、求める性能に応じた幅広い選択肢が嬉しいところ。
ビジネス用途として酷使されることを想定して開発されていることもあり、重い荷物を繰り返し運んだり走行距離がかさんだりしても日常メンテナンスだけで済んでしまう耐久性の高さもハイエースの魅力です。
トヨタ ハイエース バン スーパーGL 2WD 標準ボディの荷室寸法
荷室長 | 3,000mm |
リヤシート通常時荷室長 | 1,855mm |
リヤシート前方スライド時荷室長 | 1,975mm |
リヤシート折りたたみ時荷室長 | 2,470mm |
荷室高 | 1,320mm |
荷室幅 | 1,520mm |
トヨタ ハイエースのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 5,380mm×1,880mm×2,285mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 3,110mm | |
最大乗車定員 | 10名 | |
車両重量 | 2,040kg | |
燃費 | WLTCモード:8.8km/L | |
エンジン種類 | 直列4気筒 2,693cc | |
エンジン最高出力 | 118kW(160PS)/5,200rpm | |
エンジン最大トルク | 243N・m(24.8kgf・m)/4,000rpm | |
駆動方式 | 後輪駆動(フロントMR) | |
トランスミッション | 6速AT | |
新車価格 | 3,349,091円(消費税抜き) |
■【普通車】日産 NV350キャラバン:見た目にこだわり、隠れた実力派
日産 NV350キャラバン アーバンクロム
1967年デビューのハイエースには遅れをとりますますが、こちらも1973年デビューと歴史の深いワンボックスとなっているのがNV350キャラバン。
長年のハイエースとのライバル関係によって、両車のスペースユーティリティ性はもはや4ナンバーバンとして究極とも思えるものとなっていますが、NV350キャラバンは小型貨物車4ナンバーバンクラスでNo.1の荷室広さが自慢。
荷室長は3,050mmとハイエースを50mm上回り、荷室高も1,325mmでハイエースより5mm大きくなっているなど、血の滲むような改良の成果が見て取れます。
日産 NV350キャラバン 荷室
さらに、グッとワイドになったワイドボディ仕様を選べば、標準幅・標準ルーフ仕様比で荷室幅が185mm、荷室容量が3,000Lも増加するなど、ハイエース同様に求める容量に応じたサイズアップが可能な点もNV350キャラバンのポイントです。
また、NV350キャラバンで重視されているのが、カスタム仕様のラインナップ。専用のフロントプロテクターやアルミホイールの装着でかなりスポーティな印象の「アーバンクロム」や、日産のミニバンでもお馴染みのビレットグリルが煌めく「ライダー」など、お好みの仕様を追求できます。
日産 NV350キャラバン アーバンクロム
2.0リッターと2.5リッターの直列4気筒ガソリンと、2.5リッターの直列4気筒ディーゼルターボエンジンのラインナップとなるNV350キャラバンは、ガソリンエンジンではハイエースに出力とトルクでやや負けていますが、ディーゼルエンジンでは排気量のハンデを跳ね返してトルク値で上回るなど、ワンボックスカーに求められる性能として不足はないことでしょう。
ハイエースの一人勝ちでは技術の進化も止まってしまうでしょうから、これからも良きライバルとしてNV350キャラバンには末長く競合してほしいところですね。
日産 NV350キャラバン バン プレミアムGX 5人乗の荷室寸法
荷室長 | 3,050mm |
荷室高 | 1,325mm |
荷室幅 | 1,520mm |
日産 キャラバンのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 5,230m×1,880mm×2,285mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,940mm | |
最大乗車定員 | 14名 | |
車両重量 | 2,240kg | |
燃費 | JC08モード:8.0km/L | |
エンジン種類 | 直列4気筒 2,488cc | |
エンジン最高出力 | 108kW(147PS)/5,600rpm | |
エンジン最大トルク | 213N・m(21.7kgf・m)/4,400rpm | |
駆動方式 | 四輪駆動(4WD) | |
トランスミッション | 5速AT | |
新車価格 | 3,110,000円(消費税抜き) |
■【普通車】トヨタ タウンエース バン:小回りの効く小型ボディ
トヨタ タウンエースバン
