長い歴史の終焉。ザ・ビートルは生産終了してしまいました
フォルクスワーゲン ザ・ビートル カブリオレ(米国仕様) ファイナルエディション
「フォルクスワーゲン(Volkswagen)」という社名は、ドイツ語でこそ既に定着していますが、その意味は実は「国民車」という、かなり重大な意味を持つ言葉。
そして、そのフォルクスワーゲンが生産した国民車の第一号こそ、ビートルだったのです。
初代ビートルの崇高かつ実用的、合理的なコンセプトとは異なり、2代目、3代目ではレトロルックの変わり種として販売されていたビートルはしかし、新鮮味のない形ばかりとなっていた現代の自動車業界に吹いた新風として、世界的に人気になりました。
やや煮詰めの甘かったニュービートルに比べて、実用性もビートルのデザインの再現度も向上したスキのない後継モデルのザ・ビートルは、8年という、ビートルとしては短めのライフスパンを終え、後継車のないままモデル終了となってしまいました。
なぜ、人気があったザ・ビートルは生産を止めてしまったのか? 正確な理由はフォルクスワーゲンしか知り得ませんが、一緒に想像してみましょう。
■なぜビートルは消えた:3ドアしかない利便性の低さ
フォルクスワーゲン ザ・ビートル エクスクルーシブ
スタイル優先のレトロルック車としては、イギリスのMINIも挙げられますよね。そしてリバイバルした新生MINIと新生ビートルに共通していたのは、どちらもハッチバックボディの3ドア車しかラインナップしてこなかったことでした。
初代ビートルと初代MINIの登場は時間的に近いものではありませんが、大衆向けに少しでも安く作らなければいけない工業製品ですから、大型車のように後部座席用のドアは設けられず、前席左右のドアだけで当然でした。
しかし、3代目となった新生MINIに、3ドアのイメージを保ちつつもやや全長を伸ばして5ドア化したモデルが登場。後部オーバーハングが長く冗長な印象もありますが、荷室容量も向上するなど、5ドアではユーティリティ性まで高められました。
普段後部座席に人を乗せなくても、荷物をサッと置いたりする時にも役立つ後部ドアは、やはりあると便利なもの。MINI 5ドアは瞬く間に人気になりました。
しかし、対抗しようにもビートルのデザインの特徴はその美しい円弧を描くルーフライン。デザインを崩さずに5ドア化するのはかなり困難だったと見られ、MINIに持って行かれた販売台数を取り返すことは難しいと判断されたのではないでしょうか。
■なぜビートルは消えた:やや飽きも見えたか?アイコニックなスタイル
フォルクスワーゲン ザ・ビートル Rライン
もちろん、2代目、3代目と洗練が進んだとはいえ、基本的なフォルムは初代のビートルをイメージさせる丸みを帯びたデザイン。
その基本のフォルムに対して、ヘッドライトは丸目で、ディテールはレトロで、とデザインのハードルはどんどん高まる一方ですので、4代目ビートルとして、革新性のあるコンセプトがなかなか生み出せなかったのではないでしょうか。
■なぜビートルは消えた:VWはEVシフトを明確にしているから!
フォルクスワーゲン ID.3
もしかすると一番有力な原因が、VWが急激に推し進めている電動車両へのラインナップ更新かもしれません。
既存のガソリン車に電池とモーターを載せただけのEVではなく、EV専用のプラットフォームをベースにしないと、激化していく一方のEV性能競争では勝ち抜けられません。
そのため、新たに製作したEV専用のMEBプラットフォームを活用したEVをこれからどんどん打ち出して、単価を下げていきたいフォルクスワーゲン。自社内で同様のハッチバック系車種を減らしておかないと、その変化に勢いがつかないと考えたのかもしれません。
歴代ビートルを振り返る。実はたったの3世代!
