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さらば、農道のNSX!ホンダ・アクティ トラックを徹底解説!

さらば、農道のNSX!ホンダ・アクティ トラックを徹底解説!

農村のNSX、ホンダ・アクティ トラックが、2021年6月で生産停止になってしまいます。今回は、エンジンをミッドシップに積んだ軽トラ、と言う独特なメカニズムを持ったアクティ トラックを、詳しく見ていきましょう!

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農道のNSXと呼ばれた軽トラ、アクティ トラック

《写真提供:response》ホンダ T360 & アクティ トラック

悲報!全てのホンダファンが泣いた!まさかの軽トラ撤退!

2019年の年末、全国のホンダファンの間に一つのニュースが駆け巡りました。

そのニュースとは、「ホンダが軽トラックの生産化から、2021年6月を持って撤退」と言うものでした。多くのホンダファンは、このニュースを悲報として受け止めました。

ホンダファンから、「農道のNSX」として親しまれていた軽トラ、ホンダ・アクティ トラック。そのアクティ トラックが、もう無くなってしまうなんて!

他メーカーのファンの方から見れば、「なんでたかが軽トラの生産停止でそんなに騒ぐんだ?」と思うでしょう。しかし、ホンダの歴史に詳しいファンにとっては、「軽トラ」とは数あるホンダのモデルのなかでも、特別な車種になるのです。

ホンダ初の四輪車は、DOHC4気筒エンジン搭載のスーパー軽トラだった!

《写真提供:response》ホンダ T360

今や、世界に冠たる自動車メーカー、ホンダ。

しかし、今から60年前のホンダは、オートバイメーカーとしては世界一の地位を確立したものの、4輪車への進出は今だ果たせていませんでした。しかも、4輪への進出を夢見るホンダにとって、悪夢のような法律が審議されていました。

その法律とは、当時の通産省が用意していた「特定産業振興臨時措置法案(特振法)」と呼ばれるもので、簡単に言えば「自動車メーカーは、今、既に自動車を作っている会社以外は新規参入は禁止!」という内容でした。

背景としては、日本の経済成長に伴って求められる貿易の自由化に伴い、高い技術をもつ外国のメーカーが日本に進出して来たら、弱い日本の自動車メーカーはひとたまりもない!だから、自動車メーカーの合併を強制して、規模を大きくしてそれに対抗しよう!と言うものがありました。

日本は、今でこそ世界の自動車産業の中心地となっていますが、60年前は世界で戦える自動車メーカーなんて1社も無かったのです。

その法律に烈火のごとく怒ったのは、ホンダの創業者の本田宗一郎でした。もちろん、特措法がホンダの重要な企業目標である4輪車への進出の妨害になる事も本田宗一郎が怒る理由ではありました。

ただそれ以上に、終戦直後、雨後の竹の子の様に全国に乱立したオートバイメーカーの過酷な競争を勝ち抜いて、自由競争で世界一のオートバイメーカーにまで上り詰めた本田宗一郎にしてみれば、自由な競争を阻害するような通産省の発想そのものが気に食わなかったのでしょう。

とは言え、国と戦っても勝つのが難しいのであれば、法律が成立してしまう前に四輪車の生産という「既成事実」を作ってしまわなければなりません。そこで大急ぎで開発されたのが、2シーターオープンスポーツのS360と、軽トラックのT360でした。

結局、スポーツカーのS360は、より大きな排気量をもつS500に設計変更するために発売が遅れ、先に軽トラックのT360が1963年8月に発売されました。ホンダとして、初めて世に問うた4輪車でした。

また、T360は軽トラックにも関わらず、水冷4気筒DOHCエンジンという、ほとんどレーシングカーのようなエンジンを搭載した異色のトラックで、「人と同じ事はやらない」と言う、今に続くホンダ伝説の幕開けに相応しい、非常にユニークなクルマでもありました。

2シーター・ミッドシップの軽トラ、アクティは農道のNSX!