これまでご紹介したハイエースとNV350キャラバンと異なり、タイヤをボディ前端に移動させているのが特徴的なタウンエースバン。
短めとはいえノーズがしっかりついていることもあり、もしやフロントエンジンか?!と思いそうですが、エンジンが前席下に設置されたセミキャブオーバーと呼ばれる形式で、れっきとしたワンボックスの仲間なのです。
トヨタ タウンエースバン
同クラスの車には、こちらもトヨタと日産のライバル関係となる日産 NV200バネットがあるのですが、NV200バネットはフロントにエンジンを配置した前輪駆動方式のため、本記事ではワンボックスカーに含めていません。
タウンエースバンがこれまでご紹介したハイエースたちとは異なる部分としては、乗用モデルがラインナップされていないという違いもあるのですが、ハイエースクラスでは大きすぎて持て余したり、狭い道を通り抜ける必要があるユーザーに重宝されるコンパクトサイズで、バン市場で人気を博しています。
トヨタ タウンエースバン
もちろん、ノーズを備えるとはいえエンジンをシート下に設置したワンボックスカーですので、2人乗り時の荷室長は2,045mmと余裕たっぷり。コンパクトサイズからは想像できないほどの使い勝手の良さは、ビジネス用途だけではなく、車中泊などに利用しても重宝しそうですね。
新たに衝突回避支援システム「スマートアシスト」が全車で標準装備となるなど、コンパクトで廉価なビジネスカーとはいえ安全性能もしっかり確保されたタウンエースバンは、これからも都市部でキビキビ活躍してくれることでしょう。
トヨタ タウンエースバンの荷室寸法
荷室長 | 2,045mm |
リヤシート通常時荷室長 | 1,255mm |
荷室高 | 1,305mm(2名乗車時) |
荷室幅 | 1,495mm |
トヨタ タウンエース バンのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,065mm×1,665mm×1,930mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,650mm | |
最大乗車定員 | 5名 | |
車両重量 | 1,270kg | |
燃費 | WLTCモード:12.0km/L | |
エンジン種類 | 直列4気筒 1,496cc | |
エンジン最高出力 | 71kW(97PS)/6,000rpm | |
エンジン最大トルク | 134N・m(13.7kgf・m)/4,400rpm | |
駆動方式 | 後輪駆動(フロントMR) | |
トランスミッション | 4速AT | |
新車価格 | 1,876,364円(消費税抜き) |
■【軽自動車】ダイハツ ハイゼットカーゴ/アトレーワゴン:軽の老舗!
ダイハツ アトレーワゴン
ここからは軽自動車のワンボックスカーをご紹介していきます。こちらもタウンエースバンと同様にノーズ部を持ち、タイヤを車両前端に押しやっているハイゼットカーゴ/アトレーワゴンですが、エンジンはシート下に設置。
ボディサイズに余裕のある普通車と比較して衝突安全性能にシビアに対応しなくてはならない軽自動車ですので、ややクラッシャブルゾーンが広く取られてはいますが、それでもフロントにエンジンを搭載するスーパーハイトワゴン系の軽自動車よりも余裕たっぷりな室内空間が実現されています。
ダイハツ アトレーワゴン(2005年型)
特に、もはや高級セダン並の後席足元空間を確保しつつも、荷室容量がかなり余裕がある点は、スーパーハイトワゴン系では太刀打ちできない部分。ワンボックスならではの効率性です。
軽自動車ならではのボディサイズの小ささと、維持費の安さはかなり魅力的。乗用モデルでは全車ターボエンジン搭載とパワフルなため、これ1台でなんでもこなせてしまうマルチさが嬉しいところですね。
ダイハツ ハイゼットカーゴの荷室寸法
荷室長 | 1,860mm |
4名乗車時荷室長 | 955mm |
助手席前倒し時床面長 | 2,630mm |
ハイルーフ荷室高 | 1,235mm |
標準ルーフ荷室高 | 1,115mm |
荷室幅 | 1,375mm |
ダイハツ アトレーワゴンのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 3,395mm×1,475mm×1,875mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,450mm | |
最大乗車定員 | 4名 | |
車両重量 | 1,010kg | |
燃費 | WLTCモード:14.2km/L | |
エンジン種類 | 直列3気筒ターボ 658cc | |
エンジン最高出力 | 47kW(64PS)/5,700rpm | |