フォルクスワーゲン ザ・ビートル 懇親会 2012年
初代ビートルは、日本でも誰もが知っている有名な自動車だとは思いますが、それは世界中で同じこと。ビートルは、世界車名別総生産台数ランキングで、同社のゴルフに次ぐ史上4位に位置すると言われるほどほどの大ヒットカーなのです。
それぞれの代について、簡単にご説明していきます。
■初代 タイプ1(1938〜2003年)様々な時代のアイコンであり続けた
フォルクスワーゲン タイプ60(1942年型)
フォルクスワーゲンが国民車として、初めて製作した車がビートルであることは既にお伝えしましたが、その歴史は戦前にまで遡るものです。
稀代の自動車設計士であのポルシェを設立したフェルディナント・ポルシェによる設計は、アドルフ・ヒトラーによる国民車構想によって生み出されたもの。当時一般大衆は自家用車の所有など夢のまた夢という時代に、国民全員が所有できる低廉さ、堅牢さ、4人が乗れる室内の広さ、それに高性能さを兼ね備えた野心的なプロジェクトとして誕生しました。
カブト虫のような流線的なフォルムは試作段階から確立されていましたが、当時はビートルは車名ではなく、タイプ〇〇のような事務的な名前で呼ばれていたそうです。
フォルクスワーゲン ビートル 1302 S ワールドチャンピオン(1972年型)
戦前に試作車は完成し、生産できる準備が整えられて、実際に第二次世界大戦中にも少数が製作されたのですが、ドイツ国民がビートルを手にすることができたのは終戦後。
本格的な生産は1945年から始まり、1947年にはオランダ向けを筆頭に国外輸出も開始。それ以降全世界を席巻する空前の大ヒット車種となれたのは、ポルシェ博士の秀逸な設計による先進性が、大衆車、または「国民車」としての役目を存分に果たせるものだったからに違いありません。
本国ドイツでは1978年で生産を終了しているのですが、なんとメキシコでは2003年まで生産を続行。たった20年足らず昔までこの形そのままに生産されていたなんて驚きですよね。
■2代目 ニュービートル(1998〜2011年)リバイバルしたカブト虫
フォルクスワーゲン ニュービートル(2004年型)
始まりは1994年のデトロイトモーターショー。同社のコンパクトハッチバック、ポロをベースに生み出されたビートルそっくりのコンセプトカー「コンセプト ワン」が大好評となり、レトロデザインへの自信を深めたフォルクスワーゲンは1995年から開発を開始。
わずか2年あまりの開発期間を経て、「ニュービートル」の歴史が始まったのでした。
なんといっても、初代ビートル以上にキュートなデザインは、半円がモチーフにされたもの。初代のルーフラインは、実は半円ではなくそこそこ平らなのですが、デザイン重視に振り切ったニュービートルでは前席頭上を頂点とした滑らかな半円のキャビンが特徴的でした。
フォルクスワーゲン ニュービートル ターボ(2004年型)
ベースとなったゴルフよりもノーズが短くなったことでエンジンなどの機器類がキャビン側に押し出され、ダッシュボードが驚くほど長かったのも特徴の一つ。
また、ダッシュボードに花を飾れる一輪差しを装備するなど、遊び心満載の仕上がりで、ニュービートルは一躍人気者になりました。
■3代目 ザ・ビートル(2011〜2019年)ファニーなだけじゃない実力派
フォルクスワーゲン ザ・ビートル スペシャル・バグ(2014年型)
見た目のキュートさで人気を勝ち取った2代目とは異なり、3代目はかなりパッケージングから真面目に設計されていることがわかります。
よりオリジナルに忠実な平らに近づいたルーフラインや、キュートさだけでなく精悍さも持ち合わせるようになった車両前後の表情などは、実用車として選んでも後悔することのない高い実用性もあって、より幅広い層にアピールすることに成功していました。
フォルクスワーゲン ザ・ビートル ブラックスタイル(2017年型)
特にリヤスタイルなどは、前輪駆動車ゆえに仕方ないとはいえやや無理のあったニュービートルに比べて、かなりオリジナルに忠実な造形に。
ニュービートルのように「かわいい」というよりも、どっしり落ち着いて、曲面がエレガントな印象のリヤスタイルですね。
2代目でもそうだったのですが、3代目も特別仕様車や限定色の設定がモデルライフ中に多数設定され、コレクター心を刺激しました。しかも現在のところこの3代目がビートル最後のモデルとなっているのですから、将来のコレクターズアイテムとなることは間違いなしでしょう。
フォルクスワーゲン ザ・ビートルのスペック
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,285mm×1,815mm×1,495mm | |
---|---|---|
ホイールベース | 2,535mm | |
最大乗車定員 | 4名 | |
車両重量 | 1,300kg | |
燃費 | JC08モード:17.6km/L | |
エンジン種類 | 直列4気筒ターボ 1,197cc | |
エンジン最高出力 | 77kW(105PS)/5,000rpm | |
エンジン最大トルク | 175N・m(17.8kgf・m)/1,500-4,100rpm | |
駆動方式 | 前輪駆動(FF) | |
トランスミッション | 7速DCT | |
新車価格 | ー |
VW ビートルの今後の見通し。もうビートルは帰ってこないの?