《写真提供:response》アクティ トラック

ホンダの軽トラの大きな特徴は、T360に続く2代目の軽トラであるTN360以来の伝統である、「ミッドシップレイアウト」にあります。現行型アクティ トラックでも、水冷3気筒660ccエンジンは、荷室の真下、リアアクスル前方のミッドシップの位置に搭載されています。

よって、アクティ トラックは、スペックだけ見れば、「2シーター・ミッドシップ」となり、うおっ!NSXと変わらないじゃん!と言う事で、アクティ トラックは一部のファンから「農道のNSX」という異名を付けられています。

今は無きスバルの軽トラ「サンバー」は、エンジンをリアアクスルの後方に搭載するリアエンジン・リアドライブレイアウトだったので、こちらは、「農道のポルシェ」と呼ばれました。

農道のNSX 対 農道のポルシェ。この言葉だけで、クルマ好きなら心が熱くなりますよね。

ホンダ・アクティとスバル・サンバーのユニークなメカニズムは、今でも多くのクルマ好きの心を捉えていて、沢山の動画がYoutubeにアップされている程です。

《写真提供:response》アクティ トラック ミッドシップレイアウト エンジン

ミッドシップレイアウトを軽トラに採用するメリットは、やはり、トラクションが確保しやすいと言う点にあるとホンダは主張しています。

元来、トラックと言う車種は空荷の時と荷物を満載した時の重量の変化が激しいクルマ。荷物を満載した時は大丈夫だけど、空荷の時はリアタイヤに荷重がかからず、悪路でのトラクションが不足してしまう事があります。

そんな時でも、リアアクスルの直前に重量物のエンジンがあるミッドシップレイアウトは、空荷でもリアタイヤにトラクションが掛かりやすいのです。また、クルマの2大重量物である乗員とエンジンが前後に分散して配置される事によって、重量バランスが良くなるというメリットもありました。

また、乗員とエンジンが離れている事で、エンジン音が静かになったり、エンジンの熱がキャビンに上がってこないと言う、快適性の面でのメリットも見逃せません。

軽自動車の2大メーカーであるダイハツとスズキの軽トラは、コンベンショナルなフロントエンジン・リアドライブのレイアウトを採用しているのに比べ、アクティ トラックは非常にユニークなメカニズムを持っていると言っていいでしょう。

現行型のアクティ トラックはどんなクルマ?

6代目と何が変わったの?

《写真提供:response》7代目 アクティ トラック

現行型の7代目アクティ トラックは、2009年12月に販売が開始されました。6代目アクティ トラックからの最大の変更点は、フロントタイヤの位置でした。

6代目アクティ トラックは、軽自動車規格の拡大によってフロントタイヤの位置をセミキャブオーバー化し、ホイールベースを延長。セミキャブオーバー化による衝突安全性の向上や、ロングホイールベース化による走行安定性の向上を図ってのものでした。

しかし、この変更が、従来からアクティ トラックを愛用していたヘビーユーザーから大不評を買ってしまいます。それは、ロングホイールベース化によって「小回りが効かなくなった」というもの。

細くてきついカーブが多い農道で、今まで通れた道を6代目アクティ トラックで通ろうとすると、大回りして脱輪してしまうという事象が発生し、ユーザーから強いクレームが寄せられました。

また、セミキャブオーバー化で荷台長が短くなってしまった事で、今まで積めていた荷物が詰めなくなった、というクレームも寄せられ、6代目アクティ トラックは販売面で大きなハンデを負う事に。

衝突安全性能や走行性能を向上するため、ホンダとしては良かれと思って実施したセミキャブオーバー化は、ユーザーニーズとマッチしない、という厳しい結果になってしまいました。

《写真提供:response》6代目 アクティ トラック

6代目が不評だったため、7代目アクティ トラックは当初ホンダの予定していたスケジュールから前倒しで開発が進められました。

モデルチェンジでは、フロントタイヤの位置が6代目のセミキャブオーバー型から、5代目と同じキャブオーバー型のデザインに変更されました。ホイールベースを短縮し、6代目で不評だった小回り性の向上と荷室の拡大を図るためです。

キャブオーバー型に戻す事で、ホイールベースは1,900mmと6代目から実に500mmも短くなり、最小回転半径は3.6mにまで縮小されました、そのため、農道での取り回し性も向上し、弱点だった荷台の長さも拡大されました。

