「滑らない」こと以外も知ってる?スタッドレスタイヤとは
日本グッドイヤー アイスナビ7
冬が来たら、雪が降ったらスタッドレスタイヤ… 毎年の習慣なので、あまり深く考えずにスタッドレスタイヤを利用している方も多いかもしれませんね。
しかし、遠目にはサマータイヤと変わった様子がないのに、どうして冬になるとスタッドレスに履き替えるのか、スタッドレスは何がすごいのか、疑問に思ったことはありませんか。
まずはスタッドレスタイヤの成り立ちや特徴から、おさらいしていきましょう。
■その名の通り、スタッドレスはスパイクを廃した冬タイヤ
WRC用 ピレリ製スパイクタイヤ
スタッドレスタイヤとは「スタッド(鋲、金属製のスパイク)」が「レス(ない)」というその名が示す通り、スパイクを備えない冬用タイヤのことです。
ひと昔前、1980年代までは、冬用タイヤといえばスパイクタイヤが有名でした。しかしスパイクタイヤは、凍結路などでの性能はよかったものの、乾燥路面では鋲が路面のアスファルトを削ってしまい粉塵を発生させるなど、問題点も多く、環境意識の高まりに伴って使用が制限されるようになっています。
スパイクタイヤの代わりとして、鋲を用いることなく雪道や凍結路でのグリップ力を追求した「スタッドレスタイヤ」が、冬用タイヤの主流として普及し、進化を続けているわけですね。
■スパイクなしでどうやって凍結路でグリップできるの?
《画像提供:Response 》横浜ゴム アイスガード6 試乗会
氷をしっかりと掻くというイメージがつきやすいスパイクタイヤと違い、スタッドレスタイヤは一見サマータイヤと似たような見た目で、どのように冬の路面に対応しているのかわかりにくい部分もあります。
スタッドレスタイヤ特有のメカニズムを、ひとつひとつ見ていきましょう。
凍える寒さでも密着「しなやかなゴム」
《画像提供:Response 》横浜ゴム アイスガードSUV G075
スタッドレスタイヤに触れてみたり、手で押し込んでみたりするとわかりやすいのが、そのゴムのやわらかさ。本来ゴムは硬くなりがちな低温域であっても、しなやかさを維持できるゴムが使われています。
そのため、積雪路面や凍結路面など、路面温度が低い状況であっても、スタッドレスタイヤはサマータイヤよりもしっかりと路面に密着することができるわけですね。
雪をしっかり掴む「太くて深い溝」
《画像提供:Response 》横浜ゴム アイスガード6
タイヤの溝についてあまりじっくり見る機会は少ないかもしれませんが、サマータイヤと並べて比べると、スタッドレスタイヤのトレッド面(タイヤが地面に接する面)に入っている縦横方向の溝は、太く深く彫り込まれていることがわかります。
この溝の太さや深さは、主に雪道を走る際に、やわらかな雪をしっかり踏み締めつつ掴むはたらきがあります。
接地面の水をかき出す「多数の切れ込み(サイプ)」
《画像提供:Response 》ミシュラン X-ICE SNOW VTSサイプ
また、こちらもトレッド面の特徴ですが、スタッドレスタイヤには細かな切れ込み(サイプ)が無数に入っていることも特徴的です。スタッドレスタイヤは溝が入っていない面がかなり少なくなっているほどに、そこかしこに細かなサイプが入っていることが一般的です。
このサイプは、切れ込みの中にタイヤと地面の間の水分を吸い込むことでより路面を強くグリップするはたらきを持ちつつ、先ほどご紹介した溝と同様、雪や氷に対してしっかりと掴むはたらきも兼ね備えた部分です。
夏タイヤと違う!スタッドレスタイヤの寿命はここをチェック
よく見てみると、サマータイヤとスタッドレスタイヤが意外と違うことはお分かりいただけたはず。しかし、スタッドレスタイヤは構造が違うだけでなく、使用可・不可を分ける基準もサマータイヤとは違っていることは、意外と知られていない部分かもしれません。
お持ちのスタッドレスタイヤを安心して使用するためにも、シーズン到来よりも早めにスタッドレスタイヤの健康状態をしっかりチェックしておきましょう。
■残り溝の深さが新品の50%以上あるか
《画像提供:Response 》ミシュラン EverWinterGripコンパウンドを採用した溝底部
スタッドレスタイヤの使用限界の判断基準のうち、サマータイヤとは基準が大きく異なる部分が、残り溝の深さです。
サマータイヤでは「スリップサイン」という溝内部の膨らみを確認することで、1.6mmという使用限界の溝深さがわかるようになっていますが、スタッドレスタイヤでは、冬用タイヤとしての使用限界が新品時の溝深さの50%と定められています。
新品時の溝深さに対して50%の深さには「プラットフォーム」という膨らみが設けられており、このプラットフォームが1箇所でも露出していると、冬用タイヤとして認められなくなるので注意が必要です。
タイヤのサイドウォール部にある△マークで示されるスリップサインに対し、プラットフォームは上矢印マークが目印。プラットフォームが露出して冬用タイヤとして認められなくなったスタッドレスタイヤであっても、スリップサインが現れるまではサマータイヤとして使用可能です。
■ゴムが経年劣化などで硬くなっていないか
《画像提供:Response 》ポルシェ 718ケイマン
スタッドレスタイヤの性能を支える大事な部分が、ゴムのやわらかさであることはお伝えしました。しかし、新品時にはしなやかだったゴムも、使用状況や保管状況に応じて段々と硬化が進んでしまうことは避けられません。
硬くなってしまったゴムでは路面に密着できないので、さまざまなスタッドレスタイヤのメリットが台無しになってしまいます。
そのため、使用の前に、スタッドレスタイヤが硬くなってしまっていないかを確認しておきましょう。タイヤ専門店などで硬度計を用いて計測してもらえますので、尋ねてみると良いでしょう。
■変形やひび割れはないか
《画像提供:Response 》ひび割れの入ったタイヤ
冬季以外はしまわれていることが多いスタッドレスタイヤだけに、保管時の状況によっては真円でない、デコボコがあるなど変形してしまっている場合や、知らない間にひび割れやキズがついてしまっている場合もあることでしょう。
これらの異常は、冬用タイヤとしての性能が低下するだけでなく、タイヤの正常な働きを阻害し、最悪の場合は事故にもつながりかねません。残り溝が十分にあって、ゴムがまだしなやかであったとしても、場合によっては廃棄した方が良いでしょう。
判断が難しい場合は、タイヤ専門店などで相談してみましょう。
【冬が来てからじゃ遅い!】スタッドレスへの交換はいつすべき?