フォルクスワーゲン ID.BUZZ(右) タイプ2バス(左)
現時点では、フォルクスワーゲンからはビートル後継車についての公式な発表はされていません。
先述の通り、フォルクスワーゲンはラインナップの電動化に取り組んでいますので、ガソリン車としてのビートル復活の可能性は限りなく低いでしょう。
EV用プラットフォーム、MEBを利用して、ビートルのデザインを引き継ぐ小粋な車が登場してくれることを願うしかできないのですが、もっと具体的な復活例がデビュー間近かもしれません。
近年フォルクスワーゲンが継続的にアピールしている、レトロチックなミニバンのコンセプトカーが、いよいよ電動パワートレインを提げて登場するのではという噂が囁かれています。
これは、ビートル直接の後継車ではありませんが、初代ビートルのフレキシブルなシャーシを利用して作られたタイプ2バスの現代版となるようなキャラクターがもたらされる見込みで、こちらが人気になってくれれば、EVビートルへのハードルも下がりそうですね。
VW ビートルの中古車価格まとめ
■タイプ1/ビートルの中古車は
VWフェスト14 出展車両
タイプ1とビートル、車名が異なれど基本のボディが同一の初代ビートルは、もはや完全にクラシックカーかつコレクターズアイテムと化している面もあり、中古車価格もかなり高め。
2020年9月現在、タイプ1は中古車平均価格が税抜き1,420,000円、メキシコ生産車が含まれるビートルでも中古車平均価格が1,133,637円と、どちらも年式を考えればかなり高価な価格設定となっています。
メカ的にシンプルで直しやすいとはいえ、完全にクラシックカーの領域ですので、維持にもお金がかかりそう。本気でおしゃれを追求するには覚悟が必要そうです。
■ニュービートルの中古車は
フォルクスワーゲン ニュービートル RSi(海外仕様 2001年型)
ニュービートルは一転、大人気だったこともあってか下落幅も大きく、2020年9月現在ではニュービートルの中古車平均価格が税抜き363,637万円、カブリオレの中古車平均価格が654,546円となっています。
在庫台数はカブリオレも合わせて69台しかないのですが、特別モデルの設定も多かった2代目。上の画像でご紹介している限定車のRSiなどは、現在でもコレクターズアイテムのため、もし中古車市場で出会えたならば奇跡というようなグレードです。
■ザ・ビートルの中古車は
フォルクスワーゲン ザ・ビートル ブラックスタイル(2017年型)
ザ・ビートルは、まだまだ高年式の程度の良い車も多いので、2020年9月現在の中古車平均価格は税抜き1,336,364円、カブリオレはやや人気で2,363,637円となっています。
興味深いのは、ザ・ビートルの在庫台数は、2020年9月現在の時点においてすでに73台、カブリオレに至っては3台しか見当たらないこと。
もはや生産終了翌年の現時点からコレクターズアイテムと化してしまっているのでしょうか? 今後も中古車市場で注目が必要です。
まとめ
フォルクスワーゲン ザ・ビートル カブリオレ(米国仕様) ファイナルエディション
とかく実用性が重視されがちな現代の自動車において、肩の力を抜いてリラックスして付き合えそうな稀有なキャラクター性を有していたビートル。
3代目は車名通り、「これぞ」ビートルという仕上がりだっただけに、生産終了は残念でなりませんね。ザ・ビートルが気になる方は、程度の良い車両が手に入る今のうちにぜひ運命の出会いを探してみてください。
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よくある質問
■ビートルの生産終了はいつ?
実用性もビートルのデザインの再現度も向上したスキのない後継モデルのザ・ビートルは、ビートルとしては短めの8年というライフスパンを終え、後継車のないまま2019年に生産を終了しました。
■ビートルの今後の見通しは?
現時点では、フォルクスワーゲンからはビートル後継車についての公式な発表はされていません。レトロチックなミニバンのコンセプトカーが、いよいよ電動パワートレインを提げて登場するのではという噂が囁かれています。