《写真提供:response》アクティ トラック

《写真提供:response》アクティ トラック

また、6代目ではドライバーの右足の足元にフロントタイヤハウスがあったため、ペダル類を左側にオフセットして配置しなければなりませんでした。

しかし、キャブオーバー化によってタイヤハウスがドライバーのお尻の下に移動したため、ペダルのオフセット配置が解消され、足元も広くなりました。

キャブオーバー化以外の、ミッドシップマウントされたエンジン等の基本的なメカニズムは6代目からのキャリーオーバーとなり、良好な重量バランスによる高い操縦性等の美点はそのまま引き継がれています。

《写真提供:response》アクティ トラック

《写真提供:response》アクティ トラック

ライバルと比べるとどうなの?

《写真提供:response》スズキ・キャリイ

《写真提供:response》ダイハツ・ハイゼットトラック

アクティ トラックのライバルは、スズキ・キャリイとダイハツ・ハイゼット トラックの2車種。アクティ トラックとキャリイ・ハイゼットの大きな違いは、エンジンレイアウトにあります。

キャリイとハイゼットがコンベンショナルなフロントエンジンリアドライブ方式なのに対し、アクティ トラックはミッドシップレイアウトとなっています。そのため、物理的にはアクティ トラックの方が良好な重量バランスとなっており、空荷時のリアタイヤへのトラクションのかかり方も良好になっています。

軽トラで最重要視される積載性については、軽トラらしく、各社のホームページに収穫時にみかんを入れる「みかんコンテナ」を何個積めるのかが公表されています。それによると、キャリイとハイゼットはみかんコンテナを54個積載可能。アクティ トラックはわずかに及ばず52個となっています。

また、京間のタタミ一畳は、3車種とも平置きで積載可能、りんごコンテナは3車種とも48個積載可能となっています。

りんご箱ではわずかに差がありますが、基本的な積載性能については3車種ともに大きな違いはありません。やはり、厳しい競争のなかで、各社ともにトラックの基本性能を磨き続けてきた結果、高いレベルで実力が均衡する状況になっています。

出典:ホンダ公式ホームページ:アクティ トラック

一方で、駆動方式となるとアクティ トラックとライバルとで差が付いてきます。

キャリイ、ハイゼット共に、4WDとATの組み合わせを選ぶ事ができますが、アクティ トラックでは4WDモデルはMTのみの選択となっています。

価格を重視するユーザーが多い軽トラでは、車両価格の安いMTモデルの比率が高いとは言え、軽トラユーザーの高齢化が進む現在の市場環境において、4WD+ATのモデルが選べないと言う点は、アクティ トラックの弱点と言えるでしょう。

出典:ダイハツ公式ホームページ:ハイゼット トラック

また、最近注目されている安全装備についても、アクティ トラックはライバルに差を付けられています。キャリイ、ハイゼット共に衝突被害軽減ブレーキを搭載するグレードを設定していますが、アクティ トラックには設定自体がありません。

衝突被害軽減ブレーキは高齢者ドライバーの事故防止に大きな効果があると言われており、ドライバーの高齢者比率の高い軽トラでは、ぜひ装備したい安全装備。

アクティ トラックに衝突被害軽減ブレーキの設定がされていないのは、世界に先駆けてエアバッグの実用化を果たした、安全性の追求に非常に熱心なホンダなのに、非常に残念な状況ですね。

なぜアクティ トラックは消えていくのか?

アクティ トラックが生産停止となり、ホンダが軽トラ市場から撤退するには、いくつかの理由があります。そのなかで最も大きな理由は、軽トラ市場が縮小し続けていると言う事でしょう。

軽トラのユーザーの多くは、地方で農業や漁業のような一次産業に従事する人達ですが、現在の日本においては農家も漁師も減り続けています。また、お百姓さんも漁師さんも高齢化が進んでおり、軽トラ市場の縮小のスピードは、今後加速していく一方である事が想定されます。

そんな市場環境において、さらに、ダイハツとスズキと言う強力なライバルが存在する中で、ホンダが軽トラ市場の3番手として生き残るのは困難、という経営判断は納得できるものがあります。

また、ホンダ内部の事情とすれば、軽自動車のセグメントで2種類のプラットフォームとエンジン・トランスミッションを開発し続けて行くのは費用負担の面で難しい、という状況もあります。