■初雪の前でも路面凍結の可能性も!
《画像提供:Response 》ポルシェ マカン
積雪地帯でないドライバーなら、初雪を目安にしてスタッドレスタイヤを装着している方も多いのではないでしょうか。冬がやってきたことを強く感じさせてくれる初雪ではありますが、路面の凍結はそれよりももっと前から発生するおそれもある点に注意が必要です。
おおよそ気温が3℃以下になると、路面凍結が発生する可能性が高いといわれます。
スタッドレスタイヤがサマータイヤに比べて優っているのは積雪路面での走破性だけではなく、凍結路面での滑りにくさも注目しておきたい部分。本格的な冬シーズン前の急な路面凍結などでは、凍結防止剤の散布が間に合っていない可能性も考慮しておく必要があるでしょう。
せっかくスタッドレスタイヤは持っているのに、まだ交換してなかったから凍結路面でスリップ事故!なんて悲しい結果を導かないためにも、早めのスタッドレスタイヤへの交換がおすすめされますね。
■積雪が少ない地域でも、近年では異常気象も怖い
《画像提供:Response 》横浜ゴム アイスガード6試乗会
お住まいの地域では雪は降っても積雪はないし、凍結も滅多にしないからスタッドレスなんてなくても大丈夫!とお思いの方でも、油断は禁物です。
近年では東京都心であっても積雪・凍結によって数多くの車がスタックしてしまうケースもあるなど、これまでの常識が通用しにくい突然の異常気象も見受けられます。
ちょっと山道に入ったり、都市部であっても日光が当たらない日陰などでは意外と凍結している部分もあることも。安心して運転するためにも、冬にはやはりスタッドレスタイヤの装着がおすすめです。
■【オススメ】初雪予想時期の1ヶ月前を目安に履き替え
《画像提供:Response 》横浜ゴム アイスガード6
あまり早すぎても乾燥路面で無駄にスタッドレスを傷めてしまうし、遅すぎてスリップ事故を起こしたくもない… なかなか難しいスタッドレスタイヤへの交換時期ですが、おすすめしたいのは初雪予想時期をもとにした交換です。
世間一般的には、初雪のニュースなどを機にスタッドレスタイヤへの履き替えを検討される方も多いと思われますが、その結果その時期になると、カー用品点やタイヤ専門店などにはスタッドレスタイヤを求める顧客が殺到し、作業待ち時間がかなり長時間にわたってしまうことも。また、人気のタイヤサイズなどでは、買おうにも在庫がない!なんてことにもつながりかねません。
そういった混雑を避けつつ、いざ積雪の前にタイヤ表面の慣らしも済ませておくことができるよう、初雪が予想される1ヶ月前程度にスタッドレスタイヤへ履き替えておくと安心でしょう。
今年の初雪予想時期は、平年の様子と今年の様子を合わせて、秋頃からタイヤメーカーのホームページなどでも確認が可能です。大まかな混雑予想なども合わせて確認できる場合があるので、スケジュールも立てやすくなっていますね。
まとめ
《画像提供:Response 》ブリヂストン ブリザック VRX2
スタッドレスタイヤの基本情報と注意点、履き替えの時期に関してご紹介してきました。
温暖な地域にお住まいの方なら、冬季であってもスタッドレスの必要性をあまり感じることなく運転されることも多いかもしれません。しかし、凍結路面などでスリップ事故を起こしてから後悔することのないよう、スタッドレスタイヤの適切なメンテナンスと、早めの時期での交換がおすすめです。
よくある質問
■スタッドレスって、積雪地域の車以外はいらないでしょ?
スタッドレスタイヤがその効果を発揮するのは路面積雪時だけでなく、路面凍結時にもしっかりと対応ができます。普段雪の降らない地域や、都市部であっても、早朝や深夜、日光の当たらない日陰では凍結する場合もあり、サマータイヤではスリップして立ち往生してしまう場合も。安全のためにも、スタッドレスタイヤへの履き替えがおすすめされます。
■スタッドレスで乾燥路面を走っても大丈夫なの?
スタッドレスタイヤは雪道専用タイヤのような印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、乾燥路面や凍結のない濡れた路面でも問題なく走行が可能です。ただし、場合によっては車の挙動や乗り心地がサマータイヤと異なることもあり、サマータイヤほどの快適性がないと評価される場合もあります。
■もうスタッドレスは持ってるけど、あと何年使えるの?
タイヤ公正取引協議会による試験によれば、適正に保管された新品スタッドレスタイヤなら、3シーズン程度は性能を保っていることが確認されています。保管環境にもよりますが、残り溝やタイヤ硬度などの基準を満たすなら、数シーズンは使用に問題なさそうですね。心配なら、タイヤショップなどで冬が来る前に確認をしてもらうとよいでしょう。