エンジン最大トルク | 91N・m(9.3kg・m)/2,800rpm | |
駆動方式 | 後輪駆動(フロントMR) | |
トランスミッション | 4速AT | |
新車価格 | 1,530,000円(消費税抜き) |
■【軽自動車】スズキ エブリイ:軽量ボディと多ブランド展開が特徴
スズキ エブリイワゴン
なんとスズキからエブリイ/エブリイワゴンとして販売されるだけでなく、日産からNV100クリッパー/NV100クリッパーリオ、マツダからスクラムバン/スクラムワゴン、三菱からミニキャブバン/タウンボックスと、4ブランドから商用・乗用合わせて8車種が販売されているという幅広い供給体制が特徴のエブリイ。
長年のライバルであるハイゼットカーゴ/アトレーワゴンとのライバル関係によって、室内の使い勝手や荷室容量では、もはや差がほとんどないほどに切磋琢磨が続けられています。こちらもボンネットをノーズ部に持ってはいますが、エンジンは前席下に配置したセミキャブオーバー型となっています。
スズキ エブリイワゴン 荷室
乗用モデル同士の比較では、ややヤンチャさも演出されているアトレーワゴンに対して、落ち着いた雰囲気が特徴的なエブリイワゴン。カラーバリエーションの豊富さではアトレーワゴンに軍配が上がりますが、エブリイワゴンもカーキやパープルなどの特徴的な色をラインナップし、選べる楽しさがありますね。
こちらも乗用モデルでは全車ターボエンジン搭載で、軽自動車規格をギリギリまで使い切ったスペース効率の高さによる角張ったボディでも余裕のある動力性能は普段使いにピッタリ。
なんでも飲み込む荷室と合わせ、頭上も足元も余裕のある後席は、お客様をお出迎えしても恥ずかしくないほどです。
スズキ エブリイの荷室寸法
荷室長 | 1,910mm |
助手席前倒し時床面長 | 2,640mm |
荷室高 | 1,240mm |
荷室幅 | 1,385mm |
スズキ エブリイワゴンのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 3,395mm×1,475mm×1,910mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,430mm | |
最大乗車定員 | 4名 | |
車両重量 | 970kg | |
燃費 | WLTCモード:13.4km/L | |
エンジン種類 | 直列3気筒ターボ 658cc | |
エンジン最高出力 | 47kW(64PS)/6,000rpm | |
エンジン最大トルク | 95N・m(9.7kg・m)/3,000rpm | |
駆動方式 | 後輪駆動(フロントMR) | |
トランスミッション | 4速AT | |
新車価格 | 1,580,000円(消費税抜き) |
過去にはこんなワンボックスも! 印象深いモデルをピックアップ
■マツダ ボンゴ:一世を風靡したワンボックスカーの先駆け
マツダ ボンゴ800(1966年型)
小型のワンボックスカーとしてベストセラーとなり、ワンボックスカーという呼び方が浸透する前は、同種の車のことを総じて「ボンゴ」と呼んでいたほど、人気と知名度の高さを誇ったボンゴ。
1966年デビューとなる初代は、軽自動車で先行していたキャブオーバースタイルのサンバーと同様、リヤにエンジンを配置した後輪駆動でしたが、その優れたスペースユーティリティ性は瞬く間に市場を席巻。
残念ながら2020年7月をもってダイハツからのOEM車にモデルチェンジされ、マツダ独自開発のボンゴの長い歴史は途切れてしまいましたが、それでも車名としてはいまだに続いています。
■三菱 デリカスターワゴン:オフロードもガンガン走れる1BOX?!
三菱 デリカスターワゴン(1997年型)
グッと高められた最低地上高にプロテクター類が勇ましいデリカスターワゴンは、それまでも存在したワンボックスカーの4WD仕様を、クロカン四駆風味にまで昇華させた特徴的なモデルです。
スターワゴンの後継モデルであるデリカスペースギア、及びその後継で現行モデルであるデリカD:5ではフロントエンジン方式にスイッチしますが、スターワゴンはキャブオーバースタイルのワンボックス。
ワンボックスの利点を活かした室内の余裕と、その走破性能の高さという組み合わせは他では得られないもので、カルト的な人気を誇りました。
まとめ
三菱 デリカスターワゴン(1990年型) クリスタルライトルーフ
ワンボックスカーについてざっとご紹介してきました。
衝突安全基準が厳しさを増す中、フロントにクラッシャブルゾーンを持ちにくいワンボックスカーはややラインナップが減っていますが、それでもその使い勝手の良さは、ユーザーには替えの利かない存在となっていることでしょう。
これからも進化し続けるであろう、ワンボックスカーに注目したいところです。