今まで述べてきた通り、アクティ トラックはミッドシップレイアウトと言う軽トラにしては特殊な構造のため、専用のプラットフォームが必要で、他のホンダの軽自動車とは共用ができません。また、エンジンもアクティ トラックだけ、かなり古い設計のエンジンを使い続けています。

《写真提供:response》アクティ トラック

ダイハツやスズキは、軽トラ用のプラットフォームを軽バンにも流用していますし、海外で販売する小型トラックのプラットフォームとしても活用しています。さらに、エンジンやトランスミッションも、基本的にはFFベースの乗用車と共用化を図っています。

つまり、より販売台数の多いライバルの方が、プラットフォームやエンジンの共用化でコストダウンを追求しているのに、数が出ないホンダはそれができない、という事です。

これは、大量生産による生産コストの削減が最も重要な自動車ビジネスにおいては、決定的に不利な材料となります。

このような不利な材料が積み重なり、ホンダは軽トラックからの撤退を決定したのでした。

《写真提供:response》ホンダ・N-VAN

一方、ホンダは軽バン市場においては大きな一手を繰り出しています。2018年に発売したN-VANがそうです。

N-VANの先代モデルのアクティ バンは、アクティ トラックと共通のミッドシップエンジンレイアウトのプラットフォームでしたが、N-VANはそれを一新。

N-BOXを始めとする、他のホンダの軽乗用車と共通のFFプラットフォームを採用しました。結果、最新型のエンジンやホンダセンシングのような予防安全装備もN-BOXからの流用が可能になり、現代の自動車としての性能は一気に向上しました。

N-VANはホンダらしい「攻めた」軽バンで、FF車ベースのシャシーを活かした徹底的な荷室の低床化を追求し、荷室の高さでライバルに大きく差を付けています。

また、完全に折り畳めて、フルフラットな床を作れる助手席や、Bピラーを配した広大な助手席側開口部など、FRシャシーをベースとするライバルでは構造上実現が難しいレイアウトを様々に盛り込んだ、非常に特徴的な軽バンとなっています。

《写真提供:response》ホンダ・N-VAN

では、N-VANをベースにホンダは新しい軽トラを開発する事はあるのでしょうか?

非常に高い確率で、それは無いと言えます。何故なら、N-VANはフロントにエンジンを搭載しているため、どうしてもボンネットが必要になってきます。そうなると、ボンネットの長さ分、トラックの荷台の長さが短くなります。また、ホイールベースも長くなるため、小回り性も犠牲になります。

これでは、ユーザーから不評だった、6代目アクティ トラックの特徴そのままになってしまいます。そんな軽トラ、誰も買ってくれないですよね。

そのような状況を考えると、残念ですが、ホンダが軽トラ市場に戻ってくる事はなさそうです。

まとめ

《写真提供:response》アクティ トラック

大げさな言い方かもしれませんが、ホンダが軽トラックから撤退すると言う事は、日本と言う国の一つの時代が終わったと言う事なのかもしれません。ホンダが初めて発売する4輪車として軽トラックを選んだのは、1960年代の日本ではトラックが最も求められていた、と言う事でもあります。

それから60年、日本の産業構造も人口構成もすっかり変化し、軽トラックの市場は縮小を続けています。もう、沢山の軽トラが必要とされない時代が来てしまったのです。そのような背景を受けて、ホンダの軽トラック市場からの撤退は決定されました。

しかし、だからと言って、クルマとしてのアクティ トラックの輝きが無くなってしまう訳ではありません。

本田宗一郎の「乗り物で人々の暮らしを便利にしたい」と言うホンダ創業の精神を最も忠実に受け継いでいるのは、バイクのスーパーカブと、アクティ トラックです。

そんな、本田宗一郎の思いが詰まった、しかも、軽トラなのにミッドシップなんて言う面白いメカニズムを積んだアクティ トラックは、ただの実用車としてだけでなく、「農道のNSX」として、これからも多くの愛好家の元で末永く愛されていく事になるでしょう。

どうですか、そんなアクティ トラック、あなたも一台買ってみませんか?今なら、まだ新車が手に入りますよ!

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